第38話 決意
「わ~い!」
翌日、ベッドが完成したらしいので早速取りに行って部屋に設置した。なんでも、急いで作ってくれたらしい。商業ギルドには感謝しかない。それで、設置したらすぐにルリアーナがベッドに飛び込んだのだ。
「なんか不思議な感じがする!二人も来てよ!」
確かに。噂では不思議な肌触りらしいし、気になる。俺とアンナもベッドに寝転んでみた。
なんだろうこの感覚。ふわふわしてるようなさらさらしてるような不思議な感覚。でも、自然と心地の良い感触。これで毎日寝られるの最高じゃない?あ、これやばい。今からでも全然寝られる……。
「新しいベッドを楽しんでるところ悪いんだけど、実は国の方から呼び出しがあるのよ」
今にも寝そうな身体を起こすと、商業ギルドの時からついてきていた師匠がいた。
「もしかしてそれを言うためについてきてたの?」
「そうね。伝言として預かってたからね」
師匠も大変だなぁ。
「呼び出しの内容って?」
「そこまでは聞かされてないわ。まあ行ってみればわかるでしょ」
今から寝たい気分だったのに……。まあ、仕方がない。俺はベッドから降りて服を整えた。
「ほら、二人共行くよ」
俺はベッドに寝転がってる二人に呼びかけた。特にルリアーナ、半分寝てるんじゃないか?
「ルリアーナ!」
「ふぇ!な、なに?あたし寝てないよ!」
寝てたな。完全に寝てたな。
「アンベルク城に行くから準備して」
まあ、ルリアーナの気持ちもわかるんだけどさ。正直俺も寝たいし。気が付いたらアンナは準備を終えていた。
こうして俺たちはアンベルク城に向かった。
アンベルク城に着くと、応接室に招かれた。応接室に入ると、もうすでにヴェルトスさんが座っていた。
「数日ぶりですかね。とりあえず座ってください」
ヴェルトスさんに手で座ることを促されたので、ヴェルトスさんと向き合う形で座った。今日はラインハルトさんはいないみたいだ。
「今回は国の依頼で呼び出したんだ。というのも、先日ドゥルガの森の解放を冒険者協会の方で行ってね。それをしているときに新しい遺跡が出てきたんだ」
ドゥルガの森の解放ってしてたんだ。少しやってみたかった。
「新しい遺跡は調査団によると結構大きい規模らしい。それに、調査中に調査員が数名行方不明になった。通常の冒険者での攻略は危険と判断、君たちを呼び出したわけだよ」
「要するに、新しい遺跡が出たけど危険そうだから私たちに行けってことですか?」
俺が尋ねると、ヴェルトスさんは静かに頷いた。
「それはいくら何でもあんまりではないですか?」
アンナは少し憤った声で尋ねた。当然だ。言い換えれば、死にに行ってくれと言ってるようなものだ。確かに遺跡探索の恩恵は大きい。未知な発見や、魔道具の発掘などがあるからね。けどそれは死に直結している。少なくとも、自分の意思で行くようなところだ。間違っても人に指図されていくようなところではない。
「どれだけ失礼なことを言っているかは重々承知している。けど、君たちしか頼めないんだ。目的は遺跡の攻略ではない。調査員を探して、助けてほしいんだ。頼む……」
ヴェルトスさんの声は僅かに震えていた。
「……少し、この話を持ち帰らせてください」
そう言って俺は立ち上がり、応接室を出た。アンナとルリアーナは俺についてくる形で応接室を出た。
――――――――――
「頼む、オリヴィア。彼女たちをどうにか説得してくれないか……」
応接室に残ったヴェルトスは、同じく残ったオリヴィアに声を掛けていた。
「私も頑張っては見るけど、どうなるかはわからないわよ。結局、彼女たち自身の話だし」
オリヴィアは腕を組みながら答えた。
「それにしても、なんでそこまで必死なの?調査員なんて職員の一部でしょう」
ヴェルトスは顔を伏せながら答えた。
「私の……娘が居たんだ。行方不明になった調査団の中に」
「……悪いことを聞いたわね。ごめんなさい」
「個人的な理由だって理解はしてる。もう死んでしまってるかもしれない。だが、どうしても彼女と会いたいんだ」
「……彼女たちに話をしてくるわ」
そう言い残し、オリヴィアは応接室を出ていった。
ヴェルトスは自身の右膝を睨みつける。冒険者を引退し、ギルド長となった原因を作り出した右膝を。
「この右膝さえ戦えれば私が行ったのに……!」
ヴェルトスの眼からは涙がこぼれていた。
――――――――
「ねぇ、どうするの?」
ルリアーナが不安そうに聞いてきた。
「……迷ってる」
第一に死にたくないという気持ちがある。詳しくは知らないが、調査員というのは簡単に行方不明にならないはずだ。本格的に戦うわけではないとはいえ、遺跡に入り、情報を持ち帰るのが仕事の人だからだ。そんな人が数人行方不明?遺跡においての行方不明は死亡を意味している。不安な要素しかない。
ただ、それを放置するというのも考え物だ。もし死亡してしまっているのだとしたら遺体は遺族に渡したいというのが本音だ。
「私は行くつもりでいるわ。たとえ一人だとしても」
「……っ!なんで……!」
「私たちは国に雇われてる身よ。だからこの要請は無視できない。それに……まだ生きてるかもしれないでしょう。助けたいもの」
「あたしもかな」
ルリアーナまで!
「確かに危険かもしれない。もしかしたら死ぬかもしれないよ?けどやっぱり、助けてあげたい。傷ついたものを癒す、たとえそれがもう不可能かもしれなくても、一縷の望みがあるのならば。それが治癒魔法を扱うべき姿だと思うから」
俺には、二人の姿が眩しく見えた。
「私たちは遺跡に向かうわ」
「だから、そこにカルラの姿があったらあたしたちは」
「「嬉しいかな」」
二人は手を差し出してきた。
死ぬのは、怖い。せっかく新しくもらった命だ。もっと有効活用したい。もっと楽しみたい。でも、そこには『彼女たち』が居てこそだ。ここで彼女たちを失ったら俺は心の底からこれからの人生を楽しめるのだろうか。
俺は二人の手を取った。
「やっぱり、動くときは三人じゃないといけないと思うんだよね」
「うん!」「ええ!」
「私は必要なかったようね」
ふと振り返ってみると、師匠がいた。
「遺跡の方へ行くってことでいいのよね?」
「うん、そういうことになったかな」
「それじゃあ、そのように伝えておくわね」
そう言って師匠はアンベルク城へと戻って行った。
こうして俺達の遺跡探索が決まったのだ。
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