第68話 現在と古代

「試してみよう」


 俺は一旦遺跡から出て近場の森に向かった。


「まずは現代の魔法」


 俺は掌を立っている一本の木に向け、マナを込める。マナによって顕現された風の刃は直立している木に向けて飛んで行く。風の刃は木を半分程切り裂き消失した。マナをそこまで込めてなかったからこんなものだろう。


「次は古代魔法」


 掌に魔法陣を展開し、魂から抽出したマナを魔法陣に込めていく。俺の身体からマナの粒子が出てきて魔法陣に吸い込まれる。魔法陣は回転を始め、マナによる魔法の顕現を始める。顕現された風の刃は飛んでいき、立っている木を真っ二つにして消失した。やっぱり、古代魔法の方が同じマナの量でも威力が高いらしい。


「最後に新しい魔法」


 俺は両手を出し、そこに魔法陣を展開する。古代魔法とは少し異なった魔法陣だ。そこに通常のマナを送り込む。魔法陣は輝き始め、風の刃が顕現する。イメージから現実となった風の刃は標的となる木に飛んでいき、数本の木を切り裂いて消失した。


「よし、できた!」


 あれから一日かけて俺は古代魔法と現代魔法を組み合わせた魔法の基盤を作り出した。とは言ってもそう簡単に扱えるものではなく、発動までに結構な時間がかかるし、両手を用いて行わないと行けないから複数個同時に扱うこともできない。構築する魔法陣から変えなければならなかったから本当に大変だった。まだ不完全なものだから三回に一回は失敗してしまう。


「けど、一歩目は踏み出せた」


 今すぐに完成させようとは思わない。実戦で使うことだって無理だろう。だけど、着実に進んでいる。魔法の実験を終えた俺は遺跡に戻り、アルノルトさんに話しかけた。


「少しやりたいことができたからここを離れるね」


「カルラ……強くなったな?一体何をしたかは知らんが……行ってこい。もうここでやることも無くなったんだろう?」


 アルノルトさんは何かを察してくれたみたいだ。アルノルトさんの許可を取り、俺は近場の森に戻った。ここに来た理由は、新たな魔法を魔物相手に試すためだ。


 森の中を進んでいくと、一匹のアネモスウルフと出会った。この魔物は確か素早いんだっけ?俺に気がついたアネモスウルフは、真っ直ぐに俺の方へと走ってくる。俺は、前もって準備をしていた風の刃を展開して、走っているアネモスウルフに向かって射出した。結果、風の刃に触れたアネモスウルフは消滅、その先にある木をまとめて消し飛ばしてから、風の刃は大気へと霧散した。


 あれ、強すぎじゃない?


 試した時も結構強いなぁって思ってたけど、ここまで強いとは思ってなかった。マナを前より詰めただけなんだけどなぁ。


 まぁでも、この魔法を溜めてる時は『マナ障壁』を展開することですら出来ないからそれも加味すると強すぎるってことは無いんだけど……それでも今みたいに前もって準備しとけばいいだけだからなぁ。


 俺はそれからマナの量を調節し、どれぐらいの消費でどれぐらいの威力が出るのかを検証し続けた。


「これぐらいかな」



 そういう俺の前には、首が切断されたアネモスウルフの死体が転がっていた。この死体を作り出すのに、マナの量を最初の十分の一程にする必要があった。そうじゃないと死体が消し飛んでたからね……。何はともあれ、それから再び試し続け、感覚を掴んで行った。RPGゲームとかで、道端の魔物を倒すと経験値が貰えるって言うけど、あれってこういうことなんだなって思ったよ。


 しばらく経って俺は冒険者ギルドに素材を売りに向かった。結構な量の魔物を倒してしまったからね。一人だと割と止まらないかも。


「素材の買取お願い出来ますか?」


「こちらのカウンターに素材を……ってえぇ!」


 受付の女性は、俺のマジックバックから出てくる素材の寮に驚く声を上げた。カウンターの上に山積みになった素材達……。うん、ちょっとやりすぎたかも。


「ええと……ちょっと計算してきますね」


 そう言って受付の女性はギルドの奥の方へと向かった。ちなみにギルドの中はざわついていた。そりゃあこれだけの素材が出れば注目も集めるよね。「すごい」って褒める声もあれば、「どうせパーティで狩ったやつを一人で持ってきただけだろ」って僻むような声も聞こえてきた。そんな中、一つだけ気になる言葉が聞こえてきた。


「女の癖に注目集めてんじゃねぇよ」


 意識を向けると、ギルドの隅にいる男性冒険者二人組から発せられた声だった。冒険者の中でも、男女差別ってあるみたい。


「それより聞いたか?」


 まずい。意識を向けてたからか、普通の会話まで聞こえてきた。このままじゃ盗聴に……


「ドゥルガの森のことだろ?」


 ちょっと待った、もう少しだけ聞いてみよう。


「それにしてもギルドのやつは馬鹿ばっかりだよな」


「報告もなかったら仕方がないだろ。とりあえず、これであの女二人とラインハルトはお陀仏だな。他の冒険者たちは運が悪かったってことでいいだろ」


「その話、詳しく聞かせてもらえるかな?」


 俺は男達が座っている席に手を着いて、にこやかな笑みを浮かべて言い放った。


「あ、誰だてめぇ。一体誰m」


「く、わ、し、く、聞かせてもらえるかな」


 俺はにこやかな笑みを変えず、身体からまなを放出してもう一度言った。


「「は、はい」」


 男達の話を聞いた俺はいつの間にか男達の胸ぐらを掴んでいた。


「こんな素材を持ってくるのはカルラぐらい……って何をしてるんだ!?」


 おそらく、素材の整理をしに来たであろうヴェルトスさんが、俺を見て声を荒らげる。


「何をしてる、はこっちのセリフですよ。こいつらとんでもないことをしてます」


 そう言って、掴んでいた男達を床に投げる。過去一番に怒ってるかもしれない。


「だから、俺たちじゃなくて」


「うるさい」


 言い訳を続けようとする男を魔法で縛り、黙らせる。


「はぁ……何があったんだい?」


 額に手を当てるヴェルトスさんに、男達から聞いた情報をかいつまんで説明した。

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