第9話 入学試験(2)
扉を開けるとそこには広いグラウンドが広がっていた。地面には乾いた土が敷き詰められており、大人二人分ほどの壁で囲われていた。その壁の上には客席が広がっており、五千人ほどが座れるほどだった。
俺と反対から出てきた男と目が合う。なんだっけ、名前。わかんないからいいや。俺たちはグラウンドの真ん中に立っている教師の元へと向かった。
「今からルール説明をする。まず最初にこの試験では、戦い方、技量を見るためのものであり、勝敗で合否が決まるわけではない。また、相手を殺すことは禁止している。ただし、死にさえしなければ綺麗に治してやるから案して攻撃しろ。細かいルールはとくにない。両者とも質問はないな?ないなら配置につけ」
ふと相手の男を見ると、彼は不敵に笑っていた。
「お前は女だからなぁ。ちょっとだけ手加減してやるよ」
は、はあ。どうやら女だからと馬鹿にされてるらしい。俺は無視して配置についた。配置につく途中舌打ちが聞こえたのは気のせいではないだろう。
「両者配置についたな?それでは始め!」
教師の合図とともに俺は『マナ障壁』を張った。相手をふと見てみると、『マナ障壁』を張ったまま棒立ちしていた。本当に手加減をするつもりなのだろうか。
それじゃあ、遠慮なくいこう。俺は周りの土を圧縮して細長い鋭利な棒10本を作り、それを風の魔法で飛ばした。殺してはだめだから相手の腕を狙った。まあ弾かれると思うけど。と思っていたんだけど……
俺が飛ばした棒は彼の『マナ障壁』を容易く破り、彼の体に深々と突き刺さった。直前まで自信満々な顔は痛みで歪み、その後怒りで満ちていた。
「この僕、エトムント・グライハートの身体に傷をつけたな!お前だけは許さない!」
えぇ……。なんだこいつ。余裕だったんじゃないのかよ……。しかもお前弱いじゃん。ほんとに何がしたかったんだ?ちょっと前までいろいろ考えてた俺が馬鹿みたいじゃないか。
エルムントは、拳大の火の玉を5個ほど出して俺に飛ばしてきた。本来なら水の魔法を『マナ障壁』に纏わせて威力の低下を図るんだが……
「それすらもいらないみたいだね」
エルムントの放った火の玉は俺の『マナ障壁』を破ることなく空気中に霧散した。
「なっ……!」
エルムントは自分の放った火の玉が全く効かなかったことに驚いていた。第二、第三の手を用意しとかないのはどうなんだろう。
はぁ、早く終わらせるか。俺は自分と同じぐらいの火の玉を作り、真正面から飛ばし意識を向けさせる。それと同時にエルムントの後ろから拳大の風魔法を高速でぶつけた。その結果エルムントは後ろの注意をおろそかにして風の魔法をもろに食らい、気絶した。火の玉はエルムントに直撃する寸前で消した。
「そこまで!」
そういいながら、教師が俺とエルムントの間に入った。教師はそのまま、医療班と思われる人たちを呼び、エルムントを連れて行った。そこにはなぜかルリアーナの姿もあった。
俺は控室に戻った。会場には次の組み合わせがアナウンスされていた。
――――――――――
客席に戻ると、すでに第2試合は始まっていた。ほかの人たちの試合を見ていると、自分がいかに強いのかを実感してしまった。これも師匠のおかげだな。ぼーっと試合を見ていると、ルリアーナが少し興奮気味に声をかけてきた。
「カルラすっごい強かったね。びっくりしたよ!」
「そうでもないよ。多分相手が油断したからだよ」
「そうかな?ほかの受験生の中でも話題になってるみたいだよ。『1試合目の子強すぎない?』って」
あんまり目立ちたくなかったんだけどなぁ……。あんな試合をしてしまったら仕方がないか。
「そういえば、ルリアーナってなんで医療班っぽいのに混ざってたの?」
「あたし、治癒魔法がすっごい得意なんだよね。でも、普通に戦うのは少し苦手なんだ。だからほかの人とは、少し試験が違うんだよ。あたしの場合は、現役の医療班の中に混じってどれだけ活躍できるかって感じ」
なるほどなぁ。そんな感じで話してる第2試合は終わった。
「呼ばれたみたいだから行ってくるね」
そう言い、ルリアーナは走っていった。
そういえば、この試験中は自身の番じゃなければ好きに動いていいらしい。暇だったから、アンナの試合を見に行こうと思った。隣にいた男子に聞いてみると罰会場でやってるらしい。俺はその会場へと足を運んだ。
「次の試合は、アンナ・エリアス対ウィリアム・クレイグだ」
席に座るとアナウンスが流れてきた。ちょうど次の試合にアンナが出るらしい。タイミングが良かったな。
アンナの対戦相手はムキムキの大男だった。アンナを見下ろすほどの身長で、自身とさほど変わらない長さの大剣を持っている。
試合開始の合図とともに両者動き出した。アンナはウィリアムに高速で近づくと持っている細身の剣で斬りかかった。ウィリアムも負けじと体験を振り回す。細身の剣と大剣がぶつかり合ったら何が起こるかは言うまでのもないだろう。それがわかっているのか、アンナはすぐさま下がった。
そこからは大剣を振り回すウィリアムと避け続けるアンナといった構図が出来上がっていた。このままではアンナにとって厳しいのではないのだろうか。そう思った瞬間彼女は動き出した。アンナはウィリアムの大剣をよけながら着実に、そして舞うように剣を当てていた。
いつの間にかアンナの攻撃をウィリアムが耐えるという構図に変化していた。
しばらくして、ウィリアムが僅かに姿勢を崩した。その隙をアンナは見逃さなかった。
ウィリアムの手を剣の柄頭で叩き、大剣を手放させた。そのまま流れるようにウィリアムの首へ自身の剣をあてがった。
試合はアンナの勝利で終わった。
――――――――――
「アンナ、すっごくかっこよかったよ!」
俺は観客席に帰ってきたアンナに興奮気味で話しかけていた。
「あれくらい普通でしょ。あなたこそすごい試合をしたって聞いたけど」
「それはそれ、これはこれだよ。それにしても剣術って独学?」
「秘密よ」
そんな感じで会話をしていると試験が終わった。
「あ、いたいた~!探したんだからね!ってその子は?」
ルリアーナが手を振りながらこっちに来た。
「この子はアンナっていうんだ」
「あたしはルリアーナ・エリアスっていうの。よろしくね、アンナちゃん」
「……よろしく」
アンナはぎこちなさそうに握手をした。人見知りなのだろうか。
「そういえば、試験発表っていつあるのかな?」
「もうすぐあるって聞いたわよ」
そんなことを話してると、正門集合のアナウンスがあった。どうやら試験発表があるらしい。噂をすればなんとやらってやつだな。
正門にたどり着くと、合格者と特待生の名前が張り出されていた。俺とアンナ、そしてルリアーナの名前は特待生のところに名前があった。
俺たちは、別れを告げてそれぞれの帰路へと就いた。俺は宿屋「バナード・メア」に帰って、ぐっすりと眠った。
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