第56話 歴史的瞬間
本とのにらめっこを再開してから約一時間が経過しただろうか。
「こんなん無理だよぉ!」
俺は悲鳴をあげていた。何が無理かってなんでできないのかが分からないことが無理。理由が分かっていて、ただただ自分が下手とかなら理解できるじゃん?けど今回のは違うでしょ!
……やめよう。いったん離れてみたらいい考えが見つかるかもしれない。そういえば、アルノルトさんが古代魔法文明も調べといてくれ、って言ってたっけ。調べてみるか。
とりあえず、前どんなことを調べたかを整理しよう。前は、魔法の歴史について調べたんだっけ。生活を便利にするためのものがだんだんと人を傷つけるものとなっていった……みたいな話。
今回は別のことを調べよう。あ、これとか良さそうじゃない?俺は「ラクーバ旅ガイド」という本を手に取った。ラクーバっていうのはよくわからないけど、旅ガイドっていうことは古代魔法文明時代の都市か国かだろう。
本を開いてみると、予想通り古代魔法文明時代の都市の案内本だった。ちなみにこの本の著者もエリシアっていう人だ。この人って一体何者なんだろう。
ともかく、この本はラクーバの案内本だ。ここのお店のこんな食べ物がおいしいとか、この店のこんなお菓子がおいしいとか、ここの果物がおいしい……って食べ物のことばかりじゃない?エリシアって人は意外と食いしん坊だったのかもしれない。それにしても、古代魔法文明時代の食文化は今よりももっと発達しているようだ。メニューのレパートリーとかも今より多いらしい。とはいえ、現代日本の食文化には勝てないようだが。
そう言えば、この世界って砂糖という概念がないよな。蜂蜜とか、甘い果物とかはあるけど。サトウキビに似た植物とかってないのかな。今度調べてみよう。
「ん?」
ページをめくっていくと、俺はあるページに目が留まっていた。そのページには、ラクーバの街並みがきれいに描かれており、真ん中には大きな城が鎮座されていた。そして、俺はその城に見覚えがあった。
「アンベルク城」
俺の脳内の記憶と、本に描かれている大きな城はぴったりと合致した。もしかして、ラクーバってアンベルクのこと?あれ、これってすごい大発見なんじゃない?
俺は、アルノルトさんに報告しに行った。
「アルノルトさん、もしかしたら古代魔法文明時代のアンベルクに関する本を見つけたかもしれません!」
「ん?見せてみろ。どれどれ……ああ、これならもう国立図書館に貯蔵されてるぞ」
え?
「アンベルクの昔の名前がラクーバっていうのは……」
「すでに知れ渡ってることじゃな。冒険者学校の歴史の授業で習わなかったのか?」
「……」
俺はアルノルトさんに言葉を返すことなくエリシア書斎へと帰った。だって新発見だと思ったんだ。大興奮で伝えに行ったのに、冷水をかけられたみたい。いや、歴史の授業をまともに聞いてなかったのが悪いか。
気を取り直して、色々な本を読んでみる。
戦争の記録や、魔道具の本などもあった。ちなみに著者は全部エリシアっていう人なのだから驚く。特に戦争の記録に関しては驚いたよね。当時から約数百年間の戦争の数々を勝敗から兵隊の規模、そして被害の人数まで事細かく記されていた。面白いか面白くないかでいえば面白くはなかったが。
魔道具の本は、作り方や基本原理について説明されていた。魔術についてある程度理解を深めたつもりだったが、魔道具となるとさっぱりわからん。電源や、接続関係が分からないのだ。俺はもともと文系だったし、理解できないのも仕方がないのかもしれないけどさ。ん?魔道具を理解できてるルリアーナって実は理系寄りの人間だった?……それはないか。
それにしても、一つだけ気になったことがある。あらゆる本を読んだが、一つだけ今まで出てこなかった言葉がある。
魔物の存在だ。
魔石も、魔法石も存在する。けど、魔物だけ存在しないのだ。古代魔法文明時代、魔石というのは他の鉱石と同じく地中から掘り出されるものだった。そんな魔石を魔法石に加工して、魔道具や魔術などに用いていた。
でも今は違う。魔石は魔物から取り出され、魔物によって大きさが変わるものだ。決して地中から掘り出されることはない。
果たして、魔物はどこから来た存在なのだろうか。古代魔法文明時代には存在せず、今の世の中にはいる。ある一点から爆発的に増えたのか、徐々に増えたのか。動物の突然変異なのか、進化だったのか。あるいは、人為的に生成されたものなのか。
考えるより、聞いてみる方が早いかもしれない。そう思い、再びアルノルトさんのところへと向かう。
「アルノルトさん、魔物ってどうやって現れたの……って、え?」
書斎に入ると、アルノルトさんの掌に魔法陣が展開されていた。
「フロガ・エナ・ヘーパイストス、彼の者に火を付けよ」
アルノルトさんが詠唱をすると、アルノルトさんから発せられたマナの粒子が魔法陣に吸い込まれていき、魔法陣が回転し始める。
「『アナマティア』」
魔法名を言い切ったとき、魔法陣の回転は急激に止まり、その中心から炎が発せられた。その炎は掌の先にある、書斎に併設された暖炉へと向かい、そこに置かれた炭に火をともした。
「やった、やったぞ!ついに成功じゃ!」
アルノルトさんは、子供の様に両手を上げて喜んだ。
「これが、古代魔法文明の魔法……」
俺は歴史的瞬間に出会ったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます