第51話 報告
俺たちは遺跡の件について報告するために冒険者ギルドへと向かった。ギルドに入ったときには驚かれたよ。みんなまるで死人を見るような目で見てきた。そんな目線を浴びながら通された応接室。応接室にいたヴェルトスさんも俺たちの姿を見ると目を丸くして驚いていた。しかし、彼はすぐに平静を取り戻し話始める。
「まず最初に……本当に申し訳なかった」
ヴェルトスさんは深々と俺たちに向けて頭を下げた。急なことすぎて驚いた。
「え、いやっ、と、とりあえず頭を上げてください」
「いや、これだけじゃ足りないほどだ。下げる頭はこれしかないが……本当に申し訳ない」
俺たちの中に沈黙が流れる。しばらくして、ヴェルトスさんは話し始める。
「実は今回の依頼、半分ほどは私情が含まれていたんだ」
「……娘さんのことですよね」
「ああ」
ヴェルトスさんは深々と頷いた。そのことは知っている。転移される前、助けた調査員の中にヴェルトスさんと同じファミリーネームの人がいたし、師匠も説明してくれた。
「本来なら、調査員が行方不明になってしまった場合、基本的に放置するのだよ」
悲しいことに、これは事実らしい。というのも、調査員が行方不明=死んでしまった場合、その遺跡は危険なものと判断される。そのため、大々的な冒険者の一団を編成し、攻略をする。その準備には早くても三か月、長いと一年以上かかるところもある。規模によってはそれ以上だ。現に今でも攻略されていない遺跡は多数ある。
問題はここで、攻略する団は結成されるが、救出する団が作られることはない。基本的には攻略する冒険者団が亡骸を見つけたら持って帰るというのが通常だ。
今回が、異常だったのだ。
「けど、今回は自分の娘が関わっている。どうしても助けたかった。そう言うことですね?」
アンナの言葉にヴェルトスさんは深々と頷く。
俺には自分の子供がいたことはない。相手もいなかったしね。けど、大切な物を失いたくない気持ちは分かる。今俺が失いたくないものはアンナとルリアーナ、そして師匠だ。
「別にいいんじゃないですか?結果的に死亡者は出なかったわけだし」
俺たちが助けた調査団に死人がいないことは師匠からすでに聞いている。後遺症とかもないらしい。今は元気で活動してるそうだ。
「だ、だが……!」
「実際に遺跡に言った私が言ってるんですよ。二人はどう思う?」
「結局誰も死ななかったし、別にいいかな」
「あたしは冒険らしい冒険ができて意外と楽しかったし」
確かに、楽しかった。辛かったし、苦しかったし、死ぬこともあったけど、でも結局楽しかった。みんな生きてる。ならそれ以上のことはないよ。
「ね?だから良いんですよ。別に気負わなくて。結果良ければ全てよしってことですよ」
「……ありがとう」
ヴェルトスさんは小さくつぶやいた。
「どうしても負い目を感じるなら、報酬に少し色を付けてくれればいいですよ。さああ、次の話をしましょう。話はこれだけではないでしょう?」
「あ、ああ。それじゃあ、気を取り直して次の話をしようか」
ヴェルトスさんは少し身だしなみを整え、目線を上げる。こういう切り替えの早さは、さすがギルド長といったところかな。
「この一週間、一体何があったのかを説明してくれるかな」
まあ、その話ですよね。俺は師匠に説明したのと同じように、何があったのかを説明した。
「つまり、君たちはあの魔法陣であの遺跡の地下に送られたということかね?」
まあ、そう言うことになるね。帰ってきたのエレベーターだったし。実は意外と近かったのだ。
「ふむ……。それに、最後の方に出てきた館のような場所も気になる。今度学者とかを派遣する必要もあるかもな……」
ヴェルトスさんは俺の話を聞いて何やら考え始めた。
「これで話は終わりですか?」
「いや、あとは報酬についてだ。金銭になるが……後日渡そう」
「わかりました。あ、そう言えば」
俺はあることを思い出してマジックバックに手を入れる。俺は目当てのものを見つけて取り出し、机の上にドンッと置く。
「これって私が保持しててもいいものですか?」
ドラゴン型固定砲台の魔法石を所有してもいいか聞こうと思ったのだ。
「あなた、戦争でもするつもり?」
師匠が顔を引きつらせながら言ってきた。
「え?いや、これにマナを貯めて必要な時に取り出そうと……」
「ダメに決まってるでしょ!国と敵対するつもり?」
ダメだったらしい。悲しい。
「国家反逆罪で捕まっても何も言えないわよ……」
あの魔法石は後日商業ギルドで売却することが決まった。あの呆れた師匠の顔が印象的だったよね。
話が終わった後、別れの挨拶をして俺たちは応接室から出た。その後集められていたのか、俺たちが助けた調査員たちが集まっていた。
「「「「助けていただき、ありがとうございます!」」」」
「いやいや、大丈夫だよ。今後の仕事頑張ってね」
一斉に頭を下げられるとちょっと怖い。そんな気はないんだろうけど圧が……。
そんな彼女たちに見送られ、俺たちは冒険者ギルドから出た。すでに太陽は傾いており、綺麗な夕日が建物の間から顔をのぞかせていた。
よし。
「ルリアーナ、アンナ、今日はごめんなんだけど先に帰っててもらえる?晩御飯は適当に食べてていいから」
「何か用事があるの?」
「うん、ひとりでしたいことがあるんだ」
アンナの問いに滞りなく回答する。
「わかった!アンナ、行こ」
ルリアーナと彼女に手を引かれたアンナの姿が徐々に遠くなっていく。彼女たちが人ごみに紛れ、見えなくなった後、俺は隣を向いて言った。
「師匠、少しご飯に行かない?」
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