第21話 決勝戦 (3)
「今回呼んだのは、先ほどの試験中に起こったことについてよ」
「エニスの件ですか?」
「そうよ」
確かにエニスには不思議なことが多かった。なぜあれだけの魔道具を持っていたのだろうか。どうして使用禁止されていた魔道具を持ち込むことができたのか。そして、最後に飲んだ液体は何だったのか。
「疑問に思うことは多かったと思うけど、一つ一つ説明するから聞いてね。まず――」
担任の話は簡単だった。持っていた魔道具や液体は何者かから入手していた。会場に持ち込めたのは、教師に賄賂を渡していたとのことだった。
「何者かから入手したって、誰なんですか?」
「わからない。誰かと取引した記録は残されているけど、肝心の人物に関しては消されていたわ」
ふむ……。
「けれど、安心してほしい。おそらくだけど、あなた達に危害を直接加えることはないと思うわ」
「どうしてですか?」
「自身の名前を記録から消すほど慎重な者よ。直接危害を加えるなんて目立つようなことはしないと思うの」
確かに……。それらそこまで心配することはないか?
「これでこの件の話は終わりよ」
この件
「まずは、2人とも、トーナメント優勝おめでとう」
2人とも?後ろを向くと、アンナが少し目をそらしてきた。まさか……
「アンナって優勝したの!?なんで言ってくれなかったの?」
「なんでって、それはカルラがあんな事になってそんな余裕は……」
アッ……ハイ、スイマセン……。
「それで優勝した時の商品なんだけど、これ」
そう言って俺とアンナは手紙を渡された。
「これは?」
「それは首都で行われる立食パーティーへの招待状よ」
立食パーティー?なんでそんなものが?
「いつもだったらお金だったり、ちょっとした魔道具だったりするんだけど、今年からそれに代わったのよ。なんでも、『これからを代表する冒険者の卵との交流する機会が欲しい』とか何とかで」
なるほどなぁ。あれ、でも俺とアンナしか招待状をもらってない。まあ、ルリアーナは優勝してないから仕方がないのだけれど……。
「どうにかしてルリアーナも一緒に行けないですか?」
「そういえば、君たち3人は同じパーティだったね。いいだろう、特別に許可するよ。後日立食パーティーの説明とともに、ルリアーナさんの分も渡すよ」
よし!これで満足だ。
「それじゃあ、今日はお疲れ様。みんな部屋に帰って疲れを癒してね」
そう言って、先生は応接室から素早く出ていった。彼女は今からも仕事があるのだろう。教師は大変だねぇ。
「私たちも帰ろっか」
俺たちは、寮へと向かった。
「ほんとにあたしもついて行っていいのかな……。優勝してないのに」
「担任がいいって言ったから良いんだよ。それにしても首都か……。2人は行ったことがあるの?」
「あたしは行ったことないよ。だからすっごく楽しみ」
「……私は実家があるわ」
アンナは少し不機嫌そうに答えた。あんまりこのことを聞かない方がいいかな。そのあとは各自部屋に戻り、必要なものをとって大浴場へと向かった。
大浴場は先日、遠征から帰ってきた2、3年生たちでにぎわっていた。パジャマパーティーの時に3人で入った時とは大違いだ。
「あ、トーナメント優勝した娘たちじゃん」
「聞いてるよ~。あの娘、不正した奴を倒したらしいよ」
「まじ?めちゃつよじゃん」
「もう一人の娘も、優勝まで相手を圧倒し続けたらしいよ」
「え~?今年ってもしかして当たり?」
どうも俺たちは有名人らしい。注目を浴びるのはそんなに好きじゃないんだけどな……。
「ウチたちは先輩だけど、そんなに気にしないでいいからね。実力主義だし」
そのあと俺は、先輩たちからの質問攻めにあった。どうやって倒したのかとか、どれだけ強かったのかとか、マナは大丈夫だったのかとか。
やっとのことで質問攻めが終わり軽く体を洗って湯船に浸かった。湯船にはすでに2人の姿があった。
「ふぅ」
「大変そうだったね」
「ルリアーナも人のこと言えないでしょ」
実は俺が質問攻めにあっている裏で、ルリアーナも俺と同じような状況になっていた。なんでも、入学した時とは大違いで何があったのか気になる人が多かったそうだ。そこで、『俺に教わった』なんて言ったものだから俺への質問攻めが助長されたのだが。
「アンナはそこまで注目されなかったよね」
「私は戦士学科だからね。女性の先輩がいないのよ」
確かに、ここにいる先輩はすべて魔法学科の生徒だ。そもそも力で勝つことが難しい女性が戦士学科に入る方がイレギュラーなのだ。やはり性別の壁は些細なものなのではないかと、アンナを見てると思えてくる。
どっかの科学者が言ってたじゃないか。『九十九%の努力と一%の才能が必要』とかなんとか。性別の壁も同じじゃないのかな?
アンナが相手を圧倒して優勝したのも、努力の賜物なんだろうなと感じる。やっぱり、この国の男尊女卑は変えないとだよな……。そんなことを考えながら俺たちは大浴場を出て、各部屋に戻った。
今日はいろいろなことがあった。ここまで濃い一日は生まれて初めてかもしれない。それにしても、エニスは優勝して何がしたかったのだろう。絶対に優勝しなければならない、みたいなことを言ってたけど。まあ、今となっては知ることはできないか。
俺はこれからのことを考えながら、今日の疲れを癒すように眠った。
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