第32話 模擬戦

 ヴェルトスさんの話を聞き、空いたお腹を満たした俺たちは、『テレポート』を使ってヘルゲンへと帰り、冒険者学校のトーナメント会場に来ていた。というのも、あそこは普段訓練場として開放されているからだ。


 俺たちは冒険者ギルドの依頼を受けることはできなくなっていたし、みんなで修業をしようということになったのだ。俺と師匠が教える側となり、アンナとルリアーナに魔法を教えていた。


 修行も一息つき、休憩となったタイミングで師匠が話しかけてきた。


「久しぶり、模擬戦してみない?」


 模擬戦か……。確かに数年ぐらいしてないな。今の自分の実力はどれほど師匠に通じるのだろうか。


「いいよ。全力で勝ちに行くから」


 こうして、俺たちは模擬戦をすることとなった。


「それじゃあ、いくよ。よーい、はじめ!」


 ルリアーナの声を皮切りに、俺たちの模擬戦は始まった。


 まずは基礎魔法の応酬。火の玉、水の玉、風の刃、土の槍のそれぞれを互いに多く生成し、魔法同士をぶつけ合い、打ち消す。その数は数十に及び、俺たちの周囲には衝撃波が発生する。ちなみに二人には観客席の方で見てもらっている。観客席には『マナ障壁』が常に張られているため、二人に影響が出ることはない。よって、全力を出せる。


 俺は、巨大な炎の球を生成し、圧縮する。人差し指のサイズとなったそれを、一直線に師匠に飛ばした。


 師匠は『マナ障壁』を展開し、表面に大量の水を張った。2つの魔法が直撃した瞬間、周囲を水蒸気が埋め尽くす。


 水蒸気が晴れた後、師匠は無傷で立っていた。


「腕を上げたわね、カルラ。ここからは本気で行くわよ」


 師匠はそう言うと、炎の柱を地面から出し、水の槍を投げ、岩の塊を飛ばし、竜巻を作り出した。


 やっぱり師匠はうまい。こうやって相殺できないような魔法を大量に出すことによって『マナ障壁』を使わせて、マナ切れを狙っているのだろう。だけど、そう簡単に思い通りにはならないよ。


 俺は炎の柱を土を盛り上がらせてで受け止め、水の槍を凍らし、念力で推進力を消して投げ返し、岩の塊を風の刃で細切れにし、竜巻に逆向きの竜巻を当てることで相殺する。


 師匠は俺が投げ返した氷の槍を炎で溶かし、次の攻撃の準備をする。


 それに合わせ、俺も魔法の準備をする。


「これを師匠に見せるのは初めてだよね!」


 俺は雷の球を師匠に向けて投げ飛ばした。反する師匠は、大きな氷の槍を一直線に投げ飛ばしてきた。俺は、氷の槍を炎で溶かした。


 俺の攻撃は師匠の『マナ障壁』を割り、師匠に直撃する。やった!ここから――


 次の攻撃に移ろうとした瞬間、後ろから強大なマナを感じた。急いで振り向くと、そこには百にも及ぶ氷の槍が俺に向けて飛んできていた。俺は急いで『マナ障壁』を張り。その攻撃を防ぐ。


 師匠は?!攻撃を防ぎ切った後、師匠のがいた方向を見るが、そこには師匠の姿がなかった。どこだ?辺りを見渡すが、どこにも師匠の姿はなかった。その瞬間、ふと俺の周りが暗くなった。なんだと思い、上を向くとそこには浮かぶ師匠の姿と、目前まで迫っている巨大な氷の杭があった。


 俺は再び急いで『マナ障壁』を展開する。ゴリゴリと残りのマナが削られていく。何とか、師匠の攻撃を耐えきり、一息ついた瞬間、首筋にひんやりとしたものが当てられた。


 見てみると、そこには氷形成された剣を持った師匠が、にやりと笑っていた。


「私の勝ち」


 はぁ……。俺は両手を上げて降参の意を示した。師匠は俺の首筋に当てていた氷の剣を消し、背伸びをした。


「カルラ、強くなったね。でも圧倒的に対人戦の経験が足りてないでしょ」


 うっ……痛いところを突いてくるな……。


「まず、自分の攻撃が当たったとき、油断したでしょ」


「でも、『マナ障壁』が割れたからあの時に勝負がついたと……」


「あれはハッタリよ。一つの魔法で『マナ障壁』が割れるわけないでしょう。ちゃんと体に這わせてもう一枚張っていたわ。油断するのは相手を仕留めた時だけ」


 ……悔しいが正しいこと言ってる。相手の反応を馬鹿正直に信じすぎた。


「次に、相手を見失わない。次の瞬間には首を落とされてるわよ」


 今まで圧倒的な戦いが多かったから失念していた。一度ペースを崩されてからはずっと師匠に圧倒されたままだった。


「けど、『マナ障壁』をできるだけ使わないようにしてマナを温存してたのは良かったと思うわ」


 師匠の言った言葉を自分の中で反芻していると、アンナとルリアーナが走ってきた。


「すごい試合だったよ!」


「氷の女王相手によく戦ったと思う」


 ……氷の女王?師匠の方を見ると、きょとんとしてた。


「氷の女王って私のこと?」


「え!知らないんですか?巷で有名ですよ。冒険者ギルドの筆頭魔法使いは『氷の女王』という異名を持ってるって」


 なんで師匠は自分の異名を把握してないんだよ……。まあ、師匠らしいか。確かに氷系統の魔法をよく使ってたし、そう呼ばれていてもおかしくはないしなぁ。


 それにしてもやっぱり師匠は強いなぁ。まだまだ勝てるがしないや。


「そういえば、今冒険者学校にいるけど今月いっぱいであなたたちは卒業ね」


 ん?なんて?


「冒険者学校が教えられることはもうないわ。だからあなたたちは卒業するのよ」

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