第40話 転移
「私たちは大丈夫だから!」
その言葉をカルラが放った瞬間、彼女たちは光に包まれた。数秒が経ち光が収まると、そこに残されたのは、救助され意識のない調査員とオリヴィアだけとなっていた。
「カルラ……」
オリヴィアはいなくなってしまった三人の心配をするが、すぐに気持ちを切り替え、今来た道を戻る準備を始めた。彼女自身、これまでの経験上、どこに行ったか分からないカルラ達を探すよりも、意識のない調査員を無事に帰すことの方が重要だと考えたのだ。
オリヴィアは、『マナ障壁』で三人の調査員を囲んで運ぶことにした。
「ちょっと乗り心地は悪いかもしれないけど、我慢してね」
そう言って、オリヴィアは来た道を戻った。
遺跡を出ると、そこには冒険者たちが集まっていた。オリヴィアは、冒険者たちに調査員を引き渡し、再び遺跡の中に帰ろうとした。
「お、おい!あんたはどこに行くんだよ!」
「決まってるじゃない。私の弟子を探しに行くのよ」
――――――――――
俺は真っ暗闇の中にいた。上下も左右もわからない、自分の身体だけがある空間。そのことに気が付いた瞬間、自身がどれだけ小さな存在かを思い知らされる。だんだんと、自身の身体とこの世界の境界線でさえあやふやとなっていく。まるで俺自身がこの世界に溶け込んでいくような、そんな気分。
自分を見失わないようもがいていると、一筋の光が見えた。俺は、その光に必死に近づいていく。何があるかはわからない、けど何かがある。何かに、呼ばれている。そんな確信を抱きながら俺は進んでいく。進むたびに光は増大していき、やがて俺を包んでいく――
「……て!……きて!起きて!」
目を開けるとそこには涙を浮かべたルリアーナとアンナがいた。
「二人共どうして泣いて……っえ、ちょっ」
「心配したわよ!もう話せないんじゃないかって……」
「声を掛けても、回復魔法をかけても反応なかったし、もう死んでしまったのかと思ったよ……」
二人は泣きながら抱き着いてきた。あまりにも急だったため、びっくりした。後ろに壁がなかったら倒れてたよ。二人の反応を見る限り、すごく心配させてしまったらしい。
俺は二人が泣き止むまで、抱きしめられたままにしておいた。
しばらくして、落ち着いたのか二人は俺から離れ、向き直った。
「それで、今はどういう状況なの?」
「わからないわ。私が起きたのは少し前だし、気が付いたらここにいたから」
見渡してみると、ここは大きな部屋の様だった。俺たちの目の前には大きな扉があり、この部屋から出る方法はそこしかないようだった。
「とりあえず、扉を開けてみるしかなさそうだよね」
密室に一つの扉……。そこから出るしかないよね。とはいえ、
「少し、休もうか」
意識を失っていたというのに無事ということは、この部屋は安全なのだろう。それに、意識を失う前にマナを吸われる感覚があった。恐らくあの魔法陣の発動に使われたんだろう。『感知』でも見つからなかったってことは罠じゃなかったのかな。
俺はマジックバックの中から買い貯めておいた食料や飲み物を出した。
「設備もないし、あんまりおいしいものは作れないけど軽い物なら食べられるよ」
こういう時、このマジックバックがあってよかったって思う。……サンドイッチしかないのは許してほしい。だってパンが主流なんだもん。それ以外思いつかなかったんだ。
とりあえず、十分休息をとってマナを回復させないとな。
俺たちはしばらくご飯を食べたり、話したりして時間を過ごした。
「どう、調子は」
「悪くはないよ、早くもあのベッドが恋しくなってるけどね」
だってあのベッドで結局何回かしか寝れてないし。
「あたしだって寝たいよ!」
みんな早くここから出たいのだ。
「んっー、そろそろ行こうか、マナも結構回復してきたし」
そう言って扉に近づくと、壁に文字が彫られていることに気が付いた。文字は今と同じようだった。
「何々……?『転移魔法の旅はお楽しみいただけたかな?何人か魂の狭間から帰って来れてないかもしれないな。ここの最後にはお前らの目的のものがある。せいぜい頑張りたまえ』……性格悪っ」
性格悪すぎでしょこれ書いたやつ。なに、魂の狭間から帰ってこれないって。絶対さっきの奴じゃん。危うく帰れなくなりそうだったよ!なんだよ目的のものって。勝手に送られただけなんですが?
「そういえばさ、『テレポート』で帰ることはできないの?」
ふとルリアーナが質問してきた。
「実は『テレポート』は使えないんだよね」
『テレポート』を使うには何個か条件があるんだ。その一つに『現在の場所と転移先の場所の正確な座標をイメージできる』という物がある。座標っていうのは地図で見た時の大方の場所だね。
「あの遺跡から転移で連れてこられたから、ここがどこなのかよくわからないんだよね」
シルトヴェルト共和国内ならいいかもしれない。もしかしたら別の国、またはまだ未発見の大陸に飛ばされてるのかもしれない。……あるかどうかは知らないけど。
「仮に『テレポート』を使えたとしても、私一人しか帰れないしね。二人を置いて帰るなんてことはできないよ」
「「カルラ……」」
「だからとりあえず進むしか道は残されていないってわけ」
嫌だよなぁ。逃げられないなんて。これも含めてここを創ったやつは性格が悪い。古代文明にもそんな奴はいるんだね。というか、おそらく個々の施設が本命なんだろうなぁ。だって、あの遺跡何もなかったし。
俺たちは覚悟を決めて扉を開いた。扉を開けると、螺旋階段が下に続いていた。下に行け、ということなのだろうか。
「『感知』で見た感じは何もなさそうだね」
俺たちは階段を下って行った。
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