第20話 決勝戦(2)

「はははははは!避けろ、足掻け、苦しめ!」


 俺はエニスの攻撃を『マナ障壁』で受け続けていた。エニスはあの液体を飲んでから、人が変わったかのように魔法の質が変わった。一つ一つには込められているマナの量が大幅に増えたのだ。当たればただではすまない魔法を雨のように浴びせてくる。おかげで防戦一方だ。


 このままでは俺のマナが尽きるか、あいつのマナが尽きるかの勝負だ。だが、あいつのマナがなくなる気配はない。これはもはや試合ではない、死合いだ。俺も殺す気じゃなきゃやられる。


 俺は『ウィンドカッター』を十数個展開し、エニスを牽制しながら大魔法の準備に取り掛かった。おそらく、エニスが飲んだのはドーピングのようなものだろう。だから、『マナ障壁』も相当厚いものとなっているだろう。であれば一撃で破り去るしかない。


「お前の力はそんなもんじゃないだろう!お前の全力を見せてみろ!」


 なんだこいつさっきから!うるせぇ……。あの液体に薬物のようなテンションがハイになる成分でも入ってるんじゃないか?


「ああもう、うるさいな!これでも喰らっておいてよ!」


 俺はエニスに雷を落とした。これ無理だったらちょっとキツイかもな……。マナももう底が見えかけてるし……。


「ぬるい、ぬるいぞ!その程度で、私を殺せるとでも……ん?」


 エニスの身体は話してる途中で崩れ落ちた。


「あ、れ?確かに俺は防いだはず。なぜ……?」


「私の落とした雷は、自在に操ることができる。もちろん、落ちた後もね」


 俺は、エニスが『マナ障壁』を解いた後すぐに空気中に散っていった雷の残滓を集めてぶつけた。本当に痺れさせることができるとは思わなかったけど、うまくいってよかった。


 俺は動けなくなったエニス近づき、気絶させた。エニスが気絶すると、『消音サイレント』の効果が切れるのがわかった。俺はエニスが言っていたこと、やっていたことを先生に報告した。小瓶の液体を飲んだことを説明すると、先生は驚いていた。エニスが展開していた『消音サイレント』には、幻覚を見せる効果もあったらしい。


 先生やほかの生徒には、エニスが俺を圧倒しているように見えていたらしい。それが突然エニスが倒れたように見えたため、とても驚いただとか。


「カルラ!大丈夫だった?怪我はない?」


「怪我はないけど……すっごい疲れた」


「よかった……。それと優勝おめでとう!」


「ありがと……」


 そういった俺の視界は徐々に暗くなっていき、意識を失った。


 ――――――――

 

 目が覚めると、見知らぬ天井が目に入ってきた。ここは救護室か?右のほうを見るとベットに突っ伏して、ルリアーナが寝ていた。


「ルリアーナ、心配してたわよ」


 振り向くと、アンナが座っていた。


「それにしても、体調はいいの?」


「うん、今は元気だよ。たぶん倒れたのも疲れたからだろうし――」


「マナ耗尽症候群こうじんしょうこうぐん


「え?」


「あなたの診断結果よ。普段使わない量のマナを短時間で使うことによる病気らしいわ。後遺症とかはないみたいだけど。」


 思えば、あれだけのマナを今まで使ったことはなかったかも。俺が今までに苦戦する相手がいなかったって言うのもあるか。


「カルラ、無茶し過ぎよ」


「え?」


 ふと見たアンナの眼には涙が浮かんでいた。


「突然倒れたって聞いて、どれだけ心配したか……」


「アンナ……」


 アンナは自身が涙をこぼしていることに気が付いたのか、袖で涙をぬぐった。


「……ごめんなさい。今のは忘れて」


 こんな彼女は初めて見た。ルリアーナも俺のこと心配してくれていたみたいだし。


「ん……ぅ~ん……。カルラ!起きたの?!身体は?!」


 ルリアーナは俺に抱き着いて言ってきた。


「平気だよ。特に後に響くようなものでもなかったし」


「心配したんだからね……!」


 そういう彼女は涙を流していた。


「心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫だよ。ほら」


 俺は近くにあった差し入れと思われる果物を魔法で浮かして見せた。


「こうやって魔法も問題なく使えるし、ね?」


 そう言って俺は2人に笑いかけた。


 ――――――――――


「特に後遺症とかはないみたいね。だけど、しばらくは無茶したらだめだからね?次は死んじゃうかもしれないから」


「わかりました。ありがとうございます」


「いえいえ、これが私の仕事だからね」


 俺たちはあの後、救護担当の先生に診察を受けていた。先生曰く大した問題はないらしい。ただ、今後一週間は無茶をしてはいけないそうだ。


「そういえば、あなたの担任が呼んでいたわよ」


 担任が?なんの話だろう……。


 俺たちは担任のところに向かった。ちなみに、うちの担任は教師でも珍しい女性だ。名前は覚えてない。


「カルラさん、来たのね。後ろの2人はルリアーナさんと、確か戦士学科のアンナさん?本当はカルラさんにだけ話すつもりだったけど……まあいいわ。少し場所を変えるわよ」


 そう言われた俺たちは担任について行き、応接室に来させられた。


「今回呼んだのは、先ほどの試験中に起こったことについてよ」

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