第7話 交易都市ヘルゲン

 あれから半年がたち新しい年が始まり、現代でいうところの受験期になった。この国では、この時期に冒険者学校の試験がある。

 明日がその日だ。俺の身体は転生してきた時より成長していた。身長はもちろん、胸も成長していた。とてもオリヴィアに勝てるほどではないが。


「明日は試験ね。頑張ってね。くれぐれも怪我はしないでね」


「そんな心配しなくても大丈夫だよ、お母さん。絶対に特待生を勝ち取ってくるからね」


「じゃあ帰ってくる日の晩御飯は奮発して豪華にしようかしら」


 そんな感じで言葉を交わし、俺は家を出た。


 冒険者学校がある交易都市ヘルゲンまでは馬車で1日かかる。だから試験前日である今日家を出たのだ。もっとも、俺には『跳躍』があるため、馬車の半分以下の時間で進むことができる。

 俺は地図を見ながら『跳躍』で空を跳んだ。俺の眼下には雄大な自然が広がっていた。空を跳びながら冒険者学校の入学試験について思い出そう。


 冒険者学校には大きく分けて2つの学科がある。戦士学科と魔法学科だ。俺が入ろうとしてるのは魔法学科のほうである。戦士学科のほうは学ぶ武器にや武術によって分かれていくらしいが、魔法学科のほうは魔法学部と魔術学部がある。

 

 魔術っていうのは、魔法を複雑化したもので、主に魔道具作成にかかわってくる。ほかにも、多くの人間のマナを使い行う大規模魔法である儀式魔法にも使うことがあるらしい。俺は師匠のおかげで魔術のほうも少しだけかじったが俺にはさっぱりわからなかった。


 試験は実技試験だが毎年内容は変わる。去年は冒険者学校のほうでコピーした模倣魔物相手に戦ってどれだけダメージを与えられたか、だったらしい。

 今年はどんなのだろうか……っと。気が付くと、ヘルゲンについていた。


 少し離れたところで地上に降り、門への列に並ぶ。

 さすがの交易都市ということもあり長蛇の列になっていた。それにしても長いな……。

 小一時間程並んでいて、眠いなぁと思っていたころに事件は起きた。


「大人しくしろ!じゃないとこいつの命はないぞ!」


 急にそんな声が後ろの方からした。その言葉を皮切りに次々と悲鳴が上がった。何事かとみてみればいかにも山賊です、といった感じの姿をした男が十数人で騒ぎを起こしているみたいだった。距離があいているから分かりづらいが今騒いでいる奴ら以外にも馬車の中に人間がいるらしい。おそらく仲間かな。


 騒ぎを起こしているうちの一人が9歳ぐらいの少女を捕まえて、首に刃物をあてがっていた。ん?その男の後ろにローブを羽織ったやつがいるんだが……。何かを詠唱してる?


 次の瞬間俺の身体を何かが通り過ぎた。それを食らった瞬間正体がわかった。『消音サイレント』という魔法だ。エリアを指定してそのエリアとエリア外の音を遮断する魔法だ。オリヴィアとの模擬戦の時によく使っていた。使ってなかったら今頃騎士団が派遣されていただろう。毎日森のほうで轟音が鳴ってます――って通報が入ったのちに。


 ということは、周りに騒ぎが伝わるの遅れるな。あの少女だけは助けたい。とはいえ目立ちたくないからそんなに大規模な魔法は使えない。どうしたものか……。


 俺が悩んでいると、俺の真横を人影が通り過ぎ、山賊へ攻撃した。


「その子を解放しなさい!」


「誰が解放するかよ!死にたい様だな。今すぐお望みどおりにしてやるよ!」


 攻撃したのは俺と同じぐらいの女の子だった。真っ黒のきれいな髪を肩ほどまで伸ばしており、眼はきれいな紅だった。体つきは華奢でその体に合うような細身の剣を振り回いていた。彼女の剣はまるで舞うように敵を攻撃していた。だが、やはり数の暴力はすさまじく。山賊たちのほうが善戦していた。


 俺も加勢するか。俺は『身体強化』を彼女にかけた。本来、基本的に自分ではないものに『身体強化』はかけることができない、とされている。というよりも、威力が弱くなってしまうのだ。自身にかける『身体強化』を百としたときに、同じ魔力を使った他人への『身体強化』は1あるかないかぐらいだとされている。


 それを俺は、オリヴィアに鍛え上げられたマナコントロールと、もともと持っていた才能で、他人の『身体強化』を十ほどにできる。とはいえそれでも十だ。圧倒的に威力が足りない。それを俺は自身の持つ大量のマナでカバーする。おそらく彼女の身体能力は三倍ほどになっているだろう。


 一瞬彼女がこちらを見た。気づかれたか?いや、たぶん大丈夫だろう。俺は空気爆弾をマナでつくり上空まで飛ばして爆発させた。これでいやでも騒ぎが起こっていることに気が付くはず。でも、騎士団も必要ないかもしれない。俺の『身体強化』によって強化された彼女が山賊たちを次々と倒してるからだ。


 そのとき『消音サイレント』を発動させていたローブ姿の奴が彼女に対して何かしようとしてるのが見えた。まずい、彼女は今、山賊たちを相手にしてる。俺は空気を圧縮して小さな玉を作り、それを高速でローブ姿の奴に打った。


「ビンゴ」


 俺の作った玉はあいつの眉間に当たったみたいだ。あの魔法は、直撃したときに圧縮された空気が一気に解放される仕組みになっている。あいつとっては、急に殴られたかのような衝撃を受けたはずだ。


 お、騎士団が駆けつけてきたみたいだ。これでもう問題ないだろう。山賊たちは騎士団によって鎮圧させられた。もっとも、騎士団が到着するころには山賊の八割は黒髪の子によって気絶していたが。

 無事に人質となっていた女の子も救出されたらしい。母親っぽい女性と抱き合っている。よかったな。


 騒ぎがある程度収まったあと、再び門の列ができ始めていた。俺も並ばないとな。それにしても来た初日にトラブルに巻き込まれるなんて……。不運過ぎね?


 小一時間程待った後、俺の番が来た。身体チェックを軽くされ、生まれた時にもらえる身分証明書を渡して、街に通してもらった。


「これが、交易都市……」


 俺は感動していた。街に入ってすぐにもう店が並んでいた。この街の作りはシンプルで、中心に街を動かす役所があり、そこから東西南北に大通りが伸びている。その大通りから道が枝分かれしていて、街全体は円のような形になっていた。


 街は4つの区画に分けられていて、それぞれ北区、西区、東区、南区、と分かれている。南区と東区は商業が活発であり多くの店が並んでいる。西区は住宅街であり、北区に冒険者の店や施設が大量にある。もちろん、冒険者学校も北区にある。


 俺が今日泊まる予定の宿も北区にある。街の観光をしたい気持ちもあるが、今日はもう日が傾いてきている。それに疲れた。街に入るまでの列は長いし、予想外のマナ消費はあったし。そんなわけで宿まで行った。実はオリヴィアにいい宿を教えてもらっていたのだ。


 オリヴィアにもらった簡易的な地図を頼りに歩いていると目的の場所についた。看板には「バナード・メア」と書かれていた。


 店の中に入ると若い女性の人が受付をしていた。


「宿をとりたいんですけど」


「あなた子供よね?何か身分がわかるものはある?」


 そう言われたのでオリヴィアに渡された紹介状を渡した。


「わかりました。何日泊まる予定ですか?」


「2日です」

 

 オリヴィアに「その紹介状を渡せば大丈夫だから~」って言われはしたけど、ほんとに行けるとは……。あの人何者なんだ?


 宿泊費を払うと、部屋に案内された。


 凄くきれいな部屋だった。もしかしなくても、ここ良い宿なのでは?しかもこれで銅貨十枚だなんて……。


 ちなみに、この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨、白金貨となっていて、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨百枚で白金貨一枚となっている。この世界の大人が毎月稼ぐ金額が、平均で銀貨3枚ぐらいである。


 俺は1時間ほど瞑想をして、そのまま寝た。

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