第10話 入学式

 翌日、俺は急いで家に帰った。


「お母さん、無事合格したよ!」


 そう報告すると、お母さんは喜んでいた。

 師匠にも同じように報告すると、


「私の指導がありながらも落ちるなんてことはないからね」


 みたいなことを言われた。もう少しほめてくれたっていいのに。


「はい、これ。入学祝い」


 師匠は俺に、小さい袋を渡してきた。


「これは?」


「『マジックバック』って言って、所有者のマナ量に応じて容量が変わる袋だわ。たぶんあなたならほぼ無限に入るでしょうね」


「でもそれってすごく高価な物なんじゃ……」


「弟子は大人しく師匠のものを受け取ったらいいのよ」


「師匠……。ありがたく受け取るよ」


 その日は合格を祝い、次の日からは入学まで、また鍛錬の日々に戻った。


 ――――――――


 今日は入学式の日だ。それと同時に母さんとのお別れの日でもある。冒険者学校には寮があり、俺は寮に住むからだ。


「じゃあ、行ってくるね」


 俺は振り返って母さんにそう言った。母さんの眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「いってらっしゃい」


 俺はすぐに前を向いて先を急いだ。この目に浮かんでるのはきっと汗だ。うん、そうに違いない。会えないのもすぐ慣れるさ。そう思いながられは走った。

 家から離れたら俺は『テレポート』を使ってヘルゲンの近くに跳んだ。ヘルゲン内に跳ぶのも不可能ではないが、それは規則によって禁止されている。

 門にいる衛兵に冒険者学校の入学者であることを伝えたら、急いで通してくれた。街に入った俺はそのまま冒険者学校に向かった。


 ――――――――


 「えーですからですね、君たちのこれからの活躍を応援すべく……」


 俺は第一体育館にて、入学式に参加していた。入学式名物である校長の長ったらしい話を聞いていた。どの世界でも校長の話って長いんだな。


 そのあと、俺たちは学科ごとの教室に向かった。教室は講義室のような作りになっていた。そこで俺たちは学校の説明を軽く受けた。

 日々の勉強は午前中だけで、座学の日と実技の日があるらしい。テストは各学期終わりに1回ずつ計3回あり、ほかにもイベントがあるとか。

 午後は自由だが冒険者としての活動を推奨された。


 冒険者の活動はパーティを組んで行うことが多い。何かが起こったときに被害を減らすためだ。世の中にはソロの人もいるらしいが、学生のうちはパーティを組むことが必須とされていた。

 そのためなのか、学校に書類を提出すればパーティとして受理される仕組みがあるらしい。

 これは、ルリアーナとアンナを誘うしかなくない?


 説明が終わり、ルリアーナを探していると突然背中から抱き着かれた。


「カ~ル~ラ!一緒のパーティになろうよ!」


 ルリアーナだったみたいだ。


「いいよ、私も誘うと思ってたし」


「本当?えへへ、うれしい」


 彼女ははにかみながらそう言った。


「あと、離してくれると非常にありがたいんだけど……」


「えー、仕方がないな~」


 そういいながら彼女は離してくれた。彼女の大きな胸が背中に当たって何も手につきそうになかったからだ。


「……もうちょっと自分の身体の破壊力を理解した方がいいと思う」


「ん?なんか言った?」


「いや、何でもないよ。それよりも、アンナも誘いに行こう」


 アンナは戦士学科なので、俺たちとは違う教室だ。


 俺たちはアンナをパーティに誘うため、戦士学科の教室へと足を運んだ。


「アンナ~!」


「そんな大声で呼ばなくても聞こえてるわ。私に何か用?」


「一緒のパーティになろうっていう話。私としては受けてくれると嬉しいんだけど…」


 アンナは俺の言葉を聞いて少し悩んだ後、いいわよと答えてくれた。


「ありがとう、アンナ」


 俺たちは書類を書いて、教師へ提出しに行った。


「ルリアーナにアンナ、カルラの3人か。いいんじゃないか?こちら側で受理しておこう。明日にはできるようになると思う」


 そのように言われたので、今日は寮へ帰ることにした。


「そういえば2人とも部屋はどこなの?」


「あたしは202だよ」


「私は204」


 あれ、私が203だから……全員隣っていうこと!?


「やった!隣同士だよ~!」


「嬉しいのはわかったから!抱き着いてこないでよ!」


「あなた達、もう少し周りの目を気にした方がいいと思うわよ」


 そんな感じで話しながらそれぞれの部屋へと帰った。

 部屋の中には、ベットやタンスなどのちょっとした家具類がそろっていた。俺はベットに座って師匠にもらったマジックバックを開けて中身を確認した。入学祝いのものだったため、入学するまで開けないようにしてたのだ。


「何が入ってるんだろ……っとこれは?」


 4つ折りにされた紙が入っていた。開いてみるとそれは師匠からの手紙だった。


『改めて入学おめでとう。あなたは約3年間の月日で私の指導を受けたあなたに勝てる人はもういないわ、堂々としなさい。これから先、いろんなことが起こると思うけどあなたなら乗り越えることができるわ。頑張りなさい』


 そういったメッセージとともに中に入ってるものの一覧とその効果等が書かれていた。


 中には、お金とか少しの備品とかが入っていたが、特に目を見張るのはこの指輪だ。真ん中に小さな宝石が埋め込まれている以外には特に装飾はされていない質素な指輪だが、纏っているオーラが違った。


 効果はつけてる人のマナ上限を引き上げるというものだった。これはいったいどれだけの金額がしたのだろう、と思って読み進めてみると、師匠が見つけたものらしい。


「師匠……」


 ほかにも、『もう少しおしゃれに気を使いなさい』とも書かれていた。余計なお世話だ。ほかに目につくものはこのローブだろうか。今度からこれを着よう。

 師匠への感謝と明日への期待を胸に抱き、俺は夢の世界へ旅立った。

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