第16話 パジャマパーティー(2)

「可愛い~!」


 そういいながら、ルリアーナは俺に抱き着いてきた。俺たちは、大浴場を出て部屋に戻り、絶賛動物パジャマに着替えたところだ。


「ちょ、息が……苦しっ……」


 そして俺はルリアーナの胸の暴力によって、死にかけていた。胸で顔を包むのやめてほしい。自身の身体をもっと把握してくれ。

 ルリアーナはごめんねと言いながら俺を解放してくれた。ちなみに今アンナは着替え中である。とか言ってたら、着替え終わったみたいだ。


「ど、どうかしら」


 扉の奥から出てきたアンナの姿は可愛いの一言に尽きる。普段凛とした佇まいをしている彼女が、猫を模したパジャマを着てるのは、彼女の違った一面のようで彼女のかわいらしさがより、引き立っていた。

 アンナの姿が可愛いってことは……


「可愛いよ~!」


 だと思ったよ。俺の視線の先では、ルリアーナがパジャマについてる尻尾を振りながらアンナに抱き着いていた。ちょっと待て、どうやって尻尾振ってるの?


「ちょ、ちょっと、抱き着くのはやめ……」


 まあそうなるよね。俺の中でルリアーナ陽キャ説出てるけどそろそろ立証できそうだ。そういえば……


「アンナが猫なのはわかるけど、なんで私はキツネなの?」


「なんで私が猫なのよ…………」


 ルリアーナに開放されたアンナが額に手を当ててつぶやいた。なぜって、ツンデレっぽいから。


「ん~神聖な感じがするから?」


「神聖な感じ?」


「うん。あたしが治癒魔法を使うときに感じるのと同じ雰囲気を感じるんだよね」


 彼女が使う治癒魔法は一般的には火水風土の4属性には分類されない、聖魔法とされている。聖魔法とは文字通り神聖な魔法として扱われており、神の祝福と考えている。

 ルリアーナはそれを毎日のように使っているからこそ神聖な雰囲気を感じ取れるのだろうか。それにしても、なんで俺からそんな雰囲気を感じるんだ?転生したからか?


 にしてもキツネかぁ。日本の伝承でもキツネって神聖なものとして扱われているから、この世界でも同じようなものなのかもしれない。


「そういえばベットどうしようか」


「さすがに自分の部屋から持ってくるのは骨が折れるわよね……」


「こんなこともあろうかと、用意してました!」


 そう言いながら俺は2人分のベットを出した。今日の買い物で一人になった時に買ってきたのだ。


「おお~!」


 俺は3人分のベットをくっつけて大きなベットを作った。


「さて、と。今から何をしようかな。寝るには少し早いし」


「はいはい!カルラと師匠の話を聞きたい!」


「私も興味あるわね」


 2人からの強い要望があるなら話すしかないか……


「どこから話そうかな……。まずは出会いを話そうか――」


 ――――――――


「――って感じだったよ、私の師匠は。大体話は終わりかな」


「へぇ、そんなことがあったんだ。カルラが強いのも納得だよ」


「次はどんな話をする?」


 そう話を振ってみると、アンナが小さく手を挙げた。


「突然で申し訳ないのだけれど……魔法を教えてほしいの」


 魔法を教えてほし?急な話だな。


「最近、私は自身の力不足を感じていたわ。そしてさっきの話を聞いて思ったの。あなたに教えてもらえばもっと強くなれるって」


 それってつまり……


「私の師匠になってほしいの」


 そういうことだよね!無理だよ!俺教えるの下手だって!前世会社でも『お前に教育係は向いてない』って言われるほどだったんだから!


「あ、ずるい!あたしも教えてほしい!」


 ルリアーナ、お前もか!ああもう、断ることできなくなったじゃねぇか。はぁ……。


「私が教えるからには覚悟してよね!」


 俺は腹を括ってそう宣言した。


「まずはマナを感じるところからだね」


 魔法を使うためには、マナを感じることが必須である。とはいえ、マナは皆普段から意識下で感じている。今回は自分のものとしてしっかり認知することだ。


「ちょっと手を出してもらえるかな」


「こうかしら」


 俺は差し出された手を握った。アンナの手は滑らかな肌でひんやりとしていた。俺はアンナの手を介してマナを送り、そのマナを使ってアンナの中のマナを動かす。

 マナの感じ方は2通りある。一つめは昔俺がやったように概念からつかむ方法。もう一つは今やってるみたいに他の人にマナの存在を教えてもらう方法。


「何か身体の中で動いていうのがわかる?」


「ええ」


「それじゃあ、それを自分で動かせるかやってみて」


 そう言うと、アンナのマナが少し動いたことが感じられた。この時点で魔法を使う素質はある。


「これが、マナ……」


 アンナは驚いたような顔をしてつぶやいた。昔の自分と重ねてしまいとても懐かしい感じがした。


「あとは、マナをゆっくり自分の体になじませること。魔法を覚えるのはそれからだね」


「すぐに魔法は覚えられないってわけね……」


「そう。ローマは一日にしてならずってね」


「ろーま?」


「何事もすぐにはできないってことだよ。時にルリアーナ」


「何?」


「ルリアーナに教えるのは明日でいい?今日はもう遅いし」


 彼女は快く承諾してくれた。明日から忙しくなるんだな……。


「今日はもう遅いし寝よっか」


 俺はベットに寝転がった。両隣には2人がいる。寝ようと思い目を閉じていると、ふとアンナから抱きしめられた。


「え?どうしたの?」


「いつも寝てるときに抱いている抱き枕を部屋に忘れてしまって……。その……今日だけでいいから抱き枕になってくれませんか?」


 え、意外。


「別にいいけど……」


「2人だけずるいよ!あたしも~!」


 そう言ってルリアーナも抱き着いてきた。


 く、苦しい……。これ寝れるかな……。


 そんな心配は杞憂で、2人に抱き着かれながらぐっすりと眠った。

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