第6話 冒険者学校

「カルラ、貴方もちろん冒険者学校に行くのよね?」


 そんな言葉をオリヴィアにかけられた俺は固まっていた。


「冒険者学校?」


「あなた、冒険者学校を知らないの!?」


 知らない。いや、正確には知っているが全然意識してなかった。今までの日常が楽しかったからかもしれない。決してオリヴィアには言わないが。


「冒険者になるなら、冒険者学校に行かないと」


 冒険者学校というのは俺が思ったよりもすごいところだった。


 まず、冒険者学校は12歳から入ることができ、入ったら自動的に冒険者になれるのだ。しかも在学中に冒険者ランクを上げることもできるらしい。在学中は普通の冒険者よりも、安く備品を買うことができ、全面的に冒険者の活動を支援してくれるらしい。


 つまり今十一歳の俺は来年から入学できるということだ。なるほど、だからこのタイミングで。


 唯一の難点は、冒険者学校の規模が規模だけに都市にしかないという点。一番近場でいうここシルトヴェルト共和国の首都であるアンベルクへと続く交易都市ヘルゲンにあるらしい。しかし近場とはいっても、俺の家がある村、リバーウッドからは割と離れている。とはいえ、俺には『テレポート』があるからあまり関係ないが。


 そんな冒険者学校に行かず冒険者になるのは愚の極みと言われるほどだった。


「あなたの親にも話ておきなさいよ。一応、親の承諾書がいるから。お金に関しては特待生っていうシステムがあるから心配しなくていいよ。カルラなら絶対に受かるさ。」


 俺は家に帰ってから、晩御飯を食べているとき、母さんに話を切り出した。


「お母さん、少しこれからのことで話があるんだ。」


「……なにを話すかはわかってるわ。冒険者学校についてでしょう?」


 ……っ!それなら話は早い。許諾を……


「私は反対よ。冒険者になるの」


 そうやっていう母さんは悲しそうな表情を浮かべていた。


「あなたが森の動物を狩ってきた時から薄々わかっていたの。冒険者になりたいって言いだすのは、時間の問題だった。でも、あなたはお父さんみたいになってほしくない。」


 母さんの目にはうっすらと涙を浮かべていた。


「わかってるわ。こんなことを言ったって止めることはできない。むしろ子供の未来をつぶすのは親として最低だって。でも…」


「お母さん、私は絶対に帰ってくる。ちゃんと無事で。あの時より強くなったんだよ」


 俺は微笑みながら言った。


「それに私、お母さんに恩返しがしたい。女手一つでここまで育ててくれたんだから。」


 それは、紛れもない俺の本心だった。俺が5歳のころから女手一つで育ててきたのだ。毎日ご飯を作ったり洗濯をしたり俺の相手をしてきた苦労は想像に難くない。それに前世でも親孝行がちゃんとできなかったんだ。今回こそはちゃんとしたい。


「……すこし、考える時間を頂戴」


 そう言って、母さんは自分の部屋に帰って言った。


 俺は残された食器を洗い自室に帰った。


 ――――――――――


 カルナの母、アグネリア・クライストは部屋に入るとベッドに腰を下ろした。


 彼女はベットの横にあるローテーブルに空いてあった。写真を眺めた。

 

(あの時、あなたは多くのお金のかかる写真をどうしても取りたいって言ったわよね。一生私のことを守るとも)

 

 その時の情景が昨日のことのように思い出される。そして、先程のカルラとの会話を思い返す。

 

「私、お母さんに恩返しがしたい」


 あの言葉を放ったカルラの眼はカルラの父、エルヴィンに似ていた。


(やっぱりあの娘はあなたの子供よ……)


 彼女は写真を手に取り、窓から差し込む月明かりで照らした。


(あなたならいったいどうするの……)


 彼女の中ではすでに答えが出ていた。


 ――――――――――


「いいわよ、冒険者学校のこと」


 翌朝、起きて今に行くと母さんに言われた。


「ありがとう、お母さん!」


 思わず抱き着いてしまった。


「ちょ、ちょっと喜び過ぎよ!」


 そう言われて、慌てて離れた。さっき自分のとった行動が少し恥ずかしく思えた。少しカルラに精神が引っ張られているのかもしれない。


「あの後、カルラのお父さんならどうするかなって考えてみたの。そしたら、私の中のお父さんは元気に送り出してた。それで気が付いたの。子供の成長を喜ばない親がどこにいる、って。カルラ、あなた大きくなったわね」


 そういわれて、俺は素直にうれしかった。


 ――――――――――


「というわけで、親の許可は出たよ、師匠」


「来年からは、カルラも冒険者になるのね。じゃあそれまでに、私との模擬戦で勝てるようにならないとね」


「そんな無理難題を言わないでよ……。”私”まだ、全然師匠に追いつけてないよ」


 俺は、会話上での一人称を”私”にすることの抵抗がなくなっていた。というか板についてきた。やっぱり元の人格であるカルラ自身に引っ張らられているのかもしれない。ちなみに、自分の中では”俺”にしている。そこまで変えてしまうと。俺が俺じゃなくなってしまう気がしたからだ。


「私に追いつけていなくても、同世代じゃカルラの右に出る者はいないわよ」


「そうかなぁ」


 もっと俺よりも強い人いると思うけどなぁ。

 そんなことを話しながら今日も修練に励んだ。

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