第30話 魔術師ギルド

 俺たちは、リーシャさんの頼みを聞くため、魔術師ギルドに来ていた。

 魔術師ギルドは商業ギルドと同じように、大きな館のような建物が塀に囲まれていた。正面には木製の重厚な扉があり、真ん中には魔法陣を模した模様が描かれていた。ちなみに、冒険者ギルドは剣と盾が交差しているような模様が描かれている。


 館の中は商業ギルドと同じく受付の人が複数人いて、何かを書いていた。


「おや?どちら様ですかな?」


 館に入ると出迎えてくれたのは70歳ぐらいのおじいさんだった。


「アルノルト様、お久しぶりです。冒険者ギルドヘルゲン支部長のラインハルトと、先日ドラゴンを討伐した者でございます」


 俺たちに引率としてついて来てくれたラインハルトさんが俺たちの説明をしてくれた。このおじいさんの名前はアルノルトというらしい。


「おお!ということは君たちがカルラにルリアーナ、そしてアンナかね」


 ちなみに師匠はついて来ていない。なんでもリーシャさんと少し話したいことがあるのだとか。


「このおじいさんは誰?」


「魔術師ギルドのギルド長よ」


 ルリアーナとアンナの小声でのやり取りが聞こえてきた。この人ってギルド長だったの?初めて知ったよ。


「して、本日は何用で?」


「本日はドラゴン鋼作成の依頼を商業ギルドから受けまして、材料を届けに来たしだいです」


 ラインハルトさんは俺たちが来た理由を手短に説明していた。この人ってホントに優秀だよな。ここにいるのが師匠だったらたぶんこんな簡単には行ってないと思うんだよね。


 ちなみにドラゴン鋼というのは金属の中で最高峰の硬さと軽さを持ち合わせた素材だ。しかも、マナが非常に通しやすい素材なので攻撃力をマナで上げることも容易い。


 そんな装備にとって最高峰の強さを誇るドラゴン鋼だが、作製コストが非常に高いため、市場に出回らない。まず、出土量が極端に低いミスリルをベースに作られる。そのミスリルにドラゴンの血をしみこませてから、どうにかする……らしい。

 リーシャにある程度の説明を受けたが、俺が分かったのはそれぐらいだ。後半の方については、最早なにを言ってるのか分からず、まるで呪文を唱えているかのように聞こえた。


「なるほどな。せっかくここに来たのだ。素材を渡すついでにわしたちの作業場を見ていくといい」


 俺達はアルノルトの言葉に甘え、魔術師ギルドを回ってみることにした。


「そういえば、私たち魔法を扱う者は『魔法使い』と呼ばれているのに、なぜ『魔術師』ギルドと呼ばれているのですか?」


 移動中、俺はずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。


「カルラくん、ここで扱っているのは『魔法』ではなく、『魔術』なのだよ。まず、魔術とは――」


 彼の琴線に触れてしまったのだろう。彼の魔術に対する説明が止まらなくなっていた。


 彼の話をかいつまむと、魔術とは魔道具を作製したり、大規模魔法である儀式魔法の使用に使ったりするのだとか。そういえば、昔師匠に習った気もするなぁ。正直よくわからなかった記憶がある。


 魔術は基本的に魔法陣を描き、そこにマナを流すことで効果を得られるといったものだとか。魔法陣という媒介として魔法を発動させるため、普段魔法を使うより、威力が高くなる傾向がある。その代わり、魔法陣に些細な不備があれば魔術の行使に失敗してしまうため、リスクが大きい。


 結局、魔術より扱いやすい魔法が今の時代に広まっているのだとか。ちなみに先日使用した合唱魔法も魔術の一部だとか。


「って、なんで合唱魔法のことを知ってるんですか!」


「儂等の界隈では有名だな。ほら、着いたぞ。ここが儂たちの作業場だ」


 こんな話をしていると、いつの間にかついていたらしい。俺たちが案内されたのは広い研究室のような場所だった。入ったところとは違い、試験管や、何かが入ったフラスコなどを複数人の白衣を着た人たちが捜査しており、その傍らには、光り輝く魔法陣が展開されていた。

 あの液体とかは魔術の媒体だったりするのだろうか。


 そう思いながら連れてこられたのは大きな装置の前だった。その装置は鉄のような材質で作られており、ところどころにポンプがあったり、上記が噴出している金属パイプがあったりなどしていた。その装置の真ん中には、巨大な魔法陣が描かれており、その外側には読めない文字が敷き詰められていた。


「この装置でドラゴン鋼が作れる」


 アルノルトさんは腕を組みながら話した。


「どれ、素材を渡してみなさい。この魔法陣にミスリルをかざして、ドラゴンの血をこちらのフラスコに入れる。そうすることによってミスリルに多数の亀裂が入り、そこにドラゴンの血が入ることで――」


 もしかしたらこの人は魔術オタクなのかもしれない。多分、話し始めたら止まらなくなる人だ。


「要するに?」


「要するに、この装置でドラゴン鋼が簡単にできる」


 なるほど、簡単だ。それにしても不思議な光景だったな。魔法陣の上にかざしたミスリルが空中に浮き、それが砕け散った後再びインゴットの形として形成されたのだから。しかも、新たに生成されたインゴットは見るからにマナを纏ってたし。輝きも全然違った。


「これがドラゴン鋼だな。ただ、この量を作るのは少々時間がかかる。また後日商業ギルドの方に送ると伝えておいてくれ」


 アルノルトさんは、そう言って再び作業へと戻った。


 あれ、俺たちのこと放置?まじ?


「アルノルト様はこういう人だから……」


 ラインハルトさんにそう言われ、アンナの方を見ると


「魔術オタクとして有名ではあるわ」


 と言われた。


 ……帰るか。

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