第70話 後処理

 ルリアーナの魔法によって傷がすべて回復したアンナを抱えて、ラインハルトさんの援護へと向かう。こっちの方は新古魔法を使わなくても対処できそうだ。普通の魔法を使うには手をかざさなくても使えるからね。今まで二人で釣り合っていた均衡も、四人となれば崩れる。数分経つ頃には、魔物たちのせん滅を終えていた。


「カルラじゃないか。どうしてここに」


「説明すると長くなるんだけど……」


 俺はラインハルトさんとルリアーナに俺が来た経緯を説明した。


「そんなことが……ありがとう。帰ったら調べてみるよ」


「これからどうするんですか?」


「今回の作戦は中止だ。一旦帰って体勢を立て直す」


 聞く話だと、戦いはすさまじいものだったらしい。現場に残っている死体の数がそれを物語っていた。とにかく、死人が出てなくてよかった。ふと、ラインハルトさんの隣にいる男が、私の抱えているアンナのことを凝視していた。アンナの服は戦いのさなかでぼろぼろとなっており、上半身は装備の影響で問題ないが、下半身……特に脚のタイツにできた傷からは、白い肌がちらちらと覗いてた。なるほど。


「見るのやめてくれる?というか、あなたは誰なの?」


 俺はその男の視線が通らないようにアンナを隠しながら聞いた。


「俺ぇ?俺はルーファスだよ。てか見てねーし」


 見たくなる気持ちは同じ男としてわかるのだが、アンナをそういう目で見るのはやめてほしい。


「この人は、一流冒険者らしいよ」


 彼の自己紹介にルリアーナが補足を入れる。そう言えば、ラインハルトさんといた時、いい動きはしてたような……?


「とりあえず、ギルドに戻ろうか」


「それなら任せてほしい」


 ラインハルトさんの言葉に、俺は手を上げて反応をする。というのも、複数人同時に運ぶことができる『テレポート』ができるようになったからだ。新古魔法でやれば、自分だけではなく、周りの人を運ぶことができる。恐らく五十人ほどまでなら問題なくいけるはずだ。


 抱えているアンナをルリアーナに私、俺は魔法の準備をする。新古魔法の不便なところは両手を使わないといけないってところなんだよなぁ。せめて片手ならいいんだけど……。ん?今森の奥の方に人影が見えたような?


「どうしたの?」


「いや、何でもない」


 気のせいだろう。俺も疲れてるし、幻覚が見えただけだ。それに、魔法はもう完成する。


「行くよ。『テレポート』」


 俺たちは光に包まれ、次の瞬間には、ヘルゲンの門周辺に来ていた。突然三十ちょっとの人間が現れたことに衛兵は驚いていたが、ラインハルトさんの姿を見ると、何か納得したかのように落ち着いた。やっぱり支部長とはいえ、ギルド長ってすごいんだな。


 そのまま街に入り、冒険者ギルドの応接室へと向かう。他の冒険者とルーファスっていう人はそこで別れた。


「ふぅ……」


 ラインハルトさんは、応接室の椅子に座ると大きく息を吐いた。先程の戦いで大分疲れたようだった。少し体を落ち着かせていると、ギルド職員が紅茶を人数分持ってきた。そう言えば、


「先にアンナを家に連れ帰ってもいいですか?」


 さすがに寝ている人をずっと連れまわすわけにはいかない。疲れて意識を失ってしまったんだろうし、ベッドで休ませてあげたい。


「いってくるといい」


 ラインハルトさんに許可を取り、『テレポート』を使って王都にある自宅へと帰る。アンナを抱えてベッドに寝かせ、紙とペンをとり、文章を綴る。


「お疲れ様。冒険者達は一度ギルドに帰ったよ。一度撤退するみたい。私たちはヘルゲンの冒険者ギルドで少し話をしてくるから、家でゆっくり疲れを癒してて。夜までには帰る」


 それだけ書いて、近くのテーブルに置いておく。何かの衝撃で落ちてしまわないように、軽く重しを置いて『テレポート』を用いて冒険者ギルドに帰る。


「寝かせてきました」


 応接室に帰ってきて、ラインハルトさんと対面の席に座る。


「それで、これからどうするんですか?」


「とりあえず、カルラが言っていたドゥルガの森の情報を持っている人物を探し出して調べてみるつもりだ。そのあとは、ドゥルガの森を再び調査し、残りはその後決める」


 それから今後の方針を話し、王都の冒険者ギルドに行って話をすることになった。『テレポート』を使い、王都の冒険者ギルドに向かう。ヴェルトスさんに会うと、すでに尋問は終えた後の様だった。


「どんな情報が出ました?」


「それが……」


 ヴェルトスさんが聞き出した情報は、現状とほぼ一致していた。森の主となる魔物たちの上位種が大量発生し、そのほとんどが異常状態になっていた。報告しなかった理由は、私たちが活躍しているのが許せなかったから、女なんかを雇っている国や冒険者ギルドに仕返しがしたかったかららしい。理由が子供らしく、苛立ちを覚える。


「情報源も特定しています」


 名前まで吐かせたそうだ。そのことを聞いたラインハルトさんは、ギルド職員の『テレポート』を使ってヘルゲンへと帰った。情報源となった男を捕まえてさらに深掘りするらしい。


 ちなみに、今回の件に関わった人は全員冒険者資格を剥奪するらしい。それ相応の処罰だろう。


「それにしても、怪しいですね」


 ここまでタイミングよく魔物の異常がみられるだろうか。何者かが裏で糸を引いている可能性が高い。そのようなことを伝えると、冒険者ギルド内でも同じ考えらしい。


「とにかく、恐らく狙われているのは君たち三人だ。今後も気を付けてくれ」


 その言葉を最後に、冒険者ギルドを後にした。だが、その気づきはすでに遅かったのだと、思い知らされることになる。

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