第66話 群れ

「数が多いなぁ」


 ルリアーナは『マナ障壁』でイェラーキの鉤爪を弾き、圧縮した水魔法を飛ばして首を斬り裂く。倒したのはたった一体だけ。迫りくるイェラーキの一体に過ぎない。『マナ障壁』で攻撃を防いでいるが、このまま防ぎ続けると、マナ切れが起こるのも時間の問題だね。そこまで防ぐことはできない。


 『身体強化』で全身の筋肉を強化し、それと同時に防御力も高くする。


「はぁぁ!」


 拳を握り締め、飛んでくるイェラーキの頭を殴りつける。殴られ、地面へと叩きつけられたイェラーキの頭は衝撃によりつぶされる。後ろから飛びかかってくる鉤爪を硬くなった腕で防ぎ、そのまま殴る。ルリアーナの『身体強化』だからこそできる芸当だ。普通の『身体強化』では身体は硬くならないからね。離れているイェラーキは圧縮した水魔法で切り裂き、近づいてくるイェラーキは、拳で殴りつける。何度か攻撃を防ぎきれず、鉤爪で肌を斬り裂かれるが、回復魔法を使いその場で回復させる。


「それにしても本当に数が多い!」


 ルリアーナを中心に、イェラーキがどんどん集まってくる。本当は早く倒し切ってアンナの援護に行きたいけど、そんなことをしてる暇はなかった。水圧で切り裂き、強化した拳で殴りつける。それでもイェラーキの数は減っていかない。それどころか、増えていく一方だ。一匹一匹は弱いのに、その弱さを数で補ってきている。


 水の刃を複数個同時展開、射出し首を斬り裂く。この群れで面倒なところは、弱いとはいえある程度マナを込めないと斬り裂くことはできないということだ。それ故にある程度のマナを込める必要があり、常に手を抜くことはできないということになる。


「キュィィィ!」


 鳴き声を上げながら襲いかかってくるイェラーキを殴って仕留める。この量だと、マナがなくなる方が先かもしれない。周りを見渡してみるが、戦える人は全員別の敵と戦っている。とてもじゃないが、援護をもらえるような状況ではない。自分だけでどうにかしなければ。そのまま倒し続けていくと、だんだんと敵の数が減る。やっと終わりが見えてきた。最後の一匹を倒し、一息ついた瞬間、背中に強烈な痛みを感じる。


「キュィィィィ!」


 傷を治しながら後ろを向くと、今までとは二回りほど大きいイェラーキがいた。ただでさえ、人一人分ほどの大きさがあるイェラーキが、だ。


「こいつが親玉ってことでいいよね」


 そう言うあたしに、イェラーキが攻撃を仕掛けてくる。


 ――――――――――

「ちょっと多すぎるんじゃないですかね」


 ルーファスはそういいながら持っている両刃の斧で角の生えた魔物の首を落とす。タランドゥス、ルーファスが今しがた倒した魔物の名前だ。鹿に似た魔物だが、圧倒的に違うところが二つある。一つ目は筋肉量。通常の鹿と違い、タランドゥスは足の筋肉がすごく発達している。その足で蹴られたら一般人はひとたまりもないだろう。恐らく、後ろに控えている冒険者でさえ骨折する程度では済まない。もう一つは鋭利な角だ。鹿とは違い、角の先すべてが鋭くとがっており、一つ一つに高い攻撃力が備わっている。最初、冒険者が肩を貫かれて怪我一つで済んだのは幸運だった。


「確かに、数が多いな」


 そう言いながら見つめる先には、三匹のタランドゥスが堂々と睨みつけてくる。目を赤く光らせ、よだれを垂らしている。


 俺は虚空から取り出した大剣「テムノディアス」を構え、タランドゥスに向ける。


「私は左の二匹をルーファスは……」


「俺は残りの一匹をやればいいんだろ?任せろって」


 方針が決まり、剣を握りしめて突撃する。二匹のタランドゥスの間に入り、体を軸に、大剣を振り回して一回転する。流れるような手つきで、タランドゥスの首を切り落とす。ルーファスの方もさっさと首を切り落として始末したようだった。


「さて、それじゃあほかの援護を……」


「そうさせてくれないようだぜ」


 ルーファスに言われて気づく。辺り一面、タランドゥスの群れに囲まれていた。


「ふむ。うまく奴らの策にはまってしまったってわけか」


 幸いにも、冒険者たちに矛先が向くことはないようだ。少なくとも私たちが死ぬまでは、だが。


「死んでやるつもりもないがな」


「当然よ。これぐらいなら楽勝だろ?」


「楽勝かはわからないが……負ける気はしないな」


 ルーファスと私は背中合わせに相手と対峙する。私とルーファスの背中がトンッと触れ合った瞬間、タランドゥス達が襲い掛かってくる。迫りくるタランドゥス達の首を、首が無理なら胴を、それでも無理なら脚を薙ぎ払い、次々と無効化させていく。


「くっ……!」


 声の方を向いてみると、ルーファスがタランドゥスに乗っかられている状況だった。自前の斧で辛うじて角を防いでいるが、ルーファスの周りの地面は角によってえぐられていた。


「ふんっ!」


 大剣を下から振り上げ、タランドゥスの首を落とす。


「大丈夫か?こんな奴らに手間取るほど、お前は弱くないだろう」


 そう言って、地面に転がっているルーファスに手を差し伸べる。


「はっ、ちょっと手が滑っただけさ」


 そう言って、私の手を取り立ち上がる。それから、しばらくの間タランドゥスを斬り続けた。


「はぁ……はぁ……」


 いくら斬り続けても終わりが見えない。無尽蔵に湧き出てくる。ルーファスも肩で息をしているようなものだった。私は恐怖を感じ始めていた。いつになったらこれが終わるのか……と。

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