幕間 ギルド長会議

 カルラたちがドラゴンを討伐した翌日、各ギルド長がアンベルク上に集まり、ギルド長会議を開いていた。


 円状の机の周りに3つの椅子があり、それぞれに冒険者、商業、魔術師ギルドのギルド長が座っていた。


「この三人が集まる久しぶりですな」


 そういって、しげしげとほかのギルド長の顔を見るているのは、商業ギルドのギルド長、フェリックス・バリエンテ。彼は類稀な商才とコミュニケーション能力を駆使して人脈を広げ、僅か三十二歳という年齢で商業ギルドのギルド長となった若き天才だ。


「前回は半年前だったか?今回は一体何なんだ」


 腕を組みながらそういうのは、齢七十五のおじいさんであり、魔術師ギルドのギルド長である、アルノルト・オルソンだ。彼は魔道具開発の第一人者で、彼の発明した「魔晶石の結合」という技術により、今までよりも大きな魔道具を動かすことを実現した。彼はその功績を称えられ、三十年前からギルド長をしている。


「ギルド長会議の招集なんて緊急事態以外にありますか?」


 溜息とともにそう言ったのは、今回のギルド長会議の立案者、冒険者ギルドのギルド長、ヴェルトス・レイナードだ。彼は元S級冒険者であり、十年前に父からギルド長の座を受け継いだ。親の七光りだな言われてきてはいるが、冒険者の待遇を改善したり、新たな土地を開拓したりなど、父にも勝る功績をあげてきた。


「それで、緊急事態とはなんだ?」


 アルノルトは、背もたれに持たれながら言った。主催者であるヴェルトスは一回深呼吸をして口を開いた。


「ドラゴンが、討伐されました」


 会場に響き渡る言葉に他の二人は言葉を出せなかった。


「ど、ドラゴンだと!?どこのだ、一体誰が、どうやって!」


 アルノルトは立ち上がって大声で叫んだ。ヴェルトスはまあまあ、と彼を宥め、話を続けた。


「まえは、経緯を説明しましょう。お二人とも、最近魔物のの調子がおかしいことはお話してましたよね?」


 ヴェルトスの言葉に二人は頷く。


「その異変の原因が、ドゥルガの森にあるということが調査によってわかりましてね。先日、うちの筆頭魔法使いであるオリヴィアと、ヘルゲンのトーナメント優勝者のパーティに、原因の発見とその解決の依頼を出しました。すると彼女らは、主であるローフェンとドラゴンを討伐して帰ってきました」


「主であるローフェンも?!しかも、撃退ではなく討伐!どうやって倒したっていうんだ!」


 アルノルトは再び信じられないといった顔で声を荒げた。

 

「彼女たちが言うには、合唱魔法を使用し各個撃破したそうです」


「合唱魔法だぁ?そんな伝説じみたものを信じろと?そんなの無理が――」


「とりあえず落ち着いてくださいよ。本題はそこじゃないでしょう?ね?」


 これまで口を開かなかったフェリックスがアルノルトを制止し、ヴェルトスに尋ねる。


「フェリックスの言う通り、本題はそこじゃありません。ドラゴンの遺体処理、それとカルラたちの処遇です」


 ヴェルトスは、この会議の本題を持ち出した。


「ドラゴンの遺体処理に関しては、商業ギルドに任せたいと考えています。魔術師ギルドには、商業ギルドを通して魔石を買い取ってもらいたいと思います」


「私は問題ないですよ」


「……魔石に関しては、買い取った額で売ってもらえるよな?」


「ええ。私どもとしては、他の素材が買い取れるだけで儲けものですから」


 ヴェルトスの提案にほかの二人は賛成の意を示す。


「しかし、その話だと冒険者ギルドに一つも利益がないのでは?」


 フェリックスはもっともな質問を投げかけた。この話では、冒険者ギルドはドラゴンの遺体に関する得を一切得ないということになる。


「私どもは、主がいなくなったドゥルガの森の解放と、それによって発生する大量の魔物の素材が発生するので、それでいいかと」


 こうして、ドラゴンを取り巻く利益の分配は三者の合意によって締結された。


「次にカルラ達への処遇ですが……」

 

 問題は、カルラ達への処遇である。特にカルラだ。十二歳という若さでありながら、筆頭魔法使いであるオリヴィアとマナ量で張り合い、伝承であった合唱魔法すらも使ってしまう。一応今は冒険者ギルドの所属だが、このままでは国の三頭政治のバランスが崩れてしまう。この代はいい。だが、次の代は?その次は?代を重ねるごとに、国が崩壊するリスクは高まっていく。そのことをここにいる三人は理解していた。だからこそ、三人とも黙ってしまった。


 重い空気が流れる中、アルノルトが口を開いた。


「国に所属させればいいんじゃないか?」


「それはどうゆう……?」


 ヴェルトスは突然の言葉に聞き返した。


「各ギルドに所属させようって考えてるからダメなのではないか。国として、3ギルド共有で所属させれば問題あるまい」


 アルノルトが言ってることは正しい。だが、それでは、新しい派閥が生まれてしまうかもしれない。


「なに、そいつはオリヴィアの弟子なのだろう?そんなことをする奴ではなかろう。それに、ギルド長の発言としてはあまりよくないが、この国は男尊女卑が激しい。オリヴィアが筆頭魔法使いとして任命される時ですら反発が多かったくらいだ。簡単には支持されて派閥ができるなんてことはあるまい」


 アルノルトの言葉にヴェルトスとフェリックスは思考を巡らす。確かに、このまま考えて結論が出ないくらいなら、その方がいいのかもしれない。


「わかりました。ではそのようにしましょう。フェリックスもいいかね?」


「問題ありませんよ。ただし、仮に新たな派閥ができることがあれば、その時は三派閥全部で潰すことを承諾してほしい」


「許可しよう。それでは、今回の会議は終了とする」


 ヴェルトスがそう言うと、他の二人は会場から出て行った。一人残ったヴェルトスは、ふぅと息をつき、腰を下ろす。


(ラインハルトが言ったとおり、彼女は何かを変えるかもしれないな。この国を、あるいはこの世界ごと……)


 そんなことを思いながら、ヴェルトスはそっと目を閉じた。

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