第28話 帰還
目覚めると俺は優しく、柔らかな感覚に包まれていることに気が付いた。ふと上を見上げると、そこには大きな双丘がそびえたっていた。俺は膝枕をされていることに気が付いた。
「あ、起きたみたい。大丈夫?」
大きな双丘の向こうからルリアーナの声がした。下から見て顔が見えないって、どんだけ胸が大きいんだよ。
「大丈夫だよ。それより、なんで膝枕を?」
俺は身体を起こしながらルリアーナに聞いた。
「ん~なんとなく?お疲れ様の意を込めてっていうのもあるかな」
なるほどなぁ。やっぱり女子の絡み方はまだわからん。
辺りを見渡してみると、森の中だというのに木々はなく、地面がところどころ抉られていた。それだけでそれだけ壮絶な戦いだったかが分かる。
「って、あれからどうなったの」
「師匠はまだ眠ってる。ドラゴンは貴方たちのおかげで倒すことができたわ」
アンナが指を指した先を見てみると、首を綺麗に切断され地面に倒れているドラゴンの死体があった。そっか……、俺たちは倒せたのか。……って
「ドラゴンを仕舞わないと!」
そうだよ、ドラゴンだよ!?ファンタジーでの最高峰だよ!?急いで仕舞わなきゃ!
俺は、ドラゴンの死体を血液も含めてすべてマジックバックに仕舞った。ローフェンの身体が粉々に砕けてしまったのが非常に勿体ない。
「ふぅ……」
「ん……騒がしいわねぇ」
ドラゴンの死体を仕舞い終えると、ちょうど師匠が起き上がった。
「師匠、私たち生き残ったよ!」
「まだ疲れてるけど……。終わったみたいね」
”勝った”というより”生き残った”という方がぴったりな戦いだった。
「それじゃ、帰ろっか」
ドラゴンを倒し、街に帰る俺たちを夕日が照らしていた。
――――――――
「以上が今回の報告よ」
俺たちは首都に帰った後、冒険者ギルド本部の応接室に来ていた。この部屋には、俺たちが依頼を受けた時と同じメンバー――ヴェルトスさん、ラインハルトさん、秘書っぽい人、俺達4人――が同席していた。
師匠の報告を聞いたヴェルトスさんとラインハルトさんは、呆然としていた。
「い、一応聞くけどその報告って間違いないよね?」
「間違いないですよ。何ならドラゴンの首出しましょうか?」
俺はマジックバックを机に置いて言った。
「いや、いいんだ。本当なら。それにしても、ドラゴン……か」
しばらく俺たちの間で沈黙が起こる。
「少し、時間をくれるかい?話し合いたいことがあるんだ」
ヴェルトスさんは立ち上がりながら言った。
「報酬とかは、後日渡すよ」
「わかりました」
俺たちは快く了承した。断る理由もないしね。
マジックバックを持ち、師匠を除いた俺達3人は部屋から出ようとした。
「そういえば、そのドラゴンの死体はどうするつもりだい?」
「あとで冒険者ギルドに売却しようかと……」
「それなら、取っておいてくれないか?後で伝手を紹介するから」
「わかりました」
俺たちは応接室から出た。
――――――――
応接室には、ラインハルト、オリヴィア、ヴェルトスとその秘書の四人が残っていた。
「内容を確認するよ?君たちはドゥルガの森へ行き、ローフェン及びドラゴンと交戦。失われた技術である合唱魔法を使用し、見事撃退…。これだけ聞くとにわかに信じられないな…」
「だけど、すべて本当のことよ」
オリヴィアの回答に額に手を当て考え事をするヴェルトス。
「今回の事件が解決したのは問題ないですが……。他のギルドとの関係がまずくないですか?」
この国は魔術ギルド、冒険者ギルド、商業ギルドの三頭政治で行われている。どこか一つが好き勝手出来ないように互いに牽制しあっているのだ。しかし、カルラの登場でその均衡が崩れてしまう。
自身の力のため、カルラを奪い合う戦いが始まってしまう。そうなってしまえばこの国は破滅の一歩を辿るだろう。
それだけは何としても避けたい。
「他の2人のギルド長と話し合う必要性があるな」
ヴェルトスは他のギルドのギルド長と話し合いの機会を設ける決断をした。
「それはそうと、ドラゴンの死体の件はどうするおつもりですか?」
ラインハルトは、ヴェルトスに問う。
「今のところは、フェリックスと会わせて考えようかと思ってるが……」
「それなら、私にいい考えがあるわ」
オリヴィアは胸を叩いて言った。
「ふむ、考えっていうのは?」
オリヴィアはラインハルトとヴェルトスに自身の考えを説明した。
「……それはいい案かもしれないな」
「それなら、フェリックスに会わせるのと並行しても構わないかな?どうせ余るだろう」
「それもそうね」
オリヴィアの案に、2人は賛成の意を示した。
「それじゃあ、今回の件について報告書としてまとめて提出してくれ」
「気が向いたらやるわ」
「そう言って、出したことがないだろう!」
ヴェルトスは呆れながら言った。
「はぁ……。悪いマグナス。オリヴィアから聞き出して報告書にまとめてくれ」
「分かりました」
「え、嫌だって!私は帰ってお酒を飲むのよ!」
マグナスと呼ばれたヴェルトスの秘書は、嫌がるオリヴィアを連れて部屋を出ていった。
「彼女にも働くということを覚えてもらいたいよ……」
ヴェルトスは呆れたようにつぶやいた。
「それにしても、彼女はとんでもない逸材を生み出してしまいましたね」
「ああ」
応接室に残された2人は、窓から覗く月を眺めながらこれからのことを考えた。
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