第72話 男女差別
アンナの誘拐がわかったあと、私達は冒険者ギルドに向かった。もちろん、晩御飯は個包装にしてマジックバックの中に入れている。それができるぐらいには落ち着くことが出来た。
それでも、怒っている雰囲気だけはあったのか冒険者ギルドに入ると人混みが割れた。一直線に受付まで向かい、
「ギルド長に話がある」
とだけ伝えた。何かを察したのか、受付の人はすぐにギルドの奥の方へと向かった。しばらく待つとギルドの応接室へと案内された。
応接室に入ると、ヴェルトスさんがいつものように待っていた。ただし、その顔には困惑が浮かんでいた。それもそうだろう。おそらく、ヴェルトスさんと別れてから一時間も経過していないからね。
「さっき別れたばっかりじゃないか。もう陽だってくれてるし一体どうしたって言うn」
「アンナが誘拐されました」
案の定さっきぶりのことを切り出してきたヴェルトスさんの声を遮り、俺は本題を切り出した。俺の言葉を聞いたヴェルトスさんは驚いたように目を見開いた。
「一応聞くが、たちの悪い冗談ではないよな?」
「冗談でそんなことを言うと思う?」
俺はつい反射でマナを放出してしまう。そんな俺の様子を見たヴェルトスさんは少し冷や汗を流しながら、謝る。
「私が悪かった。そんな冗談を言うわけないな。ただ、信じたくなかっただけだ」
そう言ったヴェルトスさんのは額に手を当て、背もたれにどっぷりと身体を預けた。
「あいつが動き出したか……」
「……っ!何か知ってるんですか?!」
俺は身を乗り出して、ヴェルトスさんに聞く。
「まあ落ち着いてくれ。実は、オリヴィアが筆頭魔法使いになった時も同じようなことがあったんだ」
そう言って、ヴェルトスさんは話し始めた。
かつてオリヴィアが筆頭魔法使いになった時は非難轟々だったそうだ。というのも男女差別が今よりも酷く、女性の筆頭魔法使いは師匠が初だった。そのためか、一時期大規模な反対運動――デモのようなもの――が怒ったそうだ。その筆頭が、ラファイエットという男だったそうだ。その件は丁度、首都に魔物が迫ってきており、冒険者が対処できなかったものを師匠が軽々と処理して周りから認められたという事で落ち着いた。後日、魔物について調べてみると、それらはラファイエットが呼んできたものということが分かった。すぐさま捕らえようとしたが足取りがつかめず、現在まで放置されるに至った。
「あの件以来音沙汰もなかったからどこかで野垂れ死んだかと思っていたが、今になって顔を出してくるとは……」
ヴェルトスさんは頭を抱えながらそう言う。なるほど、どんなことがあったのか。でも、一つだけ疑問がある。
「どうしてその人が今回の犯人だと思ったんですか?」
「理由は二つある。一つ目はこの手口だ。メモから察するに、これは計画的なものだろう。だとしたら、この状況ができた要因はなんだと思う?」
「……魔物の異常」
ルリアーナが低い声で言い放つ。
「そう、彼は過去のことからわかる通り、魔物を操る術を持っている。その魔物だって、ラファイエットの策略と考えていいだろう。二つ目は君たちが女性だからだ。それだけで、彼が動くには十分だ」
活躍するのは許せない、理由はお前が女だから……か。男尊女卑も甚だしい。
「そんなの……そんなのってないよ!」
ルリアーナはその目に涙を浮かべながら叫んだ。
「最低だよ!そんなくだらない理由で、アンナが連れ去られたんだよ?!」
「ルリアーナさん……」
宥めようとするヴェルトスさんを無視して、ルリアーナは続ける。
「女の子が冒険者として活躍して何が悪いの?!男の子だけしか活躍しちゃダメなの?そんなわけないじゃん!」
「……その通りだよ。別に女性だけ活躍しちゃいけないって訳じゃない」
「じゃあ」
「でも、世の中そんなに甘くない」
ルリアーナの言ってることは正しい。実際この国だって、男女平等を謳っている。けど、国民には、深く男女差別の文化が根付いている。今回の件や、学校でのことがその最たる例だろう。
「友達の女の子捕まったから助けて、協力してと言っても協力してくれる人がいるかどうか……。しかもその女の子が活躍している冒険者だって聞いたら尚更ね。そうでしょ?ヴェルトスさん」
俺の言葉に、ヴェルトスさんは深く頷いた。
「認めたくは無いですが、それがこの国の現実なんですよ」
俺とヴェルトスさんに現実を突きつけられ、ルリアーナは言葉を失った。悲しいことだが、これが現実なんだ。
「もちろん、私たち冒険者ギルドは全身全霊で調査をさせてもらう。しかし、一番の情報源である冒険者たちの助力が期待できないとなるとどこまでできるかどうか……」
アンナを助けるためには、まずラファイエットという人物を知ること、そして居場所の調査だ。それでやっとスタートラインに立てる。
冒険者たちの協力がない以上、俺たちが自分でやるしかない。情報集めから、だ。果たしてそれが完了する頃にアンナは無事なのだろうか。
「そんなってないよ。そんなのって……」
涙を流しながら発せられた言葉は応接室に響き渡った。
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