第39話 遺跡

 あれから翌々日、計画等が練られた後俺たちは件の遺跡の前まで来ていた。


 遺跡の入り口はとても質素なもので、岩肌に大きな扉型の石柱で囲われている。石柱には古代ギリシャを彷彿とさせるような彫刻がされていた。あれ?このデザインってどっかで見たような……あ。


「師匠と初めて会った場所も似たような場所だったよね」


 なんか既視感があると思ったら、師匠と出会った場所、それから修行をした場所の入り口がこんな感じだったのだ。


「だってあそこも元々は遺跡だったからね」


 小規模のものだったけどね、と師匠は続けた。あれって遺跡だったんだ。


「そろそろ、今回の説明をするよ!」


 師匠は俺たちに向き直り、今回の遺跡に関する説明を始めた。


「今回の遺跡は調査団による調査がしっかりと行われていない。それどころか死者まで出ているし、その原因もわからない。私たちの目的は調査員の生死を確認すること、そして調査員をどんな形であれ、回収することただ一つよ。調査員を回収次第、撤退する。全員、気を引き締めるように!」


「「「はい!」」」


「とはいっても、張り詰めすぎてもあんまりいいことはないから、適度に力は抜いてね」


 その一言で緊張の糸が若干ほぐれた。


「それじゃあ、行くよ」


 その言葉と共に、俺たちは遺跡へと足を踏み入れた。


 遺跡に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が奥の方から流れ込んできた。冷たく、重い感じの空気が身体にまとわりつき、不快感が襲ってくる。


「マナが濃いわね……。これは本当に危険な遺跡かもしれないわ」


 師匠はそう言いながら魔法で光源を確保した。


 俺は『感知』を展開した。


 この魔法は今日のために頑張って覚えてきた魔法だ。世の中の魔法使いの大体が使える魔法なのだが、俺はこの魔法が苦手だった。なんでかは分からない。師匠と修行していたときにも覚えようと頑張ってみたが、結局覚えられず、今の今まで諦めていたのだ。


 この魔法は、まるでソナーのように自身のマナを薄く広げることで周りにあるものを感知する魔法だ。遺跡には罠がたくさん設置されている可能性がある。それに気がつくには『感知』がほぼ必須なのだ。


 覚えるのには苦労したよ。師匠だけじゃなく、アンナやルリアーナにも聞いて覚えたんだから。


 今回の遺跡では、俺と師匠が交代で『感知』を展開するようにしてる。『感知』の消費マナはそこまで多いわけではないが、マナの保有限界が多い二人が担当することになった。


「前方に十二体の魔物がいるよ」


 俺は『感知』によって見つけた魔物を報告した。覚えてから思ったけど、この魔法って本当に便利だな。使うときに集中する必要があるから別の魔法を使うのが難しいのが難点だけど、物の形がしっかりと把握できるから便利。現に、さっき見つけた魔物もどんな形をしてるかが分かる。えーっと、人型?それにこの感覚……スケルトンか!


 この世界に来てみること無いなぁって思ってたけど、遺跡にいたのか!どおりで見かけないわけだ。スケルトンなどのアンデット系の魔物は聖魔法しか効かないのだが……。


「ルリアーナって聖魔法使えるよね?」


「うん」


 ルリアーナは俺との修行の中で聖属性の魔法を扱えるようになっていた。ちなみに俺は使えない。多分、神とか信じてないからかな、知らんけど。それにしても、ここで聖魔法の使い道ができるとは……。


「えい」


 ルリアーナが腕を振ると、スケルトンの足元に白色の魔法陣が展開され、スケルトンを光が包み込む。光の中でスケルトンの身体は崩れていき、粒子となって消えていった。


 初めて聖魔法を見たかも……。


「初めてしたけど成功してよかったぁ」


 ルリアーナは胸を撫でおろした。初めてだったんだ……。それにしても、この調子なら難なく遺体のところまで行けるかな?


 道中、再びスケルトンが現れたが、ルリアーナの聖魔法で直ちに跡形もなく消え去って行った。


 他にも、蛇の形をした魔物や、虎の形をした魔物が現れたが、それぞれアンナや師匠が対応した。


 それにしても、気持ちが悪い。空気中のマナが多いせいか、ずっと吐き気のようなものがするのだ。しかも魔法の制御も普段より難しくなっている。


「マナ酔いね。空気中のマナが多いと、なることがあるんだけどここはさすがに多すぎるわよ。いったいどうなっているの……?」


 師匠でさえもこの状況に困惑の表情を浮かべていた。時間がたつにつれてみんなに疲労の色がうかがえて来る。早く遺体を回収して脱出しないとな。そのうち吐き出してしまいそうだ。


 特にアンナにとってはつらい状況だろう。なんせ、他の三人よりもマナに慣れ親しんでないのだから。


「アンナ、大丈夫?」


「大丈夫よ。それより、先を急ぎましょう」


 アンナはそう答えるが、他の人よりも疲労しているように見えた。


 早く遺体を見つけないとな……。そう思い『感知』の範囲を大幅に広げた。自身の限界を超えたマナコントロールをしてしまったため、ズキリという痛みが、頭を襲う。が、そんなのお構いなしだ。とりあえず調査員を見つけなきゃ。


「……あった」


「「本当?!」」


 何個かの角を曲がれば、行き止まりに人が他のものが倒れているのが分かった。


「急いでその場所に向かいましょう」


 みんな、終わりが見えたことによっていくらか元気を取り戻し先に進んだ。


 進むと、行き止まりにたどり着いた。そこには、人が三人地面に転がっていた。この人たちがおそらく調査員だろう。


 俺たちは調査員に駆け寄る。


「大丈夫ですか!助けに来ましたよ!」


「ぅ……うぅ……」


 反応は、ある。生きている。そのことを把握したルリアーナはすかさず回復魔法をかける。ルリアーナが回復魔法をかけた人から顔に血の気が戻ってくる。これでとりあえずは大丈夫だろう。


 俺は一人の名札に目が留まった。


「ローザリン・レイナード。これって……」


「ヴェルトス・レイナード、冒険者ギルド長の娘よ」


 やっぱりそうか。これで彼の必死な態度に納得がいった。


 それにしてもなんでこの人たちは意識を失っているのだろう。見たところ外傷はないし……。そう思っていると、不意に足元の地面が輝き始めた。否、正確には、地面に記された魔法陣が、だ。


 急激にマナが吸われていくのを感じる。俺たちのマナを吸われていくに連れて、魔法陣は回転し、その速度を上げていく。


「師匠、その人たちをちゃんと無事に連れて帰って!」


「でも、あなた達は――」


「私たちは大丈夫だから!」


 その言葉を最後に、俺たちは光に包み込まれた。

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