第29話 商業ギルド

 後日、ドラゴン討伐の件で再び俺たちは応接室に来ていた。メンバーは前と同じと思っていたんだが、知らないおじさんが追加されていた。


「いやはや、本当に小さいお嬢さんだったなんて。おっと失礼。自己紹介がまだでしたな。私は商業ギルドのギルド長を務めさせております、フェリックスと申します」


 そう言って目の前の恰幅の良いおじさんは、かぶっていた帽子を取り俺たちに一礼をした。


 商業ギルドのギルド長?どうしてこんなところに。


「実は、ドラゴンの死体についてなんだけど、商業ギルドの方に売却した方が利益大きいだろうと思ってね」


 ヴェルトスさんは、フェリックスさんがいる説明をしてくれた。それにしてもなんで商業ギルドに?冒険者ギルドで買い取った方が都合いいだろうに。


「大人の事情があるんだよ」


 ラインハルトさんが小声で教えてくれた。大人の事情……ねぇ。あんまり巻き込まれないことを祈りたい。


「商業ギルドに買い取ってもらうに当たって、オリヴィアが少ししたいことがあるらしくてね……」


 説明しようとするヴェルトスさんの声に、師匠が割って入った。


「あなた達、装備をそこまで気にしてないわよね?」


「まあ、気にしてないね」


 今着てる装備は、入学時に学校から支給されたものだった。これが微妙に性能良く、今まで困ってくることがなかったので装備を替えようと思うことがなかったのだ。とはいえ、先日の戦いは危なかった。装備がもっと良ければ幾分か楽だっただろうと考えたのは、一度ではない。


 もしかして……


「倒したドラゴンの素材で、あなた達の新しい装備を作ります!」


 師匠はそう高らかに宣言した。


 そのことについては、ドラゴンの死体を見た時から頭によぎっていた。どうやって作ろうか悩んでいたから、この話は非常に良いタイミングだったといえる。


「それで、その装備をついでにうちで作っちゃおうというわけでして」


 フェリックスさんが、手をもみながら話した。


「というわけで、商業ギルドの工房に行くわよ!」


「い、今からですか?」


 ラインハルトは戸惑った様子で師匠に聞いた。


「今からよ!」


 こうなった師匠はもう歯止めが利かないからなぁ。そんなわけで、俺たちは商業ギルドに向かうこととなった。


 ――――――――


 俺たちは師匠達に連れられて、商業ギルドの本部へと来ていた。


 商業ギルドは大きな館のような場所で塀に囲まれていた。正面は木製の重厚な門があり、真ん中には天秤をあしらった装飾がされていた。館本体は横長で、白を基調とした石材で作られていた。


「「ようこそ、商業ギルドへ」」


 館の中に入ると、数人の受付の方が一礼とともに挨拶をしてくれた。


「ついてきてください。まずはドラゴンの死体を査定しましょう」


 そう言われてフェリックスさんについて行くと、ずいぶんんと広いスペースに案内された。


「とりあえず、ドラゴンの死体を出してくれるかい?」


「わかりました」


 俺は、マジックバックから、ドラゴンの死体を引っ張り出した。マジックバックに入れてる間は物の時間が停止しているため、倒したときのままの状態で出すことができた。


「おお!」


 フェリックスさんは目に見えてわかるほど興奮していた。彼は懐からレンズと取り出し、ドラゴンの死体の一部を手に取り、眺めた。


「鱗、骨、肉の状態が実にいい。血もある程度は失っているが十分すぎるほど余っている。これは安く見積もっても白金貨数百枚はくだらない」


「「「は、白金貨数百枚!?」」」


 ドラゴンの素材は高価なのが相場だと思っていたけど、そこまでとは思ってなかった!


「魔石も十分大きい。これだけでも白金貨数百枚出してもいい」


 え!?莫大な金額に眩暈がしてきた。


「詳しい金額は今すぐに出せませんが、白金貨千枚は超えるでしょう。詳しく決まり次第、お渡しします」


 この場にいるすべての人間がその金額に息をのんだ。白金貨千枚だって!?ここにきてから驚いてしかいない。


「査定はこれぐらいですかね。それではついてきてください、次は工房まで案内します」


 そう言われ、放心状態でフェリックスさんについて行くと、先ほどまでの高級な雰囲気とは一変、熱気が漂い、金属を叩く音が響き渡る空間へと案内された。


「フェリックス様、何か御用でしょうか」


 工房に入ると、頭にタオルを巻いた少年が駆けつけてきた。


「リーシャに用事があってきたんだ。呼んできてくれるかい?」


 フェリックスさんがそういうと、少年は再び走って工房の奥の方へと向かった。


 少し経つと、工房の奥の方から、ハンマーを片手に持った女性が歩いてきた。この人がリーシャという人なのだろうか。


「フェリックス、あたしに用事って珍しいじゃないか。いったいどうしたんだい?」


「忙し時にすまないね、リーシャ。実はこの人たちの装備を作ってほしくてね」


 リーシャさんは俺たちのことを一瞥して、息を吐きだした。


「えらい別嬪さんやねぇ。冒険者かい?」


「冒険者も何も、彼女たちはドラゴンを討伐したんだよ」


 フェリックスさんの言葉を聞いたリーシャさんは眼を見開いた。


「ドラゴンをかい?!そりゃまたすごいお客さんが来たもんだ!」


「その倒したドラゴンの素材を使って、装備を作ってほしいんだ」


「ドラゴンの素材?!そんな珍しい素材を扱わせてもらうからには、気合を入れないとね。さあ、とりあえず採寸に行くよ!」


 リーシャさんに連れられ、俺たちは別室へと入り、採寸をした。


「あんたら、綺麗な身体してるね!」


「「「あ、ありがとうございます」」」


 俺たちは、リーシャさんの勢いに終始気圧されていた。


 採寸が終わり、みんなのいるところに戻るとみんな汗を流していた。ここ熱いしなぁ。


「多分、一週間ごぐらいにはできてると思うわ!」


 リーシャはそう言いながら、俺たちにサムズアップしてきた。この空間が熱い理由の6割ぐらいはこの人のせいな気がする。


「そういえばドラゴン鋼を使いたいから、魔術ギルドの奴らに会って頼んできてくれないかい?」


 あれ、これって魔術ギルドも行くかんじ?

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