第17話 学期末テスト
「ルリアーナには、まずこれをできるようになってもらおっかな」
そう言って、俺は指の上に水で数字を出した。パジャマパーティーの翌日、俺たちは冒険者学校の体育館に魔法を練習しに来ていた。
「そんなの無理だよ~!」
ルリアーナは悲鳴をあげていた。でもこれができるぐらいにはなってほしい。マナのコントロールは魔法の基本だ。おそらく彼女が攻撃魔法を得意としないのもコントロール力が足りないせいだ。
アンナは俺たちから少し離れたところで瞑想を行っていた。マナを自身になじませているのだろう。
ふと、気になったことがあったので、俺は魔法で岩を出し、『身体強化』で自身の拳を強化して岩を殴った。『身体強化』を施した俺の拳は容易く岩を砕いた。
「ルリアーナ。私に『身体強化』をかけてもらえる?」
そう言ってルリアーナに『身体強化』をかけてもらい、再び岩を砕く。やはり同じように岩は砕ける。今度は先程出した岩の倍ほどある岩を出して、殴る。すると岩は粉々に砕けた。
「やっぱり……。ルリアーナ、君の『身体強化』は規格外だね」
「……どゆこと?」
説明するには、『身体強化』の仕組みについて説明する必要がある。『身体強化』は重ねがけは効果的でない。というのも1回目の『身体強化』を1とすると、2回目の『身体強化』は半分の1/2となる。3回目はさらにその半分だ。
さらに『身体強化』は他人にかけると、効果が著しく低下する。だが、稀にその制限なく他人に『身体強化』をかけられる魔法使いがいる。ルリアーナもその一人だ。しかし彼女はそれだけにとどまらない。最初に説明した仕組みも無視するのだ。
いくら他人に『身体強化』を制限なくかけられるとはいえ、もともと『身体強化』がかかってる人には効果が薄くなってしまう。しかしルリアーナの場合は、何の制限もなく『身体強化』をかけられるのだ。
「要約すると、ルリアーナの『身体強化』は規格外ってことだよ」
これはとんでもない発見だ。ルリアーナの技量が上がれば上がるほど、その恩恵は大きくなっていく。
そんな発見をしたり、アンナに魔法を教えたりしてその日は過ぎ去っていった。おそらく練度は日を追うごとに上がっていくだろう。
次の日からは、授業が終わった後、冒険者ギルドに行って依頼をこなしたり、魔法の指導をしたり、時にはパジャマパーティーをしたりして平和な日常が過ぎ去っていった。
――――――――
そんな日々を過ごしてしばらく経ち、遂に学期末テストの時期が来た。
冒険者学校の学期末テストは筆記テストは行われない。その代わり実技テストとなる学科トーナメントが行われる。入学試験の時と同じように、勝ち負けだけではなく、戦い方なども評価ポイントとなっている。とはいえ勝ち進んだ方が評価は高くなるが。
評価が低ければ、留年や退学といったことが考えられるため頑張らないといけない。ほかにも、優勝者にはご褒美があるとか。ぜひ優勝してみたいよね。
今日は対戦表が張り出される日だ。
「私たち別のブロックだね」
「勝ち進んでカルラにも勝って優勝してやるんだから!」
「そう簡単には負けないからね!」
そう言って互いの決意を示した。トーナメントは明日からだ。気合を入れていこう。
翌日、俺たちは専用の会場でトーナメントを行った。ブロックはAブロック~Dブロックの4ブロックに分けられており、各ブロックで勝ち続ければ5回戦うこととなる。そのあと各ブロックで勝ち進んだ人同士が戦い、優勝者を決めるといった感じだ。ちなみに、俺はDブロックでルリアーナはCブロックだ。
トーナメントはAブロックから行われるので、俺はルリアーナの試合を見てから自身の試合に行くことにした。
ルリアーナの対戦相手は、レオンっていう男だ。炎の魔法を得意としている。さて、どんな戦い方をするのかな?
試合が始まると同時に、レオンはルリアーナに向けて拳大ほどの炎の球を数個投げた。ルリアーナは『マナ障壁』を展開してそれを防ぐ。
レオンの攻撃を防いだルリアーナは反撃とばかりにレオンの四方八方に風の刃を創り出し、飛ばした。レオンはその風の刃を『マナ障壁』で防ぎつつ、炎の球を負けじとルリアーナに投げていた。
しかし、手数は圧倒的にルリアーナの方が多く、徐々にレオンが押されていった。このままだと勝てないと悟ったレオンはルリアーナからの射線を切るために、2人の間に炎の壁を創り出した。見えない間に移動して体勢を立て直そうとしたのだ。
しかし、次の瞬間にそれが悪手だったとレオンは感じた。ルリアーナは炎の壁を破って、高速でレオン近づき、殴りかかった。突然のことで反応ができなかったレオンはルリアーナの拳をまともに喰らった。
強化魔法が施されているルリアーナの拳をまともに受けたのだ。無事なわけがないだろう。案の定、レオンは気絶していた。
魔法使いの戦いに、肉弾戦を入れて敵の意表を突いたルリアーナの勝ちで、試合は終わった。
ルリアーナも成長したなぁ。放課後魔法を教えてきた甲斐があったよ。この後もルリアーナは順調に勝ち進んでいき、Cブロックの覇者となった。
今度は俺の番だな。
そう思いながら、俺は一試合目に臨んだ。
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