第13話 男尊女卑

 翌日、学校に行ってみると俺たちがDランクになっていることが話題になっていた。男子たちの反応は、どうやったのか、何があったのかと聞いてくる奴らが半分、女のくせにと妬む奴らが半分といった感じだった。


 妬んでいるのにどうして突っかかって来ないのだろうと思っていたら、試験の時の話が広まっているらしい。つまり、勝てないから陰口をたたいてるだけだとか。

 努力すればいいのに、と思うのは少し可哀そうか。俺は努力以外の部分もあるからね。偶然の産物だが。


 ともあれ、そんな居心地がいいような悪いような午前中が終わり、午後になった。今日も3人で依頼を受けるつもりだ。ランクが一つ上がったことで、選択できる依頼の幅も大きくなったはずだ。

 ルリアーナと2人で戦士学科の教室に向かうと、騒がしかった。何事かと覗いてみると、アンナが十数人ほどの男子に取り囲まれていた。


「女のくせによぉ、俺より冒険者ランクが上ってか。調子に乗んじゃねぇぞ!」


「そもそも女が戦士学科にいるって事さえ気に食わねぇのによぉ」


 男子が話してるのは、冒険者ランクのことについてだった。そもそもここは現代社会では考えられないほどの男尊女卑の世界だ。魔法学科は肉体を使わずただの才能で決まってくるため、男尊女卑の考えが薄れているが戦士学科ではそうはいかない。

 戦士学科ではパワーがすべて。人間という生物である以上基礎的な力は女性より男性の方が強いことが多い。アンナも例外ではなく、普通の男性よりは力が強いが、戦士学科の人間ともなれば、負けてしまう。


 現に彼女の戦い方は、力でゴリ押すのではなく、持ち前の素早さで敵を翻弄しつつ、出来た隙を逃さす捉える感じ。

 そんな彼女は男子複数人に囲まれてしまえば成す術はない。それを男子達は分かっているのだろう。だからこうして複数人で囲っているのだろう。


 アンナも抵抗の意志を見せようとする。が、この人数の前には無力だ。実際に手は出していない。しかしこれは実質的な私刑リンチだ。


「ちょっと通してもらえるかな」


 やじ馬たちの間を縫い、アンナのもとへと向かう。


「ちょっとどいて」


「あ?なんだよお前。ってお前も女じゃn」


「うるさい、ちょっと黙ってて」


「……っ!」


「アンナ、行こう」


 俺はアンナの手を引いてその場から離れようとした。


「おっと、まだ話は終わってないぜ」


 俺たちの前に一人の男子が立ちはだかった。


「何の用」


 俺は目の前の男子を睨みつけながら言った。正直俺はこの状況にイラついていた。なぜ女性というだけでここまでされなくちゃいけないのだろうか。しかもただ己の怠慢が招いた結果による妬みなんかで。


 アンナは努力している。それも人一倍の。それは彼女の剣を見ていれば一目瞭然だった。それに、俺は初めてこの街に来た時見た、人を助けようとするアンナを見ている。なぜこんなにも優しい子がこんな目に合わないといけないのだろうか。


 そんなことを考えながら俺はある魔法を準備していた。


「その後ろの女との話が終わってねえんだよ。それなのに帰りますだぁ?笑わせてくれる。おい、なんか言ったらどうだ?何もできない・・・・・・アンナさん?」


 その言葉で、俺の中の何かがブチッと音を立てて切れた。


「そんなに話がしたいなら私が代わりに聞いてあげるよ」


「それは願ってもない話、だ!」


 そういいながら男は殴り掛かってきた。俺は『マナ障壁』でそのこぶしを防ぎながら、指を鳴らした。


 その瞬間、俺とアンナ、そしてアンナを取り囲んでいた男たちは、第一体育館へと移動していた。急激な周囲の変化に驚いている男たちに向けて言った。


「話せる状態だったら、ね」


 ――――――


 な、なにが起こったんだ?急に周りの景色が変わって……。ここは体育館か?なんで俺たちは体育館に……。


「覚悟してよね」


 目の前の女はそういうと俺たちに暴風が襲った。俺は周りの奴らとともに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。俺たちは殴りかかりに行くも、すべての攻撃は奴の周りにある半透明の壁に遮られた。


 女の攻撃によって、一人、また一人と倒れていった。しかも殴りによって、だ。


「君がリーダー?それなら少しは耐えてくれるよね」


 そう言って女は俺に向かって殴りかかってきた。とっさに防ぐが、攻撃が体全体に響く。重い……、なんだこいつは……。あの細い体のどこからこんな力が出てんだ。


「あ、こいつ思い出したっすよ!入学試験の時に相手をボコボコにしたって言われてた女っす!」


 なにっ!?それならこの強さも納得だ。


「頭、空いてるよ」


 その言葉とともに、視界が揺れた。

 喧嘩売る相手、間違えたな……


「これに懲りたら”私の・・”アンナに手を出さないでよね」


 俺は薄れゆく意識の中、後悔をした。


 ――――――――


「はぁ……。体育館損壊に、生徒数名を治療院送りかぁ……。今回は相手が先に手を出してきたということだし、事情が事情だ。1回目ということもあって不問にしてやる。ただし、体育館の弁償は一部請求するから、ちゃんと払うように」


 俺に告げられた処分は以上のものとなった。


 『テレポート』を使用した後、俺は男子生徒たちをボコボコにした。しかも攻撃魔法は使わず、強化魔法で自身の肉体を強化して殴って、だ。全員を気絶させた後、少しやりすぎたなと思った。


「あ、あの、カルラ!」


「ん?」


「その、、、ありがとう。助けて、くれて」


「ああ、いいのいいの。私が許せなかっただけだし。こちらこそごめんね、面倒なことにしちゃって」


「い、いやそれはいいの。……嬉しかったから」


「え?今なんて――」


 俺が聞き返そうとすると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。


「おーい!アンナ~、カルラ~!二人とも一体どこに行ってたの!アンナは男子に囲まれてるし、カルラがアンナに駆け寄ったと思えば目の前から消えちゃうし、あたしいったい何がどうなってるんだか……」


「ごめんって、えぇっとどこから話せばいいかな……」


 俺はさっきまで起こっていたことをルリアーナにかいつまんで説明した。


「そんなことが起こってたんだ……。それにしてもアンナが無事でよかったよ!」


 そういってルリアーナはアンナに抱き着いた。


「ちょ、ちょっと!……心配かけて悪かったわ」


 そんな二人を見ながら、体育館弁償の件をどうしようか考えていた。

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