第18話 準決勝
扉を開けて会場に入ると、そこには対戦相手がすでにいた。相手の名前は、エルムント・グライハートだった気がする。なんかどっかで聞いたことがある名前な気がするんよなぁ。
俺が心当たりを探していると、エルムントは俺に向かって指をさしながら叫んできた。
「ここであったが100年目!入学試験の時の憎しみを今こそ晴らさせてもらおう!」
ああ!あの時の!どおりで聞き覚えがあるわけだ。初戦の対戦相手こいつなの?なんか縁があったりする?
「おい、聞いてるのか!まさか俺のことを忘れたわけではないだろうな!」
実際さっきまで忘れてたから何も言えない。俺、人の名前覚えるの苦手なんだよなぁ。話すのめんどいし無視しちゃお。
「Dブロック第一回戦、開始!」
試合開始の合図とともに、俺は拳大ほどの『ウィンドカッター』をエルムントの周りに大量に配置し、一斉に飛ばした。それと同時に、自身に強化魔法をかけ地面を蹴り、高速でエルムントとの距離を縮めた。そして、エルムントの顎に向けて拳を振る。ルリアーナの戦い方を参考にしてみたのだ。
俺の突然の攻撃に対してエルムントは何もできず倒れた。まさかの脅威の開始10秒にも満たない時間で俺の勝利となった。
この後の試合も大体同じような勝ち方をした。一斉に飛ばす魔法を変えたり、魔法をランダムに撃ったりアレンジは加えたけど。
俺とルリアーナのことはほかの学生の中でも話題になってるみたいだった。俺たちが女性というのもあるだろうが、やっぱり戦い方が珍しいというのもあるのだろう。まあ、魔法使いは基本的に肉弾戦をしないからな。殴るために『身体強化』をするより、普通に魔法を使った方が早いしコスパがいい。意表を付けるっていうのは唯一の利点だが。
次の試合からは各ブロックを勝ち進んできた者同士が戦う。つまり、俺はルリアーナと戦わなければならないのである。俺たちは会場で中心で向き合った。
「油断してたらかっちゃうからね」
「油断なんてしないよ。全力で受け止めるから」
試合開始の合図の後、先に動いたのはルリアーナの方だった。彼女は俺の周りに風の刃を何個か同時に展開し、それを俺に飛ばした。それと同時にルリアーナは自身に『身体強化』を掛け、俺との距離を急速に詰めて殴りかかってきた。
その攻撃方法はまるで先程までの試合で俺がしてきた戦い方だった。
魔法使い同士の戦いに近接戦闘を持ち込むと相手の意表をつける。故に強く、その攻撃方法の有用性があるのだ。既に来ると予測できていれば対応するのは簡単。
俺はルリアーナの攻撃を全て『マナ障壁』で弾き距離をとる。それと同時に仕返しとばかりに十数個の炎の玉をルリアーナに向けて放った。それと同時に俺はある魔法の準備をした。俺が放った火の玉は着弾と同時に小さく爆発し、土煙を巻き上げた。少し経ち、土煙が晴れて出てきたルリアーナは無傷で立っていた。
「この程度の攻撃であたしが倒れると思わないでよね!」
そういいながら、ルリアーナは再び風の刃を何個か展開し、俺に飛ばしてきた。先程の魔法と、大きさ、数どちらも同じほどだった。しかし、一つ一つに込められているマナの量が圧倒的に多くなっていた。
ルリアーナは他にも、火の玉、水の槍と次々と魔法を放ってきた。
俺はその飛んでくるすべての魔法を『マナ障壁』で弾いた。俺の周りには受けた魔法の余波によって土煙でおおわれていた。
このままじゃ周りが見えないな……。
そう思い、魔法で風を起こして自身の周りの土煙を吹き飛ばした。土煙が晴れる直前、ルリアーナが岩でつくられた剣を持って飛び出してきて、切りかかってきた。
ルリアーナの剣は俺の服を切り裂き、服の下に展開していた『マナ障壁』によって弾かれた。
危なかった……。土煙でおおわれた時に保険で『マナ障壁』を展開してなければ今頃俺は負けていた。
「やっぱり勝てないかぁ……。頑張ったんだけどなぁ」
ルリアーナは悲しそうにつぶやいた。
「この試合はあたしの負けだけど、最後にカルラが準備しているその魔法を見て負けたいな」
「気づいてたの?」
「だってずっと防御してばっかりで攻撃してこなかったじゃん」
そっか……俺もまだまだだな。
「じゃあ、いくよ」
そういい俺は右手をルリアーナに向けた。その手からルリアーナに向けて白い雷光が放たれた。ルリアーナは咄嗟に『マナ障壁』を展開したが、俺が放った雷光はいとも簡単にルリアーナの『マナ障壁』を貫いた。
俺の魔法を食らったルリアーナは気絶し、体から力が抜けていった。俺は倒れていくルリアーナに素早く駆けつけ、彼女の身体を受け止めた。気絶した彼女の顔に浮かぶ笑顔は、俺には輝いて見えた。
――――――――
俺は救護室に来ていた。気絶したルリアーナの様子を見るためだ。扉を開けると、ルリアーナは既に目を覚ましていた。
「カルラじゃん!どうしたの?」
「ちょっと様子はどうかなって。見た感じ元気そうだね」
「回復魔法があるからね。それに、魔法があたしに当たる前に魔法を弱めたでしょ」
「……バレてたか。まあでも、何事も無さそうでよかったよ」
「それにしても、最後に使った魔法って何なの?」
「あの魔法は、簡単に言うと雷を生み出す魔法だよ」
この世界の魔法は基本的に、火・風・水・土の四属性しかない。しかし、2種類の属性を組み合わせることで別の魔法を創り出すことは可能である。例えば、水の魔法と温度を操る火の魔法を合わせることで、氷を作り出せるとか。
俺は、魔法作り出せることに注目した。魔法とはイメージだ。ならイメージをしっかり浮かべることができれば新たな魔法を作り出せることができるはず。そう思い、ルリアーナとアンナに魔法を教える傍ら、魔法の実験を繰り返していた。
試合の最後に打ったあの魔法はその創作魔法の1作目だ。雷が発生する仕組みは現実の学校で習ったからイメージを浮かべるのは比較的に簡単だった。生まれた初めて学校の授業が役に立ったと思ったよ。
俺の説明を聞いたルリアーナは目を丸くしていた。
「それってさ……、なんかすごい発明をしてない?」
……あれ?確かによくよく考えればすごい発明じゃない?だって魔法は創り出せるんでしょ?あれ、あの場で使ったのまずかった?
「うーん、考えても仕方ない。切り替えてこ~!」
「それでいいんだ……」
ルリアーナと立場が逆転してる気がするけど、気にしない!
「はぁ……。ともかく、あたしに勝ったからにはちゃんと優勝してよね!」
「うん、ちゃんと優勝してくるよ」
そう言って俺は明日の決勝戦への決意を固めた。
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