第53話 最強を目指して
扉の横にある白い端末に手をかざし、鍵を開けて家の中へと入る。
「ただいまー」
「「おかえりー」」
家に帰ってくると家の奥にある部屋から二人の声が聞こえてきた。部屋に入ると、二人はソファに座ってくつろいでいた。
「何してたの?」
「ん~、さっきまで防具の手入れしたけど今は何もしてないかな。くつろいでる~」
そう言ってルリアーナは伸びをした。
「そう言えば師匠との話はどうだったの?」
「まあ、話したいこと話せたよ。ありがとうね、気を使ってくれて」
「いや、大丈夫よ。そう言う時間も必要だろうし」
アンナはティーカップに入った紅茶?を飲みながら答える。え、なにそれ。俺も飲みたい。今日の帰りに買ったのかな?
「そう言えばね、今日は二人にプレゼントを買ってきたんだ」
俺はそう言ってマジックバックから小さな箱と細長い箱を一つずつ取り出した。
「まずはルリアーナから」
俺は小さな箱を手に取り開ける。その小さな箱の中には初めてアンベルクに来た時、ルリアーナが欲しいと言っていた魔法石をあつらえた指輪が入っていた。
「え、買ってきたの?!」
「前に欲しいって言ってたからね。あの時とは違ってお金もあるし、いっかなって」
「ありがとう!一生大事にする!」
ルリアーナは俺から指輪を受け取ると目を輝かせて喜んでた。むっちゃ笑顔眩しいかも。初めて見たかもこんな笑顔。まあ、喜んでくれたならうれしいかな。
「次はアンナだね」
喜んで指輪を眺めてるルリアーナを置いて、アンナの方へと向き直る。俺は、先ほどルリアーナに渡した箱とは違う、細長い箱を手に取った。
「本当は指輪にしようかと思ってたんだけど……」
あんまりいいのが見当たらなかった。どれがアンナに似合うかなぁって考えてたけど、指輪だと、どうしてもルリアーナと被ってしまいそうで。
「これって」
「そう、ネックレスを選んでみたんだ」
チェーンは銀色で簡素なつくりをしており、チェーンの先には花を模した飾りがつけられ、真ん中には魔法石が埋まっている。花のふちにも小さく魔法石が埋めてあり、マナを入れると花のふちと真ん中がきれいに光るようなつくりとなっていた。
「ちょっと貸して」
俺はアンナからネックレスを受け取ると手をかざし、魔法石にマナを送る。うん、綺麗。一段と輝きを増したネックレスを持ってアンナに近づく。アンナを抱きしめるような形で後ろに手を回し、ネックレスを付ける。
「うん、やっぱりよく似合う」
アンナは元が可愛いんだ。変にきらびやかなものはアンナの邪魔をするだけと思って正解だった。こうやってアクセサリーを自分で選ぶのは初めてだったけど、うまくいってよかった。
「ありがとう。これ、可愛いね」
アンナも、ルリアーナと同じく喜んでくれたみたいだ。値段?そんなことは言わないよ。だって台無しじゃん。
「あ、アンナだけずるい!あたしもつけてもらいたい!」
「はいはい」
俺はルリアーナから指輪を受け取るとマナを流し込み、ルリアーナの指に通す。
「えへへ。ありがと」
なんかこれプロポーズみたいになってない?前世、友達の結婚式に行った時のことを思い出す。この身体で結婚することはあるんだろうか。いや、今はそんなこと考えなくていいかな。
「よし、そろそろ夜も遅いし、寝よっか」
そう言って、俺は寝室へと向かう。二人も俺の後を追いかけてくる。
色々なことがあった。この睡眠は、今までで一番深いものとなるだろう。一週間ずっと遺跡に閉じ込められて、帰ってきてからは寝る暇がなく、冒険者ギルドに行って、師匠と話をして、二人にプレゼントを渡して。本当に色々なことがあった。
結局、わからないこともある。あの遺跡についてもそうだし、天界のことも気になる。なぜ俺は生き返って来られたのかというのは、あのころからずっと疑問だった。師匠なら何か知ってるかもと思って聞きたかったけど、さすがにあの場では言い出せないしなぁ。また今度天界に行ったとき聞いてみよう。他にも、エリシアとアルバートについても気になる。これからも遺跡に行くことがあるなら出てきそうな名前だし。
ふと横で抱きしめてくるアンナの顔を見る。反対側にはルリアーナもいる。遺跡にいる間、何度も諦めかけた。もう無理だ、勝てないって。けどそんな時、二人は俺のことを支えてくれた。二人のことがもっと大好きになったし大切になった。
辛いこともあったし、苦しいこともあった。それでも、今回の冒険は得られるものがたくさんあった。
俺は体勢を変えて二人のことを抱きしめかえす。二人は驚いたように目を見開いた。なんだかんだ、俺から抱きしめるのはなかったしなぁ。驚くのも仕方がないよね。
今回の冒険で分かった。俺は弱い。確かに、マナの量では師匠も上回ってる。けど技量ではまだまだだってことが前の模擬戦の時に分かった。今回の冒険は何もかもが相手を下回っていた。マナの量も、魔法の技術も。
今回のことで決めたことがある。
「私は最強を目指す」
もう二度と満足いかない死を遂げないように。大切なものを守れるように。
「あたしたちを置いていかないでよね」
「私たちもついて行くから」
綺麗な月が輝く夜、シルトヴェルト共和国の首都、アンベルクの大通り沿いにある家の中で、三人の少女は静かに決意を固めた。
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