第52話 師匠が師匠でいてくれて
「え?別にいいけど……急にどうしたの?」
「少し話したいことがあって。とりあえずお店に歩きながら話そうよ」
俺はご飯を食べるお店へと歩き始める。師匠も、俺についてくる形で歩き始める。
「アンナとルリアーナは知ってるの?」
「何をするかまでは言ってないけど、たぶん気が付いてると思うよ」
多分最初に気が付いたのはルリアーナだろう。妙に聞き分けがよかったし。今頃アンナに説明してるんじゃないかな。
「そうか……。それで、話って何なの?」
「本題はお店に着いてから話すよ。結構大事なことだったりするし。それに久々でしょ?こうやって二人でご飯食べに行くの」
冒険者学校に入ってからはアンナとルリアーナといることが多く、師匠がいるときも常にあの二人と一緒にいた。こうやって師匠と二人きりで話すのももう何年もしてなかったのだ。
「確かにそれはそうだけど……」
師匠はあんまり納得したようには見えなかった。
「着いたよ。ここ、結構好きなんだよね」
俺は『シフル・レストラン』というお店の前で止まった。このお店はアンベルクに引っ越してから何日か経過したときだった。三人でお店に食べに行こうという話になったときに見つけた場所だ。ここは席がすべて個室になっていて料理もすごくおいしい。
お店の中に入ると、店員が出迎えてくれた。二名であることを告げると、店の奥にある二人用の個室に案内された。
「注文が決まり次第、これをお使いください。すぐさま店員が駆けつけますので」
と言われ、ベルのようなものを渡された。これも魔道具の一種らしく、これを鳴らすと、親機の方に連絡がいくようになっているらしい。なんともまあ、便利な物だ。
「ん~、ホロホロ鳥のローストにしようかな。師匠はどうする?」
「オススメは何なの?」
「私が頼むホロホロ鳥のローストもお勧めだけど、このお店の自慢の料理、シルフステーキもおいしいよ」
前来た時にルリアーナが食べてたのを少し分けてもらったけどかなり美味しかった。ちなみにシルフっていうのは馬みたいな魔物だ。
「じゃあ、それにしようかしら」
俺は渡されたベルで店員を呼び、注文をした。少し経つと、すぐに料理が運ばれてきた。やっぱりこのお店料理が出てくるのが早いよね。
店員によって置かれたおしいそうな料理が食欲を刺激してくる。
いただきます。
まず最初にナイフを身に入れる。ナイフがホロホロ鳥のローストに入って行くたびに、内側に凝縮されていた肉汁があふれ出してくる。一口サイズに斬り、フォークを使って口に運ぶ。噛んだ瞬間に肉のうまみが口いっぱいに広がる。やっぱりおいしい。
「……かなり美味しいわね」
師匠もシルフステーキを一切れ食べてそのおいしさに舌鼓を打っていた。
少し食べすすめ、師匠が口を開く。
「それで、話って何なの?」
「師匠さ、気にしてるでしょ。私たちだけが転移してしまったのを」
俺の言葉を聞いた師匠の表情に動揺が走る。
「ほんとはあの場で転移するのは私の方だった、私たち三人を守ることができなかった。そう思ってるでしょ」
「そんなこと」
「わかってるよ。何年弟子をしてると思ってるの」
多分、ドゥルガの森の時からそうだ。あの時だって師匠は前を行って私たちを守るために動いていた。遺跡の中だって一番前にいたのは師匠だった。調査員を見つけたあの時、本当なら『感知』を使って罠があるかどうか確認するべきだった。けど、俺たちは先走ってしまった。結果、師匠を残して三人一緒に転移してしまったんだ。
「だから、師匠は悪くない。責任を感じることは何もないんだよ」
俺たちが再開したとき、師匠は服が汚れていた。直前まで探していた、そうあの時は思ってたけど今考えてみれば師匠がそれで終わるはずがない。俺たちが行方不明になっていた一週間、おそらくずっと俺たちのことを探していたはずだ。
「バレてたのね。弟子に心配かけるなんて師匠失格かな」
「そんなことはないよ。師匠の教えのおかげで生きて帰ってこれた。私、最後の敵と戦うとき、何を思い出してたと思う?」
珍しく、きょとんとした表情を浮かべている師匠に向かっていった。
「師匠の言葉を思い出したんだよ。師匠が教えてくれたことを思い出したんだよ。師匠が居なかったら、今頃私はいない。だから」
これが一番伝えたかった事。
「ありがとう。師匠が師匠でいてくれて」
そう伝え、真っすぐと見つめた師匠の瞳には少し涙がたまっていた。
「……いい弟子をもったものね。ありがとう、そう言ってくれて」
師匠は零れ落ちそうになる涙を拭いながらそう答えた。
なんか、しんみりとした空気になっちゃったな。
「さあ、もっと食べようよ。料理が覚めちゃうよ。それにここってスイーツまでおいしいんだからね」
その後、俺たちは料理を食べきり、食後のデザートまで食べてお腹いっぱいになった。ほんとはもう一つ話したいことがあったけど、また今度でもいいだろう。
「今日はありがとうね。なんか心が軽くなった気がするわ」
「それは良かったよ。また今度も食べに来よう」
そうして、俺たちは別れた。すでに辺りは暗くなり、活気のあった大通りも、人がまばらになっていた。俺は気持ちを切り替えるために両頬をパンっと軽くたたく。
「よし。……まだ空いてるかな」
あれはとある店へと足を向けた。
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