第27話 ドラゴン

「師匠!」


 俺は師匠の前に立ち、『マナ障壁』を多重展開した。次の瞬間、極太の光が俺たちを包んだ。俺の張り出した『マナ障壁』が一枚、また一枚とバキンと音を立てて割れていく。

 クソッ!足りるか?光による熱が『マナ障壁』を貫いて俺の腕を焼き焦がす。早く終われ!

 その願いが届いたのか、俺たちを包んでいた光は、俺の『マナ障壁』があと一枚というところで止んだ。


「はぁ……はぁ……」


「「「カルラ!!」」」


「今治すからね!」


 ルリアーナの手から放たれた淡い光が俺の焼き焦がれた腕を包み込み、細胞を再生していく。その光に包まれている箇所の痛みが引いていき、手の感覚が戻ってきた。


「私がいたのに……。ごめんなさい、私の不注意だったわ」


「それは後でいい、今はあいつに集中しよう」


 おれが指を指した先には、ドラゴンがいた。そのドラゴンは、人の数十倍の大きさをしており、紅の鱗に身を包んでいた。奴の口周りには、先ほどの攻撃の残滓なのか、光が漂っていた。


「ドラゴン?!やっぱり今回の件ってこいつが絡んでたのね……」


 ローフェンが出会った時には既に怪我をしていたのはこのドラゴンのせいか。どうしよう……。あいつにさっきと同じ攻撃を放たれればもう防ぐことはできない。

 ドラゴンはその大きな翼を使い、こちら側に風を切って近づいてきた。そして、鉄の塊でさえ簡単に引き裂きそうな鉤爪の付いた手を俺たちに向けて振りかぶってきた。

 俺は咄嗟に『マナ障壁』を多重展開した。数枚がすぐに音を立てて割れ、残った『マナ障壁』がドラゴンの攻撃を止める。


「このままじゃ、マナが持たない!」


「任せなさい!」


 師匠は、大規模の風魔法を起こしてドラゴンを吹き飛ばし、距離をとってくれた。助かる。


 俺と師匠はすぐさま水の球を創り、ドラゴンに放ち続けた。ドラゴンはまるで羽虫に絡まれているかのように鬱陶しそうに魔法払った。俺たちの魔法はドラゴンに傷を与えるには至ってない。だが、それでいい。目的は足止めだ。


「師匠!何か案はある?」


 俺は魔法を放ち続けながら、師匠に聞く。


「あるにはあるけど、別の足止めがいるわよ」


「わかった!アンナ!」


「何!」


 俺は準備万端と言わんばかりの闘志を纏い、剣を構えているアンナに言った。


「あのデカブツの相手少しだけできる?」


「わかったわ!」


 アンナはドラゴンに向かって”跳んだ”。放課後の訓練の結果、彼女は『跳躍』までも使えるようになっていた。マナ消費の関係上、長時間使用はできないらしいが、今はそれで充分だった。


 跳んだ彼女はドラゴンの腕へ飛び乗り、剣を突き刺し、切り裂く。通常、鱗で覆われた腕に剣を突き刺すなど不可能だが、ルリアーナの『身体強化』とアンナ自身の『身体強化』により、それを可能にしていた。


 彼女の方は大丈夫そうだ。俺は師匠に向き直った。


「それで、案ってのは何?」


「あのドラゴンは恐らく火属性の魔物よ。ということは水魔法が弱点だと思うわ。とはいえ、私の残りのマナ量的にさっきの合唱魔法は無理だわ。けど、別の魔法ならいける」


「……別の魔法?」


 俺は意味を反芻するように師匠の言葉を繰り返した。


「そう。付与の魔法は教えたわよね?」


 ああ、覚えている。冒険者学校に入る前の修行の日々に教えてもらった魔法の一つだ。効果は、選択した魔法の効果を文字通り、物に付与する魔法だ。直接発動するわけじゃないため、通常の魔法よりもマナが抑えられる。


 しかし、魔法の効果を得るには付与した物を相手に当てなきゃならず、しかも通常の魔法よりも難易度が高いため、魔法使いにとってはほぼ使われない魔法だ。


 もしかして……。


「あなたの考えているとおりよ。先程の合唱魔法を今度は付与魔法として使うの。あなたの友達であるアンナの剣にね」


 あの合唱魔法をもう一度、しかも今度は付与魔法……か。失敗は許されない。腹を括るしかなさそうだな。


「覚悟が決まったって顔ね。やるわよ。早く完成させないとあなたの友達が危ない」


 俺は少し、アンナの方に視点を移した。


 アンナは『身体強化』によって強化された筋力と『跳躍』をうまく使い、一発でも当たれば死のドラゴンの攻撃をうまく躱していた。が、ところどころ危うい場面があった。早くしないとアンナが死んでしまう。


 俺は師匠と手を繋ぎ、先ほどの魔法の感覚を思い出す。そして、先ほどの魔法の形を変え、アンナの剣を包み込むようにイメージする。


「「ネプチューンズティアドロップス・エンチャント!!」」


 先ほどローフェンを屠った時と同じ宝石が俺と師匠の頭上に現れ、ドラゴンと交戦中のアンナへ跳んでいき、包み込む。アンナを包み込んだ宝石は剣へと溶けていき、それと同時にアンナの剣も水色へと輝き、そして大きく変化していく。


「これは……」


 アンナは自身に起こったことを直に理解し、輝く剣を再び強く握りしめる。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 アンナはドラゴンの頭の高さまで跳び上がり、自身の身体の何倍もの大きさの剣をドラゴンの首に向けて振り下ろした。


 ズバッという音とともにアンナの剣は、硬い鱗に覆われたドラゴンの首を切り裂いた。首から上が落とされたドラゴンは体の力が抜け、ドスンッという音と共に地面に倒れた。


 倒した……。


 俺は自身を襲う危機が去った安心感か、はたまたマナが枯渇してしまったのか、俺の意識はそこで途絶えた。

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