第12話 人助け

「サイクロプスってどんな魔物だっけ?」


 俺は走りながらアンナに聞いた。


「簡単に言うと単眼の巨人ね。知性はないけどその分パワーは強いわ」


 そんな会話をしていると開けた場所に出た。木々はへし折られ、大地はえぐられていた。そんな中、巨人が棍棒を振り下ろさんとする姿が見えた。目標は、彼女の仲間だ。

 不味い。そう思った俺は、風の魔法で巨人をよろめかせた。巨人がひるんでる隙に彼女たちを回収、体制を整えた。


「ありがとう、助けを、呼んできてくれたのね」


「あんた達こそ生きてて良かったわ!」


 彼女たちは泣きながら抱き合っていた。だが安心するにはまだ早い。


「ルリアーナは彼女たちの治療をお願い。アンナ、私たちはアイツを倒すよ」


「任せて!」「ええ」


 改めてサイクロプスを見る。アンナに聞いてた通り単眼で、俺たちの何倍もの大きさをしていた。体は筋肉質で局部を隠すだけの布が巻かれていた。片手には棍棒を持っており、あの棍棒で叩かれたらひとたまりもないだろう。

 アンナは助走をつけて跳び、サイクロプスの首筋目掛けて剣を振り下ろした。アンナの剣は素早く、見事に命中した。が、サイクロプスの肌は薄皮が切れた程度の傷しかできていなかった。


「それなら……!」


 アンナは身を空中で翻し、落下を利用しながら、サイクロプスの腕へと剣を突き立てた。先程よりは傷は深かったが致命傷には至らなかった。


 アンナはステップでサイクロプスの攻撃を避けながら、俺のもとへ下がってきた。


「あいつの皮膚、鉄のように硬いわ。生半可な攻撃じゃ意味がないわ」


「そうっぽいね」


 ちなみに俺も『ウィンドカッター』で試してみたが、結果は見ての通り、ダメージは入ってないように見える。大規模の魔法を使えば倒せると思うけど、あまり派手なのは使いたくない。とすれば……


「アンナ、少しの間あいつの動きを止めてられる?」


「できるわ。何かいい手があるんでしょう?」


「ああ、任せたよ」


「任せなさい」


 そう言うとアンナはサイクロプスの方へ跳んで行った。素早い動きでサイクロプスを翻弄しているアンナを横目に俺は魔法の準備をした。

 今回使う魔法は『ウィンドカッター』の改良版だ。大規模な魔法ではなく、一点に絞って威力を高める。魔法は、使うマナが多ければ多いほどコントロールが難しくなる。そして、コントロールに失敗すると暴走し、規模によっては爆発が起こる。


 俺は今のマナコントロールの限界までマナを使い圧縮した『ウィンドカッター』を創り出した。


「アンナ、離れて!」


 俺はそう叫んでアンナが離れたのを確認したのちに、サイクロプスに向かって圧縮した『ウィンドカッター』を射出した。俺が射出した『ウィンドカッター』は音速を超えてサイクロプスの首をきれいに切断した。首から上がなくなったサイクロプスは、ズドンと音を立てて地面に崩れ落ちた。


「す、すごい」


 声のした方を見ると、治療を受け終わった彼女たちは呆気にとられていた。


 俺は殺したサイクロプスの魔石を回収し、振り返って言った。


「それじゃあ、帰ろっか」


 ――――――――


 俺たちは冒険者ギルドに帰って、清算を済ませた。サイクロプスの魔石の報酬については彼女たちの願いで俺たちのものとなった。


「それにしても、サイクロプスですか……。上のものと話してくるので、少々お待ちください」


 清算の時にそんなことを言われたので待っていると、ギルドの奥の応接室に案内された。


 部屋に入ると、40半ばほどのおじさんが座っていた。俺たちは促されて向き合う形で座った。


「突然で申し訳ない。冒険者ギルドヘルゲン支部のギルド長、ラインハルトだ。よろしく頼む。」


「こちらこそよろしくお願いします。それにしても話とは何でしょうか」


「部下からサイクロプスが出たという話を聞いてね。詳しく話を聞こうと思い、君たちを呼び出したのだ」


 なるほど、そういうことか。俺たちは、サイクロプスと戦った経緯を話した。


「ふむ、なぜそのようなところにサイクロプスが出たのだろうか……。ありがとう、参考になったよ」


 俺たちは話が終わったため部屋から出ようとしたところ、ふと後ろから声をかけられた。


「今回の件で君たちの冒険者ランクを一つ上げることにした。今後とも冒険者ギルドをよろしく頼む」


 俺たちはその言葉を背に、応接室から出た。


 その後、倒した魔物たちの清算金をもらい、冒険者ギルドから出た。


「まさか、サイクロプスと戦うことになるとはね……」


「ほんとそうだよ!カルラちゃんたちが強かったから死なずに済んだけど」


「カルラはすごいわよね。あの硬いサイクロプスの首を両断してしまうなんて」


「そこまでじゃないよ。アンナがサイクロプスを弱らせてくれたから、私の魔法が通じたんだよ」


 実際、俺が魔法を打つ時にはサイクロプスは弱っていた。アンナの度重なる攻撃によって体は致命傷には至ってないものの傷だらけだった。


「それじゃあまた明日」


「また明日ー!」「では」


 俺たちはそれぞれの自室へと戻っていった。


 俺はベッドに寝転がりながら考えていた。あのサイクロプスはおかしかった。確かにサイクロプスの皮膚は硬い、しかしあそこまで硬いとは思えない。

 あの森で何かが起きている。

 俺はそんなことを考えながら眠りへ落ちた。

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