第35話 大きなベッド

「ん~、これとこれ。あとこれは……いらないか」


 俺は冒険者学校の寮から王都の家に引っ越す準備をしていた。具体的には、持っていくものともっていかないものの選別……断捨離を行っていたのだ。


「僅か数か月しかいなかったのに結構物が増えたんだね」


 とはいえ、そのほとんどは自分で買ったものじゃないんだけどね。というのも、パジャマパーティーの度に新しいものが増えていくのだ。


 女性って必要ないものをよく買うよなぁ。いや、それを言ったらオタクとかも一緒か。趣味の一つなんだろうなぁ。ともかく、このままでは無限にものが増え続けてしまうため、今回の断捨離でパジャマパーティーの時に買ったもののほとんどは捨てることにした。


 まあ、ほとんどは使いきりのものだったし、その場のノリで買ったものも多かったからいい機会でしょ。


 いらないものをまとめた袋をゴミに出し、俺は『テレポート』で王都の家へと向かった。


「それはこっちの方がよくない?」


「でもそこだと通りにくくなるから……」


 家の扉を開けると、棚の位置でルリアーナとアンナがもめていた。二人は荷物をまとめるのが速かったので、師匠の『テレポート』で先に連れてきてもらっていたのだ。というか、パジャマパーティーの会場が基本俺の部屋だったから、俺のものが二人よりも多かっただけの気もするが……。


 そんなことを考えていると、二人は俺が家に入ってきたことに気が付いたのか、こっちの方を向いて言ってきた。


「「カルラはどっちがいいと思う?!」」


「私は……あ、それより別のやつから考えようよ!」


「(逃げたな)(逃げたわね)」


「あは、あはは……」


 え、修羅場過ぎない?どっちかを選ぶのとかできないんだけど。そんなことはさておき、各々が自室から持ってきたものを部屋に置いていった。時には少し揉めたりもしたが……まあ、何とかなった。


「ふぅ……。結構家っぽくなったね」


「そうだねぇ」


 最初に来たときは何もないただの部屋だったのに、家具が置かれたこと、一気に生活感が出た。しかも、それぞれが持ち寄った家具だったため、ところどころに傷などがあり、それがまた生活感をより一層出していた。


 某会社が出していた人語を解する動物たちの家をデザインするゲームが売れた理由はわかった気がする。


「足りないものを書き出しておいたわ」


 そう言ってアンナはメモ用紙を渡してきた。そこには、お風呂で使うようなものや洗濯機など、寮に備え付けられていて、持ってくることができないものが書かれていた。


「買い出しに行こうか」


 ついでに今日の晩御飯を何にするか考えよう。


 ――――――――――


 実はこの世界では、元の世界でいうところの家電が存在する。動力は電気じゃなくてマナだけど。というか大体の動力源がマナなのだ。前に料理をしたときに使ったコンロだってマナで火を起こしてるし、機械的なものを動かすのだって、基本マナを使う。


 この世界におけるマナとは、枯渇する心配のない万能な動力源なのだ。現代にあれば資源問題が一気に解決するのに。


 そんなことはさておき、俺たちは足りないものを買いに王都の街に出ていた。3人で話し合って、購入して、マジックバックにしまう。


 うあっぱりマナを動力に使う機会は値が張るけど、今の俺たちにとってはタダも同然だった。大丈夫かな……いつか自己破産思想で怖い。


 かなりの時間王都を回り、買うものは残すとこあと一つとなっていた。その一つは……


「ベッドかぁ。一応聞きたいんだけど」


「もちろん」


「三人で寝れる大きいベッドだよね!」


「アッ、ハイ……」


 ものすごい速度で返事がもらえちゃったよ。拒否権はないらしい。別にいいけどね。三人で寝るの嫌いじゃないし、むしろ落ち着いたり安心したりするのが好きだから別にいいんだけどね!


 そんな調子で始まった三人でも寝られる大きなベッド探しは始まったんだけど……そううまくはいかないよね。


 まず最初のお店に行って店員に聞いてみた。


「三人寝れるような大きいベッドってありますか?」


「申し訳ございません。当店では扱っておりません」


 速攻で返された。素直に諦め別の店に。


「申し訳ございません。当店では扱っておりません」


 また速攻で返された。別の店に行っても結果は同じだった。このままでは埒が明かないと思い、商業ギルドに向かった。


「あれ、本日はどうされたんですか?」


 商業ギルドの入ると、フェリックスさんが出迎えてくれた。この人暇なの?


「三人で寝れるくらい大きなベッドが欲しくて王都中を回ったんですけど、どこにも置いてなくて……。商業ギルドに来たらあるかなと思って来てみたんですけど」


「三人で寝れるほどの大きなベッドですか……。今年はシルキーウィングの討伐数が少なくてベッドの生産自体が少ないんですよね……。しかも大きなベッドは需要があまりなくもともと生産数が少ないのでこちらにも在庫はないんですよね」


 まあ、そんなに大きいベッドを買うことってほぼ無いからな。


「どうする?仕方がないし、一人用のを三つ買ったりとかして……」


「材料を取ってきたら作ることは可能ですか?」


 アンナがフェリックスさんに聞く。


「問題ないですよ。作れないわけではないですから」


 ん?


「それなら、シルキーウィングを倒しに行きましょう」


 え?


「そうだね、取りに行こう!オリヴィアさんなら多分連れて行ってくれる!」


 あ、これもう駄目な奴だ。行くしかなさそう。

 

 私抜きで決まった「シルキーウィング討伐作戦」が結構されようとしていた。

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