第44話 天界

 果たして、あの部屋はいったいどういう意味があったのだろう。この性格の悪い製作者がただ文字を読み解いてクリア条件を満たさせるだけとは思えないんだよなぁ。とはいえクリアできたし、いいのか?一体何の意味があったんだろう。


 そんなことを考えながら降りていくと大きな扉へとたどり着いた。今までの部屋では扉は開いており、部屋に入ると扉が閉まる仕組みだったのに対して、この部屋はすでに扉が閉まっている。つまり、今からこの扉を開けて入って行くってことだ。明らかに何かが待ち構えている。


「気を引き締めていこう」


「うん!」「ええ!」


 俺は大きな扉に手をかけた。扉はやけに重たかった。そりゃ動いたときにゴゴゴッっていう音が鳴るわけだ。ゆっくりと扉は開かれていく。扉が開き切ったとき、俺は光に包まれた。


 ――――――――――


「二度目の人生お疲れさまでした」


 気が付くと、目の前には見覚えのある姿をした人がいた。


「お久しぶりですね。何日ぶり……いや、そちらの世界でいえば何年振りでしょうか」


 そういう彼女は自身の翼を撫でながら呟いた。


「あなたは……」

 

「忘れたのですか?私は大天使ミカエルの部下であるメタトロンですよ」


 いや、忘れたのではない。彼女が何者かは知っている。何者かを知っているからこそ不思議でたまらないのだ。だって彼女が目の前にいるってことは即ち――


「おれは、しんだのか……」


 俺はふと自身の手を見た。その手は半透明で透けており、女の子のような細く綺麗な手ではなく、しっかりとした男の手だった。そのことが現在魂の状態だという事実を突く付けてくる。


「二度目の人生はどうでしたか?」


 あまりにも呆気なさすぎる。自分の死に方もわからない。アンナやルリアーナがどうなったのかもわからない。わからないことが多すぎる。


「満足はいってないようですね。ですが、それもまた人生です。それでは次の輪廻に……少々お待ちください」


 そう言うとメタトロンは耳の部分に手を当てた。誰かと話しているようだ。


「……はい。……はい。……え?そんなことが許されていいんですか?天界規定では、それは禁止のはずでは?え?ああ、彼女が。……仕方がないですね。分かりました。そのようにしておきます」


 彼女は通信を終えたのか、俺の方に向き直った。


「お待たせしました。通常ならあなたの魂は輪廻へと還り再び魂を回すはずなのですが……少し事情が変わりました。少し時間を戻してアヴァリティアへ帰します。こんなことは滅多にないんですよ?」


 んな無茶苦茶な。いきなり死にましたって言われて次は生き返りますだって?頭が混乱してきた。もういろいろとわかんないよ。


「いろいろ思うことはあるでしょうが、戻します。それでは、次回会うときはまた別の理由であることを願って――」


 その言葉と共に俺は光に包まれた。

 

『頑張って』


 意識が混濁していく中、少女の声が聞こえたような気がした。


 ――――――――――


「……ルラ!カルラ!大丈夫?」


 意識がだんだんとはっきりしてくる。目の前には心配そうな顔をしたルリアーナがいた。


「急にぼーっとし始めたからびっくりしたよ」


「ごめん、ちょっと考え事をしてて」


 考えたいことは、色々ある。疑問に思うことも、不思議なことだって色々ある。けど今は、目の前に集中しないと。


 さっきこの扉を開けたら俺は光に包まれて死んだ。詳しいことは分からないけど、あの光が死因なのは明白だ。どうにかしてあの光を防がないといけない。


 俺は『マナ障壁』にサングラスのような遮光効果を付けて数枚展開し、『念力』で扉を動かした。


「そんなに警戒するの?」


「警戒しないに越したことはないでしょ」


 ルリアーナから疑問が投げかけられるが、俺はこの後の出来事を知っている。警戒なんかじゃない。来る攻撃への準備だ。


 扉があけられると共に、死の光が漏れ出てくる。否、これは光なんかじゃない。れっきとした魔法攻撃だ。しかも、高密度の。普段より強くマナを練りこんだ『マナ障壁』が一枚、また一枚と割れていく。『マナ障壁』が割られるたびに俺は新たな『マナ障壁』を展開する。


 そんなことを繰り返すこと十数回、魔法攻撃は徐々に収束していき、やがて消えていった。扉は消し飛んでおり、俺の周りは全て魔法攻撃により削り取られていた。


 魔法攻撃の反動による土煙が晴れると、この攻撃の正体が姿を現す。その姿は思いもよらないものだった。


「なっ……!!」


 土煙が晴れた先には、口を大きく開けたドラゴンがいた。その口からは、先ほどの魔法攻撃の残滓があり、徐々に口を閉じていった。


 だがこのドラゴン、どうにも様子がおかしい。肌が生物のものじゃない。それに口以外動ない。俺は一つの結論を付けた。


 あれはドラゴンの形をした固定砲台だ。


 間違いない。あの肌はロボットに使われているものと同じ金属で構成されている。ドラゴンは口を閉じた後、今度は喉元を光らせ始める。


「チャージ?!」


 あの威力を再び打つの?!


「カルラ!驚いてるところ悪いけど、もうひとつ悪い知らせがあるわ!」


「何?!」


「あらゆるところからあのロボットが出てきてるのよ!」


 アンナに言われてみると、壁のあらゆるところから、ロボットが次々と出てきていた。


 俺たちは絶体絶命となっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る