第67話 ヴィルヴェルの大群

 剣を振り、ヴィルヴェルの首を落とす。一匹一匹はそこまで強くない。苦戦もせずに処理できる程度だ。しかし、数が多すぎる。倒しても倒しても出てくる敵、同時に複数の方向から飛んでくる攻撃。その全てを避け、弾きつつ一匹ずつ処理していく。連戦に次ぐ連戦で、戦いに疲れが出始めている。


「ぐっ……!!」


 避けきれなかったヴィルヴェルの爪が肩に食い込む。肉が引き裂かれる痛みを我慢し、負傷してない方の手で剣を握りさらに追撃をしようとしてくるヴィルヴェル首を落とす。


「アンナ!」


「大丈夫よ!」


 心配するルリアーナに手を振り、自分は大丈夫だと伝える。ルリアーナに心配かける訳には行かない。彼女だって複数のイェラーキに囲まれながら戦っているのだ。一瞬の隙が死を呼びかねない。


 爪を突き刺された肩に触れる。傷口が熱を持ち、ズキズキと痛むが、出血はそこまで酷くない。私は装備の下に来ている薄い服を少し破り、傷口を縛る。よし、まだ戦える。傷の処置を終えると、再びヴィルヴェルが現れ、襲いかかってくる。


 迫りくる牙や爪を剣を使って弾き、斬り返す。が、体勢がよくなかったのか、一体の身体を浅く斬り裂くだけにとどまった。私の攻撃によって身体が傷付いたにも関わらず、怯むことなく再び攻撃してくるヴィルヴェルたち。彼らから今まで感じたこと無いほどの殺気を感じる。その殺気にこちらが怯んでしまいそうだ。私は、迫ってくるヴィるヴェルに蹴りを入れて少し距離をとる。持ち方が緩くなっていた剣を今一度しっかりと握り直し、迫りくる相手に備える。


 時間を掛ければかけるほど、相手は増援を受けて数が多くなる。気が付くとヴィルヴェルは七体ほどまでに増えていた。一斉に攻撃されれば私は死んでしまうだろう。流石に七匹の攻撃は退けない。ならば、こちらから攻撃するのみ!


 地面を蹴り、七匹の懐深くまで潜り込む。大胆かつ迅速に。剣を振りぬき、急接近したヴィルヴェルの首を断つ。返す刃でもう一匹の首も断つ。まずは二匹。


 私という異物に気が付き、即座に攻撃を仕掛けてくるヴィルヴェルの鼻を剣の柄頭で殴り、隙を生み出す。その隙を見逃さず剣を振りぬき首を断つ。攻撃してる際は隙ができる。その隙を最大限に活用し、私に攻撃しようとしてくる二匹のヴィルヴェルがいた。それぞれ、爪と牙を用いて攻撃を仕掛けてくる。私は突然しゃがみ、横に滑る。二匹にとっては突然私が消えたかのように見えただろう。私は立ち上がり、そのまま流れるように二匹の頭を斬り落とす。これで五匹。


 残りの数を確認しようとすると、突然右から殺気が向かってくる。急いでそちらの方を向くと突進してくるヴィルヴェルがいた。その距離わずか人一人分。避けることは不可能と判断し、剣を盾として使い、私の身体とヴィルヴェルの間に入るように構える。数瞬後、衝撃が走る。盾として使ったとはいえ、所詮は剣。攻撃を完璧に防ぐことはできず、軽い私の身体は吹き飛ばされる。剣を地面に突き刺し、転がる自身の身体を止める。


 右半身が痛む。最初に攻撃を食らったのも右肩だった。右半身の状態を見る。傷が開いたのか、右肩に巻いていた布は真っ赤に染まっており、触れると染み出た血液が付着した。腕や脚には衝撃を受け止めたからか、肌の色が青黒くなっている。


 前を見ると、倒し切れてなかった二匹に加え、七体の増援が来ていた。先程の攻撃も、増援のうちの一匹がしたものだろう。敵の数はどんどん増えていくのに対して、私の体力は減る一方だ。もっと早く動かないと。もっと早く仕留めないと一息つくことだってできない。


 早く早く早く早く速く速く速く速く速く速く――はやく!


「魔法はイメージが大事だよ」


 私が魔法を覚え始めたころ、カルラが言っていたことを思い出す。私は掌へとマナを集め、私のイメージを乗せる。思い出せ、あの時カルラが使っていた魔法を。徐々にマナが魔法へと変わっていく。出来上がったのは青白いもの。勢いよく弾けるそれは、かつてカルラが使った時よりも遥かに威力が小さいだろう。だが、それでいい。本来は、敵に流すものであろうそれを、私は自身の身体に流す。


「う……ぎ……!」


 全身の痛みに喘ぐ。自身の身体に雷が流れれば誰だってそうなるだろう。心臓の鼓動が早くなる。それに応じ、呼吸も早くなる。だがそれでも、疲れ切った筋肉は動こうとしてる。私がやろうとしてるのは、筋肉の強制稼働。人体に雷を流せばどうなるか私は知らない。けど、直感ではやくなると感じた。


 地面を蹴れば、今までの倍以上の速度で突き進む。剣を振る速度も速くなり、ヴィルヴェルの身体を容易く斬り裂く。戦えば戦うほど、私の身体は傷付いていく。ならば、私が倒れる前に相手を倒し切るのみ。それから、ひたすら斬り続けた。ヴィルヴェルの攻撃を何回も受けそうになった。しかし、はやくなった私は素早く避けることができる。気が付くと、屍の山が出来上がっていた。


「はぁ……はぁ……」


 連続戦闘による疲労と、雷による筋肉の強制稼働の反動により、私の身体はぼろぼろになっていた。だが、現実は残酷だ。


「ガルルルル……」


 倒し切ったと思ったのも束の間、ヴィルヴェルの増援がやってくる。他のところからの援護が来ないということは、私と同じ状況なのだろう。


 目の前から突進してくるヴィルヴェルの攻撃を真正面から受ける。避けることなんか、不可能だった。


 地面に転がる私へ追撃をするようにヴィルヴェルは乗っかってくる。前足を使って肩を抑え、起き上がれないようにしてくる。抵抗する力は、ない。剣を掴むことすらやっとで、この件を振ることすら敵わない。死……か。結局父親を見返すことはできなかったな……。


「えっ?」


 突然のことだった。私に乗っていたヴィルヴェルは風の刃によって切り刻まれ、身体のあらゆるところから血が噴き出す。生が感じられなくなったヴィルヴェルは、地面に転がる。


「大丈夫?!」


 その声は、本来ここにいないはずの人のものだった。また、助けられたな。そう思いながらそっと目瞼を閉じた。

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