第31話 国
あのあと、アルノルトに放置された俺たちは、一つだけ渡されたドラゴン鋼のインゴットをもって商業ギルドに帰ってきていた。
「これ、とりあえずできた分らしいです。残りは後日届けるそうですよ」
「これは、助かったよ。これで、作業が少しでも進めることができるよ。ありがとさん」
そう言ってリーシャさんは、工房の奥の方にドラゴン鋼を持って行った。
「魔術師ギルドはどうだった?」
「……魔術師ギルドのギルド長ってあんなに変な人だったんだね」
俺がそういうと師匠は笑った。
「あの人にあった人は大抵そうやって言うわ。あの人、あれでギルド長の仕事もしっかりとこなしてるからすごいのよねぇ…」
「それでこれから何をしようか、師匠」
今日やることの予定はもうないはずだ。今はちょうどお昼時だし、何か食べてから考えようかな。師匠を混ぜてルリアーナとアンナの修行でもいいし…。それは二人の意見を聞きながら考えようかな。
そう考えていると、ヴェルトスさんが話しかけてきた。
「ちょっと悪いんだけど、今から少し話があるのですが時間いいですか?」
話?俺ってまだ解放されないの?
「問題ありません」
文句の一つぐらい言いたいが、少し黙っておこう。
「で、少しこちらの部屋で……」
そう言った瞬間ぐぅ~と気の抜けた音が鳴った。その音の正体はルリアーナのお腹が鳴った音だった。
「ごめんね、ちょっとお腹が空いちゃって……」
「……ご飯でも食べながら話をしましょうか」
そのあと、俺たちは冒険者ギルドの応接室に来ていた。ここの一階は受付兼酒場みたいなものだからなぁ。料理が結構な量あるんだよね。お酒が飲みたくなる味付けだけど。
もうここに来たのは何回目だろう。最初の方は緊張してたけど、もうあんまり緊張しなくなったな。てか、ギルド長と顔合わせてご飯食べてるし。
各自が頼んだ料理を少し楽しんだ後、ヴェルトスさんが話を切り出した。
「実は話っていうのは、君たちの処遇についてのことです」
処遇?何か悪いことしたっけ……。
「というのも、本日をもって君たちは冒険者じゃなくなります」
ヴェルトスが発した言葉に俺たちは食事の手が止まった。ちなみに、師匠は相変わらずご飯をパクパクと食べている。事前に知っていたのだろうけどもうちょっと驚いてほしい。
「一体どういうことですか?」
アンナは少し怒ったような声色でヴェルトスに質問をした。
「ああ、落ち着いてくれ。何も冒険者から除籍するというわけではない。正確には冒険者だけど、冒険者の仕事が難しくなるということだよ」
ん?どういうこと?いまいち話が見えてこない。
「君たちは国の所属となってもらう。冒険者ギルドの所属を離れてね」
ふむ……。国の所属か。一体全体なぜそうなった?俺たちが冒険者ギルドに所属したままではいけない理由……。
「私たちが冒険者ギルドにいると、国の政治が揺らぐってことですか?」
「カルラさんは察しがいいね。そういうことだよ」
ヴェルトスは驚いたように目を見開き、話をつづけた。
「この国が冒険者ギルド、商業ギルド、魔術師ギルドの三頭政治っていうのは知ってるだろう?もし、そのうちの一つが強大な力を持ってしまうと、国の政治が揺らぎ、国家の崩壊の危機が起こってしまう。それを起こす危険性がある強大な力というのが、君たちのことなんだよ」
ラインハルトさんが言ってた「大人の事情」っていうのがどういうことか分かった。詰まるところ、一つの勢力に力を集めたくないわけだ。だから国全体で、共有しようってことなんだろうな。
なんでこの国のトップは国のことを第一に考えられるのだろうか。元の世界の政治家たちに見せてやりたい。
「これから、依頼とかは受けられなくなるのでしょうか?」
アンナが聞いたとおりだ。冒険者ギルドの依頼は原則として、冒険者ギルドに所属してなくてはいけない。
「ああ、規則上そうなってしまう。だから、国の職員として雇う形をとらせてもらう。毎月、一定の給料が出るからお金のことは心配しなくてもいいよ。それに、国からの依頼が定期的に来ると思うから、それを解決して欲しいかな」
ふむ……話っていうのは、こんなことだったのか……。まあでも、
「私たちのやることは特に変わらなさそうだね」
依頼を受けて、解決して、報酬をもらう。ただ依頼主が様々な人から国に代わっただけだ。別に不都合なことはない。
「ああ、そうだとも。これから国を代表して、よろしく頼むよ」
ヴェルトスさんは俺たちに向けて頭を下げてきた。
「頭を上げてください。ヴェルトスさんの立場は私たちよりも上なのですから」
大変なことになったなと思いながら微妙に冷めた料理を食べた。
――――――――
「それにしても初めての試みですよね。本当にこれでよかったのでしょうか……」
ラインハルトはヴェルトスに向けて不安そうな声で話かけた。
冒険者を国の職員とする……。実際、各ギルドから国の職員へと昇華するという事例はしょっちゅうある。ギルド長などは、それにあたる。だが、現役の冒険者を国の職員として雇うというのは初めての試みだ。
「とはいえ、これ以外の道は無かっただろう。どちらかと言えば、国の依頼に彼女たちが耐えられるかの方が心配だ」
国の依頼は冒険者ギルドで解決できなかったものや、荷が重いと判断されたものを依頼として出すことになっている。大怪我で済むならまだいい。最悪の場合、死……
いや、そんなことを考えるのはやめよう。今はただ、この国の未来が安全に向かうことを願って……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます