第49話 脱出

 あの後、二人に抱き着かれてたら考え事がちっぽけな物のように見えて割とすぐ眠れてしまった。俺も疲れてたのかもしれないね。


「さて、どうしようか」


 一旦ご飯を食べて寝てみたものの、脱出方法がないという現実は変化していない。もはや悪化してるのかもしれない。実は持ってきた食料はもうそろそろ底をつきかけている。あと一日持つかどうかってところだ。早急に脱出方法を見つけないと餓死してしまう。


「私はもうすこしいろんな部屋をさがしてみるわ」


「あたしもかな~」


 二人は部屋を探してみるようだ。


「私は魔法を調べてみるよ」


 これだけ書斎に魔法の本があるんだ。この状況をどうにかできるような魔法もあるだろう。


 俺たちはそれぞれ分かれて脱出方法を探しに向かった。俺は昨日来た書斎に戻ってきた。白骨死体がない方だ。あれが部屋にあったら集中力が削がれるからね。とはいえ、ここからが問題だ。昨日魔法を試したときは発動しなかった。恐らく今まで使っていた魔法と系統が違うのだろう。恐らく時間を掛ければ使うことができるのだろうが……今はそんな時間無い。どうにかして使えて脱出方法に使える魔法を探し出さなければならない。


「あ、ちょうど良さそうなのがあるじゃん」


 そう言って手に取ったのは『転移魔法大全』という本だった。


「今の状況にぴったりの本だ」

 

 こんな本が見つかるなんて幸先がいいよね。俺は書斎に置いてある椅子に座って本を広げた。その本には転移魔法の基本から図や絵付きで説明されていた。


「よし、頑張るぞー!」


 俺はその本を読み始めた。


 ――数時間後――


「ダメかもしれない……」


 本を大体読んだ後、俺は絶望していた。魔法の形態が違い過ぎる。それに、どの魔法も共通して『現在の位置』が必要だ。魔法で脱出しようとするのは諦めた方がいいかもな……。


 そう思った時、物が大きく崩れ落ちる音がした。魔法で解決するのは不可能そうだし、心配だったので音のした方向へと向かうことにした。音がしたのはエントランスかな?俺は開いていた本を閉じて棚に戻し、書斎から出た。


 書斎から出ると、木箱に埋もれているルリアーナとその近くで木箱をどけているアンナがいた。


「いてて……」


「だからやめた方がいいって言ったのに……」


 アンナはルリアーナに重なってる木箱を一つずつどけながら呟いた。うん、大丈夫そうだね。


「何があったの?」


「ルリアーナが積みあがってる木箱の上にあるこの魔道具を取ろうとしたのよ。そしたら木箱が崩れてきて今に至るわ」


「あはは……」


 ルリアーナらしいことをしてる。


「それにしてもその魔道具ってどんなものなの?」


「それが分からないんだよねぇ」


 服に着いたほこりを払いながら立ち上がったルリアーナが答えた。わからないんだ……。


「ほら、早く片付けて脱出できる方法を探そう。……カルラ?」


 俺は、服に着いた埃を払うルリアーナを見つめた。正確にはルリアーナの奥にあるものを。


「もしかしたら、もう探す必要はないかもね」


 俺はそれ・・を見つめながら言った。とりあえず散らばって行った木箱をひとつひとつどけていく。この木箱の中には魔道具の材料のようなものが入っているようだった。


 木箱をひとつひとつどけていくたびに、それ・・は全貌を表していく。


 それ・・は両脇にスライドするタイプの扉を持ち、扉の中には人が数人入れるほどの箱が設置されている。扉の横にはスイッチがあり、俺はそれを何に使うのかを知っていた。


「やっぱりそうだ」


「カルラは、これが何か知ってるの?」


「うん、よく知ってる。だってこれは」


 ――エレベーターだから――


 こんなに地下深くから、地上へと戻る手法。その方法として、古代文明の人はエレベーターを開発していたのだ。


「「えれべーたー?」」


 アンナとルリアーナは聞きなれない言葉を繰り返す。


「そう、エレベーター。簡単にいうと、上下の移動がすっごく簡単になるものなんだよ」


 これがあれば簡単に地上に上がることができるはずだ。


 ――――――――――


 今日も収穫なし。


 私は、今日も遺跡中を回り続けた。今から帰るところだ。


 本当に死んでしまったのだろうか。そんな考えが頭をよぎる。あの魔法陣で三人が消えてから約一週間。ずっとこの遺跡を回っているが三人の姿はおろか、痕跡すら見当たらなかった。


「本当にそうだとしたら……」


 いや、そんなことを考えるのはやめよう。考えてることは実現してしまう。実現するのならば、笑顔の彼女たちは私の目の前に現れることを……。


 そんなことを考えていると、地面が揺れた。


「何事?!」


 手頃の壁に手を添え、自身の身体が倒れないように支える。


 地面の揺れが収まると、チーンという間の抜けた音が鳴る。そのとたん、手を添えていた壁が粒子となって消え去り、その奥に扉が現れた。


「やっと外に出れたー!」


 扉がスライドして開き、聞き覚えのある声と共に三人の少女が姿を現した。その子たちは、自分が探していた三人と同じだった。


「やっと、見つけた」


 私は気が付いたら三人を抱きしめていた。


「え、師匠?!どうして泣いてるの!」


 いつの間にか、涙まで流していたらしい。ここ十年、涙なんて流したこともなかったのに。でもそんなことは良いんだ。


 いまはただ、三人が無事だったことを噛み締めていたい。

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