第69話 新古魔法

 冒険者ギルドには、ある程度の規則が存在する。討伐した魔物の素材は冒険者ギルドに売ること、受けた依頼は途中であきらめず無理な場合は報告すること、といった感じにだ。その中に、異変があればすぐに報告すること、が含まれている。ここでいう異変は、本来いないはずの魔物がいた、変異種がいたなどが含まれる。冒険者ギルドはその報告を受け、異変が起こっていると判断すれば、依頼を出して調査、解決をする。仮に報告を怠った場合、一般市民だけではなく、同業者の命を奪うことにだってつながってしまう。もちろん、アンナやルリアーナにも。


「そんなことは、この人たちはやったんだよ」


「という話なんだけど、本当かね?」


 俺の話を聞いたヴェルトスさんは、男二人に詰め寄った。


「……はい」


「……彼らを捕縛、その後事情聴取しろ。何としてでもすべてを吐かせるんだ」


 本人からの事実を確認したヴェルトスさんは周りの職員に指示を飛ばした。


「その人たちは人伝に聞いたらしいから、情報源もちゃんと調べておいてね」


 王都にいる人間が、ドゥルガの森に関することを知るはずがない。ヘルゲンや、その周辺の冒険者から聞いたに違いない。


「わかった。カルラさんは……」


「私は今からドゥルガの森に行く。私一人であれば、すぐに向かえるし」


 そう言って『テレポート』を使い、ドゥルガの森に向かった。彼女たちがドゥルガの森に向かってから四日は経過してる。もう異変と出会っているかもしれない。いや、もしかするともう……。


「そんなことを考えるのはやめよう」


 彼女たちなら生きているはずだ。そう簡単にやられる程弱くはない。


 俺は『跳躍』で飛び上がり、森の上まで来た。ここから、彼女たちを探すことが始まる。上空を飛び回り、彼女たちを探すのだ。少しの間飛び回り、ドゥルガの森の広大さに驚かされる。どうする、このまま飛び回っても日が暮れるだけだ。俺は、『感知』を使えることを思い出した。現代と古代の手法を混ぜた魔法、新古魔法を使って感知を展開し、ドゥルガの森を覆うように広げる。前に、遺跡で『感知』を使った時よりも広い範囲だが、新古魔法を使ったおかげか頭痛が発生することはなかった。『感知』を展開すると、一か所だけ生物が多い場所があった。恐らくそこにアンナ達がいるだろう。


 彼女たちの居場所に目星がついたため、そこに向かって『跳躍』で飛んでいく。近づくにつれて大気が震えている。激しい戦闘が起こっている証拠だ。さらに近づくと、魔物の咆哮が聞こえる。あと、もう少し!


 『感知』で反応があった場所に着くと、アンナが狼の魔物に乗っかられ、今頭をかみ砕かれようとする直前だった。俺は、風の刃を展開し、音速を超える速度で狼の魔物に向けて放つ。俺が放った風の刃は狼の魔物の身体を斬り裂き、仕留める。


 「大丈夫?!」


 俺は、地面に倒れているアンナに駆け付ける。アンナに近づくと、彼女は眼を閉じていた。間に合わなかったか!いや、呼吸はしている。生きてる。そのことだけで、俺は身体の力が抜けそうだった。だが、まだそんな場合じゃない。彼女は傷だらけだ。肩には応急処置をしたかのように布がまかれているし、細かい傷なら大量にある。それに、筋肉がぼろぼろだ。恐らく、肉体の許容以上の運動をしたんだろう。俺は彼女を抱えて周りを見渡す。


 ルリアーナは鳥の魔物と戦っており、ラインハルトさんは誰かと共闘して、鹿の様な魔物を戦っている。その他の人……あれは冒険者かな?その人たちは一か所に固まっておびえている。なるほど、彼らは戦力にならないのか。


 戦っている魔物に共通するのは、目が赤く光っており、口からよだれを垂らしているということだ。


 ラインハルトさんの方は大丈夫そうだし、とりあえずルリアーナの方へと向かって援護してもらいながら魔物を殺すか。


「ルリアーナ!」


「カルラ?!なんでここに」


「そんなことは良いから、ちょっと手伝って!」


 俺はルリアーナの方へと駆け寄りながら、近づく魔物を風の刃で斬り裂いていく。ルリアーナは、俺が抱えているアンナの様子を見て驚きの声を上げた。


「魔物は私が対処するから、アンナの治療をお願い!」


「わかった!」


 俺は、全員を包み込むように『マナ障壁』を展開し、風の刃を持って迫りくる魔物を薙ぎ払っていく。それにしても数が多い!どれだけ殺しても、次々と出てくる。しかも、無力な冒険者たちが居るから派手な攻撃はできない。よくもまあ、ここまで耐えてくれた。


「治療終わったよ!これからどうするの?」


「『マナ障壁』を少しの間だけ張っててほしい!」


 俺たちを包む『マナ障壁』をルリアーナへと引き継ぎ、新古魔法の準備へと取り掛かる。両手を前に出し、魔法陣を構築、マナを送り込む。身体から出ていくマナは粒子となって魔法陣へと吸い込まれていく。マナを吸収するたびに、魔法陣は輝きを増していく。輝きが最大にまで達したとき、イメージ毛現実へと顕現する。


「ヴォイド・オブ・スカッター」


 浮かんできた名前を口にすると、魔法陣から、魔法が放たれる。俺の視認する魔物の数分だけ、虚空を斬り裂く刃が出現し、首元へと向かっていく。周囲にいた鳥の魔物や狼の魔物は全て首を斬り落とされ、森の奥にいるものまで殺戮していく。


「すごい。その魔法って……」


「まだ終わってないよ。次はラインハルトさんの方へ行かないと」

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