第63話 ドゥルガの森解放作戦

 今回のドゥルガの森解放作戦は至ってシンプルなものだった。ここにいる三十人ほどで森中を動き回り魔物を殲滅していく。主がいなくなったため、魔物が生み出されることはほとんどない。つまり、討伐し続ければ、この森に魔物はいなくなるというわけだ。ただ、ドゥルガの森は広大なため、全ての魔物を倒し切るのに何日かかかってしまうだろう。


「倒した魔物の素材はどうなるんですか?」


 集まっていた冒険者の中からそんな質問が出てきた。


「素材は各自で回収後、こちらに一度集めさせてもらう。どの素材誰が貰ってきたかはしっかり記録するから報酬に関しては安心して欲しい」


 冒険者の問いにラインハルトさんはそう答える。


「わかったから早く行こうぜ」


 ルーファスは待ちきれないとばかりに声を上げる。


「それじゃあ、作戦開始」


 ラインハルトさんの掛け声とともに私達は森の中へと動き始める。とはいえ、魔物とずっと戦う訳では無い。


「前と違ってすぐに魔物は来ないんだね」


 そういえばそんなこともあったわね。あの時は倒しても倒しても無限に魔物が来てどうしようかと思ったわ。結局全部倒しきったのだけれど。


「今回は前みたいに異変がないといいんだけどね……」


「流石にないでしょ!」


 そんなことを話していると、狼の魔物の群れと出会った。確か名前はアネモスウルフだったかな。数は十体。相手が私の存在を認識した瞬間、私は動く。彼らには、まるで私が消えたように見えただろう。鞘に収まっている剣に手をかけ、一体のアネモスウルフに急接近、勢いよく剣を振り抜いて首を落とす。返す刃でもう一体の首を切り落とす。やっとのことで動き始める、私の方に向かって来たアネモスウルフの首に剣を突き刺し、息の根を止める。


 私と同時に動いたルリアーナは魔法で顕現させた水を薄くし、高速で飛ばすことによって三匹のアネモスウルフの首を切り飛ばしていた。


 私とルリアーナが三匹ずつ、計6匹を討伐。残りの四匹は、ルーファスが二体、他の冒険者が二体倒していた。ルーファスは予想通り、背中に背負っていた大きな斧を振り回し、アネモスウルフの身体を真っ二つにしていた。身体の動き、筋肉の使い方、斧の動かし方。その端々から彼が優秀な冒険者だということを感じる。それに、彼はマナを自身に流し、さらなる強化まで施している。


「こんなにも弱いのかよここの魔物はよぉ!!」


 もっと話し方が違えば良かったのに。とはいえ、彼の言ってることも一理ある。これぐらいの魔物であれば私たちが戦わなくても問題ないだろう。そんなことをラインハルトさんに伝えると


「確かに、君たちが戦う必要性は無いな。危険な時手助けをしてやってくれ」


 そう言われ、私達は警戒役へと回った。これで私達はは基本戦うことは無い。それから何回か魔物と遭遇したが、私達が戦うことは無かった。だからといって、私達のやることが無くなった訳では無い。


「ヴィルヴェルが出たぞ!」


 このように、彼らじゃ対処出来ない魔物が出てきた時、私達は戦う。ヴィルヴェル、そう呼ばれた狼の魔物は私を見つけた瞬間、低く唸った。この魔物は最初に戦ったアネモスウルフ上位種であり、四足歩行の状態で、人一人の大きさがある。そして多少の知性もある。ヴィルヴェルだけであれば戦いやすいが、この場にはまだ複数体アネモスウルフがいる。正直いって戦い辛い。そんなことを考えていると突然ヴィルヴェルは遠吠えを始める。するとその遠吠えを聞いた周りのアネモスウルフは一歩下がり、闘いに関与しない、という意思を見せた。


「これは……」


 聞いたことがある。ヴィルヴェルは自身が強者と認めた相手と戦う時、誰かに邪魔をされることを最も嫌がるという習性がある。おそらく、さっきの遠吠えはその合図だろう。つまり、このヴィルヴェルは私の事を強者だと認めたのだ。


 私はヴィルヴェルを睨みつける。他の冒険者たちもアネモスウルフのように一歩下がっていた。そうして私とこのヴィルヴェルの周りには決闘場のように周りから私たちのことを見ていた。


 私は鞘から剣を抜き、ヴィルヴェルを見つめる。数秒睨み合いが続き、ヴィルヴェルの前足が地面を蹴る。それと同時に、強化魔法をかけた足で、私も地面を蹴る。双方音速に近い速度で相手に近づいて行く。


 私とヴィルヴェルが交錯する瞬間、首元を狙い、剣を振る、ヴィルヴェルは私の剣を咥えて止め、鋭い爪で私に斬りかかってくる。私は迫り来る爪を紙一重でよけ、腕に強化魔法をかけ、思いっきり剣を引き抜く。鋭い歯でがっちりと噛み締めていたからか、ヴィルヴェルの歯が数本、剣と共に抜けていく。


 得物を回収した私は件を握り直し、構える。再び向かってるヴィルヴェルの爪を避け、私はヴィルヴェルの下へと潜り込む。剣を上に突き上げ、ヴィルヴェルの腹へと突き刺す。ヴィルヴェルは思いっきり私の方に向かってきたため、直ぐに泊まることが出来ず、自ら剣で腹を引き裂かれに行く。


 腹にしっかりと切れ込みが入ったヴィルヴェル身体から力が抜け、地面に倒れ込む。


「ふぅ……」


 私は剣に着いた血を振り払い、鞘の中に収める。


「お疲れ様」


 私とヴィルヴェルの決闘が終わるとルリアーナが近づいてくる。彼女は私の血まみれになった服に手を当て、魔法で装備を綺麗にしてくれる。こういうのを見ると、魔法が便利だなと思う。


 私の戦いを見ていた人達はアネモスウルフの討伐へと向かう。


「……ちと強すぎやしねぇか」


 ルーファスのそんな言葉が聞こえた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る