　正面にはドラゴンの形をした固定砲台。周囲にはロボット。上の階へ戻る階段は最初のビームで消し炭にされた。

　俺たちは絶体絶命の窮地に立たされていた。

　もうこんなの無理だろ。初見殺しの開幕魔法に殺された後、天界の気まぐれか知らないが蘇生されて、初撃をやっとの思いで防いだと思ったら、今度は退路もない状態で敵に囲まれる。

　せっかく蘇生してもらった命だが、さすがにあきらめるほかないだろ……。

「カルラ！しっかりして！ロボットたちの相手は私とルリアーナでするからカルラはドラゴンを！」

　そうだ。今は俺一人じゃない。三人なら何とかなるかもしれない。いまは俺ができることをしなくちゃ。

　俺は確認のためにドラゴンへ魔法を放ってみた。予想通りロボット同じ性質なのか、俺の魔法が触れた瞬間にマナへと還り、空中へと霧散する。俺は、対ロボットの時のことを思い出していた。あの時は、弱点を見つけて攻撃をした。けど、このドラゴンには弱点があるようには見えない。

　俺はある一つのことを思い出していた。

　俺はそれを実行するために、魔法を練り始めた。

　マナを練り、魔法を生成させていく。その途中、ドラゴンは再装填を終えたのか、口をカパッっと開き、魔法を放出し始める。その瞬間、ロボットと応戦していたルリアーナとアンナは俺のところまで戻ってくる。ドラゴンの魔法に合わせ、俺は魔法の生成を中断し、『マナ障壁』を張る。

　やはり一枚、また一枚と割られていくが、その都度追加で展開していき防ぎきる。防ぎきれば再びマナを練り、魔法を生成していく。ルリアーナとアンナはロボットとの応戦に戻る。

「カルラ！あとどれくらいでできそう？！」

「あと一回！あと一回ドラゴンの攻撃を耐えれば魔法を打てる！」

　俺の計算だとマナがギリギリ足りるかなというレベルだ。あれだけ『マナ障壁』を展開して壊されれば俺の多くあるマナも消費量が激しい。しかもあの魔法が『無属性』だからこそ、威力の軽減ができない。

　初見殺しといい、この魔法といいここの製作者はほんとに性格が悪い！

　ドラゴンの喉元が光り輝き、再び魔法を打つ準備を進めている。何とか間に合うといいけど……。いや、間に合わせる！

　再びドラゴンが魔法を打つタイミングとなるとアンナとルリアーナは俺のところまで下がってくる。

　再び『マナ障壁』を展開し、ドラゴンの攻撃を耐え忍ぶ。

　よし、耐えきった。このままだと、次の発射までに魔法が完成する。勝てる！

　そう思った時だった。ドラゴンの口元が再び輝き始めた。

「連射？！」

　俺は咄嗟に『マナ障壁』を張り耐える。今までよりも重く、そして長く感じられる攻撃だった。

　俺は無事その攻撃を耐えることができた。けど、問題はそこじゃない。

「……足りない」

　何回計算しても、俺の魔法を完成させるにはマナがあと少し足りないのだ。

「どれぐらい足りないの？！」

「あと、少しなんだ」

　けど、そのあと少しは、ないんだ……。

「それじゃあ、これだけあれば足りるよね」

　ルリアーナは俺の手をつかんだ。途端、ルリアーナのマナが俺に流れ込んでくる。

「カルラ、あたしの命、託したよ……」

　ルリアーナはそれだけ言うと、意識を失った。崩れ行く彼女の身体を、俺は急いで支える。

　彼女がしたのは、マナの譲渡だ。通常、持っているマナの二割にみたない量しか譲渡できないため使うことは滅多にない行為だ。彼女は、マナが亡くなったので意識を失った。決して命を失うわけじゃない。けど、彼女はもう逃げることも、隠れることもできない。

　文字通り、俺に命を託したのだ。

　けど、それだけじゃ足りない。魔法の完成には、足りないんだ。

「私のことを忘れないでよね」

　アンナも俺の手を握ってきた。

「私のマナだと焼け石に水かもしれないけれど、それでもこれで勝てるのなら」

　握られたアンナの手からマナが流れてくるのを感じる。

　彼女の握る力はだんだんと弱くなっていく。

「ぜったい、かってよね」

　そう言うと、アンナは意識を落とした。

　彼女も俺に命を託したのだ。

　俺はアンナとルリアーナの二人分の命を背負っている。二人が俺を信頼してくれてマナを預けてくれた。

　これで、魔法が完成する。

　この魔法で、絶対決める。

　魔法のイメージが浮かんでくる。次々と浮かび、最適解を探していく。マナを効率よく使うために、魔法陣を展開、収束させ、一つの魔法としてこの世界に顕現させる。

　俺は過去、師匠に言われた言葉を思い出す。

『どうしても相手を倒せないときは、相手の使っている魔法と同じ属性を使うといいわよ。とくに、無属性とかは友好的ね。あれは弱点がないから』

　俺の魔法は赤や青、緑などの色々な色へと輝き、最終的に純白になる。それまで人の数倍の大きさが合った魔法は片手サイズへと収まり、一気に凝縮される。

　一日前、ロボットに対して魔法を大量に打ったとき、弱点を見つけたことに加え、もう一つのことを見つけていた。あのロボットには何個か傷ができていたのだ。あの魔法を霧散させる能力、あれには処理能力に限界があるのだ。だからこそ、処理できなかった分の魔法が当たり、傷ができていたのだ。

　問　弱点がなければどうするか？

　答　正面から叩き潰せ！

　魔法の名前が浮かんでくる。

　「この魔法で決める！『ヴォイド・オブ・デストロイ』！！」

　俺の手から放たれた純白の球は一気に膨張、そして収縮し一直線にドラゴンの半ば開いた口へと向かった。その瞬間、ドラゴンの口からも魔法が発せられる。が、俺の魔法はドラゴンの魔法を打ち消し、頭を一瞬にして通り過ぎて行った。俺の魔法が通った跡には風穴が生まれており、ドラゴン型の固定砲台は活動を停止した。それと同時に俺たちに襲い掛かろうとしていたロボットたちも電池が切れたかのように次々と崩れ落ちて行った。

　倒せた……。マナ不足で意識が朦朧とする。だめだ。全員倒れるわけにはいかない。まだ完全に安全が確保されたわけではない……から……。