第36話 シルキーウィング
『シルキーウィング討伐作戦』の決行が決まった俺たちは師匠のところに来ていた。
「というわけで、シルキーウィングを倒しに行きたいんだけど、どこかいい場所ない?」
師匠は腕を組みながら答えた。
「シルキーウィングねぇ。確か、ウーレの森が生息地だったかしら。この前行ったから『テレポート』で行けるわよ」
「じゃあ、お願いします!」
こうして俺たちは司書の『テレポート』でウーレの森に行くことになった。
「『テレポート』」
師匠の魔法の光に包まれた俺たちは、次の瞬間にはウーレの森に来ていた。
「行くわよ」
俺たちはウーレの森へ慎重に足を踏み入れた。とはいえ、ウーレの森には危険な魔物はあまりいない。なんで今年はシルキーウィングの討伐数が少ないんだろう。特別強い魔物でもないし、素材はよく使うから儲からないわけでもないし……。
「あ、あれじゃない?」
ルリアーナは木の枝の上を指さした。そこには真っ白の鳥がいた。ルリアーナは『跳躍』で浮かび、シルキーウィングをそっと抱えてきた。
「か、可愛い!!」
ルリアーナの手の上には、ふわふわの毛を生やしたシルキーウィングがいた。小さすぎない?片手にのるぐらいの大きさなんだけど。しかも全然攻撃してこないし。大人しい魔物だな。
少し触ってみると、ふわふわでいてとても愛くるしかった。
「これ……殺さなきゃいけないの?」
シルキーウィングはつぶらな黒い瞳で、じっとこちらを見つめてきた。か、可愛い。なんか、日々のストレスとかが一瞬で吹き飛ぶ感覚。
「殺したく……ないわね」
その言葉は俺と同じようにシルキーウィングを撫でていたアンナから発せられた。アンナ可愛いものとか好きだもんなぁ。俺も殺したくない。というか飼いたい。
「ああ、その子は子供よ」
子供か、よかった。殺さなくてよかったよ。師匠の言葉を聞いて、俺たち三人はほっと胸を撫でおろした。
「あたし、成体を倒すことできるかな……」
それは、俺もわからん。だって可愛いし。ついうっかり魔法が当たる直前で消してしまいそう。
「安心して。成体は大きいし、狂暴だから。可愛がってる暇なんかないわよ」
そうなの?そこは成体であっても可愛くあってほしかった。いや、可愛げのない方がいいのか?
「ちなみに、シルキーウィングの子供を殺したら犯罪だから気を付けてね」
え?何その法律。どういうこと?気になったので聞いてみると、単純にシルキーウィングの素材が大量に必要だかららしい。成体になると人間より少し大きいぐらいになるからその時に狩ろうって話なんだとか。ただでさえ野生で死ぬ可能性がある子供を人の手で減らすわけにはいかないらしい。漁とかで稚魚を海に還すとかのと一緒なのかな。
何はともあれ、あの可愛い子を殺さずに済んでよかったよ。
しかし、それからシルキーウィングの成体を見つけることができなかった。
「こんなにもいないものなの?」
シルキーウィング自体は見つかるのだ。でもそれは全て子供。成体は一匹も見つかっていない。
「こうなったら手分けして探したほうがよさそうね。私とルリアーナちゃん。カルラとアンナちゃんの二手に分かれて探しましょう」
「「「はい」」」
こうして俺たちは二手に分かれて探すことになった。俺はアンナと一緒だ。
「最近、魔法の調子はどうなの?」
「攻撃魔法とかはある程度覚えたかな。次は付与魔法を覚えようと思っているところよ」
最初にマナを感じさせた時から思ってたけど、アンナは魔法の才能がある。普通ならこんな短時間でここまで魔法を使いこなすことはできないからだ。いつの間にか『飛翔』も使えるようになってたし。
「アンナってすごいよね。魔法も剣も才能があって」
「魔法はカルラに負けるけどね」
俺のは半分チートみたいなものだからなぁ……。それに比べて天性でどっちの才能も持ってるのすごいよ。
「アンナってすごい努力してるじゃん?本当にすごいと思ってるよ」
彼女が何よりすごいのは、ずっと努力し続けてるところだ。冒険者学校にいた時も、放課後俺たちと予定がない日は訓練場にいた。空いてる時間はずっと修行に当てていたんだ。努力を続けられることが一番の才能だっていうけど、本当にそう思う。俺はそんなにも続けられない。俺がしてる努力は、マナコントロールの練習とマナ保有限界量を増やすことだけだ。
「そう?……ありがとう」
アンナは頬を赤らめながらそう言った。
そういえば、と思いふと気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば、アンナはなんでこんなにシルキーウィングを討伐するのに乗り気なの?」
今回、討伐しようと言い始めたのもアンナだった。普段あんまり自己主張しない彼女がしたいと言って始まったのだ。何が彼女を動かしたのだろう。
「なんでって、カルラと一緒のベッドで寝たいからよ」
先程までのだろうか、それとも恥ずかしさからなのか、アンナは頬を赤らめが言った。いままで、一緒に寝ることはたくさんあったけど、こんなにストレートに言われたのは初めてかもしれない。なんか、こっちまで恥ずかしくなってきた。
「そっか、うれしいなぁ。それじゃあ、シルキーウィングを探そうか」
俺は恥ずかしさをごまかすようにそう言って前に進んだ。
そのとたん、俺たちの方でドスンという音が鳴った。
俺とアンナは顔を見合わせて後ろを向いた。
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