第64話 野宿
周囲の魔物を全て狩られ、戦闘音は鳴り止んだ。その頃には日が落ち始めており、今日はここで野宿をすることが決まった。天幕は各自が持ってくることになっていたため、私達は自分たちの寝る天幕を建て始める。
「天幕設営って初めてするんだよね」
ルリアーナはマジックバックから天幕の骨組みを取り出しながら言った。ちなみに、このマジックバックは今回の依頼を受けるにあたって、新しく買ったものだ。白金貨五枚という普通の人には出せないような金額だったが、私達はドラゴン倒した時の報酬があったため何も問題なく買うことが出来た。
「ここをこうして、これをここに……」
ルリアーナと一緒に天幕の骨組みを組み立て、上から布を被せる。最後に布の端を釘で地面に固定すれば簡易的な寝床となる天幕の完成だ。
寝床を確保したら次は晩御飯の準備である。とは言っても晩御飯は冒険者ギルドの方で準備してあるらしい。ご飯を受け取りに行くと、そこには列ができていた。みんな半日ほど戦ったため、疲れてご飯を食べたいのだろう。大人しく並んでいると、私に番が来た。指で二人分ということを伝えると、袋を二つ貰えた。
「どうぞ」
渡された袋の中には、干し肉と乾燥されたパンが入っていた。
「何が貰えたの?」
天幕の方に戻ると、ルリアーナがもらった晩御飯の内容を聞いてきた。
「干し肉とパンだったわよ」
私は袋から中身を取りだしながら言った。
「……ま、まあ冒険者っぽくていいじゃん!」
流石に予想外だったのか、少し戸惑いながらもルリアーナは私が貰った袋を受け取った。
「「いただきます」」
まずは干し肉。
「……塩辛い」
受け取った干し肉は塩辛く、そして硬かった。だが、それと同時に懐かしい感じもした。森に籠ってた頃、頑張って塩漬けにした肉がこんな味だった気がする。
気を取り直して、次はパンだ。
「……堅い」
保存が聞くように水分を極限まで抜いたからか、噛みちぎるのが困難だった。しかも、噛む度に口の中の水分が取られていく。
「これじゃあ流石に食べられそうにもないわね……」
「料理して食べ易くするしかないじゃん!」
そう言いながらルリアーナは調理道具をマジックバックから取り出す。
「……料理できるの?」
「カルラ程じゃないけど、あたしも料理ぐらいはできるよ」
そう言って彼女は大きい胸を張った。むぅ。
料理ができるという彼女は、その言葉通り、テキパキと作業を進めていった。魔道コンロに鍋を置いて水を入れる。沸騰したら色んな食材と干し肉を入れて、しっかりと煮込んだら簡易的なスープの完成だ。
ちょっとした器によそえば、スープはよりおいしそうになる。
「カルラが作ったのよりも出来は悪いけど、おいしいと思うよ」
私はスープをのどに通す。うん、これはこれでおいしい。
「おいしいよ。カルラのとは違ったおいしさがある」
言うならば、カルラはやさしい味、ルリアーナは素朴な味といった感じだった。それぞれの味によさがある。ルリアーナが作ったスープを飲む度に体が暖かさを増していく。夜とはいえ、もう夏だ。少し汗をかいてしまう。こんな時はお風呂に入りたいと思うが、今回は野宿のため、それはかなわない。
乾燥したパンを食べて、失われた水分をスープで補給していく。
そうやって食べ終わるころにはある程度おなか一杯になっていた。スープとはいえ、具材が結構多かったせいだろう。すでに日は暮れており、あたりには焚火の明かりしかなかった。場所によってはお酒を飲んでいるところだってある。
「一応ここは戦場だってのに……」
「まあ、いいんじゃない?魔物の気配も感じないし」
おそらく『感知』を使ったであろうルリアーナがそう言う。それならいいんだけどね。とはいえ、騒ぎも次第に静かになっていき、焚火の明かりが一つ、また一つと消えていく。
「私たちもそろそろ寝ようか」
『感知』を定期的に使い、周りに魔物が寄ってこないかを確認していたが、見張り役をほかの人に託し、私たちも寝ることにした。
翌日、起きてから天幕を片付け、移動を再開する。昨日と同じような魔物を遭遇し、であっては討伐して素材を回収する。アネモスウルフや、ヴィルヴェルのほかに、鳥型の魔物であるプティズやその上位種であるイェラーキ、鋭い角をはやしたラーフィや牙が鋭いレオネスなどとも出会った。ある程度進んで、再び野宿をする。支給される食糧は似たものが多かったから、再び料理をして、食事を楽しむ。いつの間にか、その食卓にはラインハルトさんも混ざっていた。
「ほんとにおいしいよ。干し肉も嫌いではないが、あれだけだと飽きるもんでね」
ルリアーナのスープを飲んだラインハルトさんはそんなことを言っていた。
「そういえば、進捗状況はどんな感じですか?」
ふと気になったので聞いてみた。
「予定通り……いや、予定より少し早く動けている。この速度を維持していけば、明後日ぐらいには討伐が終わる予定だ」
どうも、思ったよりも魔物を倒すペースが速く、それだけ早く進めているのだとか。
「君たちのおかげだよ」
「依頼ですから」
国からの依頼だし、やるしかない。
「明日からも頼んだよ」
そう言って、ラインハルトさんは去っていった。
翌日も、滞りなく魔物の討伐は進んでいく。問題が起こったのは、終わる予定であったその翌日のことだった。
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