第二十話 花よ舞い踊る

「うるぉぉぉおおおおおおお!!」


 ジョクランが咆哮を上げながら、カイとキョウヤめがけて突進を開始。重量のある体躯からは想像もつかない跳躍をし、二人まとめて潰そうと岩石のような拳を振り下ろす。即座に、カイとキョウヤは左右に散る。生まれた空間に腕力任せの拳がめり込む。重力で倍化した威力に、地面が割砕。激しい衝撃波が生まれた。


「ぬぅうん!」


 ジョクランは素早く引き抜いた右腕を無造作に真横に振る。一見、無意味な行動に思えたが、ジョクランの狙いはそこではなかった。突風が舞い、風圧に混じって無数の雹が乱れ飛ぶ。

 目視すら困難な微粒子は、その一つ一つが鋭利な刃物と化している。

 それが散弾銃のようにカイとキョウヤを襲い、容赦なく身体を切り刻む。


「ぐがぁ!」


 引き離されるように二人は地面を跳ねていく。

 ジョクランはすかさずキョウヤの方に狙いを絞る。強靭な脚力で一気に詰め寄り、キョウヤに右拳を突き出す。強張ったキョウヤの顔――しかし、ジョクランの拳は空を切った。キョウヤが避けたのではない。キョウヤの顔面が靄にでもかかったかのように、すり抜けたのである。


「ぬっ!?」


 緑の粒子が柔らかく舞い踊る。風の精霊が気流に乗り、困惑するジョクランの背後へ。粒子が人の形を生成し、キョウヤが再び姿を現す。ジョクランがようやく気付き、振り返ったところにキョウヤは回し蹴りを叩きこんだ。


「ぬぐぉ!」


 風の高等術式――インビジブル。

 自身の姿を透明と化し周囲に溶け込ませるキョウヤの得意技だ。


「はははッ、さすがだな。インジェクター!」


 全力の蹴りだったにも拘らず、ちっとも堪えていない様子のジョクランは愉しげに笑う。


「もっとだ、もっと俺を楽しませろ!」


 猛牛の如く鼻息を荒くして、ジョクランが再度突進をしかけようとした。

 そこに、カイがE.A.Wで狙い撃つ。雨の精霊を凝縮させたレーザーを続けざまに放つ。息をつかせぬ連射。いくらジョクランの肉体が分厚くとも、カイの弾丸ならば容易く貫ける。


「かかっ!」


 が、ジョクランはレーザーをすべて弾き飛ばした。殴るように拳を振るい、レーザーの軌道を無理矢理曲げたのだ。


「な……!?」


 何という荒業か。絶句するカイが、そのまま注視していると、ある点に気付く。

 ジョクランの両腕が凍っていた。肩から指先にかけて分厚い氷で覆われていたのだ。

 雨の精霊は柔軟性が高く、どんな場面にでも応用がききやすい。水や氷をあらゆる形状に変化させ、実在する物質を生み出すことさえ可能だ。

 ジョクランの戦闘スタイルはあまりに単純だった。雨の精霊を肉体に付着、さらに氷結化させることで自身を強化する――まるで大地の精霊使いが得意とする分野を己に落とし込んでいる。


「おー痛い痛い。さすが天下のインジェクターさんだけが持つ、裁きの兵器だ。まともに当たったらひとたまりもねぇな」


 白々しく顔を歪めて手首を振る。


「それで今まで何百? 何千? もの精霊使いを牢獄行きにしてきたわけだ」

「安心しろ。もうじきお前もその仲間入りだぞ」

「怖いねぇ……。こっちはただ慈善事業してるだけだっていうのによぉ」

「単に遊園地に遊びに来て、知らん間に殺人者にされてたらたまったもんじゃねぇだろうよ」

「ちっとの我慢さ。罪悪感なんてすぐ消える。その先にあるのは自由だ。人間にも社会にも縛られない、な」


 キョウヤの軽口に、ジョクランは頬が張り裂けそうな笑みを見せる。


「何事も束縛して生きているインジェクターさんには理解できないだろうけどな」

「律すること、それはつまり歴史の積み重ねだ。過去の過ちから学び、改善しようと努力した結果、今がある。それを否定してはならない」

「そういうこと。だから俺たちはそうして生きてきた人々に敬意を払い、守る。俺は案外気に入ってんだ、今の世の中がな」


 カイとキョウヤが本心を口にする。

 信念。

 どんな危機が訪れようとも、情勢が崩されようとも自分自身の心に基づくもの。根付く、一つの太い柱。その精神があるからこそ揺ぎ無く、立っていられる。


「フハハハハハ! 面白いッ、なら今度も止めて見せろ、インジェクター!」


 ジョクランの周囲がざわめき立つ。雨の精霊が彼に集まり、気温が異常なほどに下がる。その余波からか、一部稼働しているアトラクションの機械が凍結して停止する。

 全身筋肉の鎧で固められたジョクランの皮膚が冷気によって凍り付き、水晶と見紛う透明な氷が付着する。みるみる全身を氷漬けにしたジョクランは、白い息を吐きながら嬉しそうに言った。


「この姿で戦うのはお前らが初めてだ。あまり簡単にやられてくれるなよ、インジェクター!」






 一方、ユリカとアイサは防戦を強いられていた。

 ザイーネの放つ炎が地を這う。地面を抉りながら、長い炎が縦横無尽に暴れ狂う。予測困難な動きにユリカとアイサは回避行動しか取れなかった。


「きゃははははは!」


 哄笑を上げるザイーネは、背中から炎を射出させていた。

 いや、生えているといった方が正しいのか。炎自体もどこか滑らかな質感を持ち、何本もの細長く赤い生き物が蠢いているかのようだった。

 うねる炎の触手。

 ザイーネの人間性を現しているかのような、醜悪であり狂暴性を持ち合わせた危険な精霊だ。


「くっ!」


 ライフルを構え、素早くトリガーを引くアイサ。しかし、直線状の弾丸は、うねる触手をとらえられない。諦めず何度も発射しても、関節すらない触手にはかすりもしなかった。自由な軌道を描き、的を絞らせない。

 そうしたアイサの撃ち終わりを狙い、何本もの触手がアイサに襲い掛かる。アイサは後ろへ飛び退こうとしたが、その判断が過ちだった。伸縮自在でもあるのか、高速で伸びた触手がアイサの肩や脇腹を切り裂いた。


「うぁっ!」

「アイサちゃん!」


 アイサが後方へ何度も地面を跳ねていく。すぐさま反転し、立ち上がろうとしたが、痛みに呻きうずくまる。


「どうかしら。私の可愛い妹たちは。とっても気持ちいいでしょう?」


 背中から生える触手の一本を撫でながら、嗜虐的な笑みを浮かべるザイーネ。彼女自身が操っているのは間違いないのだが、触手自体が一つの生命であるかのようにうねっている。

 その姿を見たアイサは顔をしかめた。


「妹? それが? 随分と下品な家族をお持ちで」

「美的価値なんて人それぞれでしょう? 貴女たちもとーっても可愛いわよ? 私のコレクションにしたいくらい」

「ごめんなさい、そっちの趣味はないもんで」


 鼻で笑いながら一蹴するアイサに対し、そんな挑発的な反応されても意に介するどころか増々恍惚な表情を浮かべるザイーネ。


「構わないわよぉ。殺してからたーっぷり愛でてあげるから」


 無数の触手がアイサに向かって一斉に襲い掛かる。

 瞬発的に立ち上がろうとしたアイサが、うっ、と呻いた。受けた脇腹の傷が思いの外深かったようだ。

 身動きの取れないアイサの眼前まで触手が迫る。

 しかし、その触手のすべてが何かに弾かれる。

 ユリカが触手とアイサの間に割って入り、刀でまとめて弾き飛ばしたのだ。


「ユリカ姉!」

「大丈夫ですか、アイサちゃん!」


 そのユリカの顔が僅かに曇る。肉塊だろうと思っていた触手に刃物が通じていない違和感。斬り落とせず、なにか硬質なもので殴ったような感触だったからだ。

 ユリカの武器は刀の形状をしているが、E.A.Wであるために殺傷能力は低め。ただそれでも、大地の精霊を乗せることでいくらでも切れ味は鋭くなる。

 それが通用しないということは、あの触手を構成している精霊の純度もまた、高いこと意味している。


「ふっ!」


 だが、それだけのこと。動揺などしない。

 目視すら困難な速度で、ユリカが大地を駆ける。最中、一度刀を腰元に据えた。

 そして、刃を滑らす。神速の抜刀術。

 大地による身体能力を引き上げた斬撃を前に、ザイーネの表情に余裕がなくなる。


「おっと!」


 切っ先は、ザイーネを捉えることが出来なかった。太刀筋など見えているわけではなく、本能的な反応だろう。上半身を仰け反らせ、かろうじてザイーネはかわす。


「まだまだ!」

「ハハハッ!」


 後退して距離を取ろうとしたザイーネに、ユリカが逃すまいと肉薄する。

 息をつかせぬ連撃。ありとあらゆる角度から剣閃が繰り出される。人体のすべての箇所を斬り刻むはずの無数の斬撃に、ザイーネは身構えることすらできない。

 だが、ザイーネの肉体はおろか皮膚にすら、ユリカの太刀は届かなかった。

 背後の触手だ。まるで剣の軌道を読んでいるかのように、受け止められてしまう。


「きゃあ、痛いわ~。ちょっとぉ、私の妹たちに傷をつけないでよ~」


 余裕たっぷりな笑みで、白々しく口にするザイーネ。

 精霊を物質に変えるには、それだけ繊細な技術を要求される。精霊の一粒一粒を丹念に練り上げ、繋ぎ合わせ構築するという永遠とした作業。その最高峰が、“具現化”という異次元のスキル。

 ただ、ザイーネの場合は具現化というにはまだ稚拙。

 具現化は誰にも到達できない最高峰の術式。それを成しえたのは、リーシャただ一人。かつての彼女のように、精霊から別の生命体を生み出すことをいうのだろう。

 しかし、この女が非常に器用なのは間違いない。認めたくないが。

 振り下ろした太刀が、地面を砕く。ザイーネは大きく後方に跳んで、少し距離を取った。


「ならばこれならどうです!」


 柄を握りしめた右腕をゆっくりと肩の後ろに引く。ユリカが鋭く息を吐き、黄金色の光が彼女の足元から溢れ出した。


「豊穣の鐘を鳴らす槌の如く――“地龍砕波”!!」


 右腕を前へ一気に突き出す。凝縮された大地のエネルギーが、刀身を通して直線上に放たれた。黄金の粒子が結集した砲撃は周囲一帯の設置物を粉々に破壊しながらザイーネを丸ごと呑み込む。高音域の唸りを上げながら、煌びやかな光線はそのまま島を飛び出して、海を真っ二つに割っていった。

 ザイーネとは対照的に、不器用なユリカだからこそ可能な破壊力全振りの大技である。


「今のは、ちょーっと危なかったわよ?」


 ゾクッとユリカの背筋に悪寒が走る。

 耳元で囁かれた女の声。紛れもなくザイーネのものだ。

 すぐさま振り向こうとしたユリアだが、それよりも早くザイーネの魔手が伸びる。背中の触手が覆いかぶさったかと思うと、ユリカの全身に絡みついて拘束する。


「うぐ……!」


 もがくユリカだが、大地の力を以てしても手足は一切動かない。おまけに首元に絡みついた触手のせいで呼吸すら奪われてしまった。


「いいわぁ、その苦しみに満ちた顔。興奮しちゃう」


 悦に浸る表情で、ザイーネは甘い吐息をユリカの耳に吹きかける。


「なんて綺麗な肌なのかしら。インジェクターっていっつも戦っているイメージだから、もっと小汚い感じなのかと思ってた」


 ザイーネの両手が手慣れたようにユリカの胸から腰元、股にかけて這う。拒絶反応が全身を駆け巡る。しかし、身動きが取れないユリカにはどうすることもできない。


「離しなさい……!」

「い~や。このまま貴女を食べてもいいんだけど、ここじゃ雰囲気最悪よね。もっと虐めて、いたぶって、絶望を味わって。それから気持ちいいことしましょう。うん、それがいいわ」

「ユリカ姉!」


 アイサが助けに入ろうとするが、ザイーネが許さなかった。別の触手がアイサを巻きつき、ユリカ同様自由を奪う。


「焦らないで。貴女にもすぐに快楽を与えてあげるから」

「かは……!」


 E.A.Wのライフルを地面に落とし、膝をつくアイサ。気道を遮られ、喘ぐアイサをザイーネはねっとりした口調で諌める。

 まるで料理のコースでも決めているかのように、標的をユリカに戻したザイーネは改めて彼女に囁く。


「ねえ? ここが人々にとっての“楽園”なのはどういうことか理解できる?」

「な、にを……」


 今更な問いかけをされ、ユリカも呼吸すらままならない状態で呻く。

 楽園。理想郷。人が求める理由に、意味などあるのか。


「単純よね。壮大な現実逃避の場所なのよ。誰もが空想し、妄想して。その総意と協調がもたらして完成した現代最大の逃げ場。私たちは提供しているんじゃない。誰にでもある精神の弱い部分が膿となって出来上がったものなの」

「そん……なこと……」

「間違っている? でもね、人々の深層領域にある精神世界を結集して現実に起こした――そう、認識しても面白いじゃない。だからここに来た全員は、処世術という鎧を脱いでいる。欲望を解放して本能のままに生きられる。精霊使いなんて、堅苦しい世界でしか生きてこられなかったんだから、欲求に従う面白さを知るべきなのよ」

「ば、かな……ことを……」


 首元を締め付ける触手に指をかける。酸素不足で思考も途切れ、意識も朦朧としてきたが、ザイーネの言葉はしっかりと耳に届いていた。

 この女の論理は精霊使いの根底を理解した言葉だ。

 真意であると同時に、認めてはならないものでもあった。年月を重ねれば、心は確かに摩耗する。癒す時間もなく、逃げ場すらない。生きている価値を見出せなくなることもある。

 でも欲望に従って生きれば、それまでに培った努力を放棄することでもあるのだ。逃避も静養ももちろん必要だ。でも自分自身が経験して頑強になった精神まで否定してはならない。

 刀を握ったもう片方の腕に力が籠る。


「だからね? 貴女たちも私と一緒に楽園へ行きましょう。私に任せればどこまでもイッちゃうわよ。もう二度と現実に帰って来ようだなんて思わなくなるから」

「舐めないで……下さい……」


 ザイーネの眉が、ぴくっと反応した。

 ユリカの首元と触手の間に僅かな空間が生まれた。触手を掴んだ指の力で隙間が出来ている。

 ザイーネの表情が驚きに歪む。炎の精霊による純粋な火力が、ユリカの細い指先の力に負けているのだ。そこには当然、大地の精霊の恩恵もあるのだが、生死を彷徨う極限状態でどこからそんな精神力が溢れているのか。驚愕の理由はそこだ。


「貴女の先入観で全てを決めないで下さい。人は……そんなに弱い生き物ではありません」


 徐々にだが確実に、触手はユリカの首筋から離れていく。

 発する言葉には熱が、そしてユリカの瞳には強い輝きが戻っていく。


「ふ、ふん。私の主観だとでも? なら、この現状は何? どれだけの精霊使いがこの島で優雅に遊んでいる? それが逃避じゃなかったら何だというの?」


 ユリカが握りしめる一本の触手が一回り膨らむ。ザイーネが、背中を通してさらに炎の精霊を流し込んでいるのだ。

 だが、より力を注入しても、ユリカの腕力には敵わない。その腕に巻かれた別の触手の力すら凌駕して、遂には凄まじい握力で掴んだ触手を握りつぶす。


「ぎゃあああああ!」


 汚い悲鳴を上げ、ザイーネはもがき苦しむ。痛覚も共有しているようだ。


「心は揺らぐもの。誰しも歩みを止まりたいときもある。ですが、それでいいのです」


 ユリカの全身が淡い黄金の燐光で包まれる。地面に足をつけている限り、無限の供給を得られるのが大地の精霊使いの強み。触手で全身を縛られていようが、力を解放したユリカには苦もなかった。容易く刀を振りまわし、鮮やかに触手を全部断ち切った。


「こん……のぉ……!」


 憤怒に満ちた顔でザイーネがユリカを睨みつける。ユリカは刀の切っ先を、荒く呼吸するザイーネに突きつける。


「止まって、だけれどもまた立ち向かって。それが人の宿命でしょう。あなたたちはただその邪魔をしただけ。己が野心のために詭弁を振るっているだけです」

「許さない……。よくも愛しい私の妹たちを……!」


 刀で斬られた触手が再生する。構成物質が精霊である以上、どれだけ破壊しようと根本的に消滅させるのは無理。それを端から理解しているユリカは、表情を変えることはない。


「きしゃあああああああああああ!」


 爬虫類のような雄たけびを上げて、ザイーネが触手を射出する。しかし、その先にユリカの姿はない。瞬間的に脚力を強化し、ザイーネの懐に潜り込んでいた。


「――加えて言うならば」

「ヒッ!?」


 低く、されど撫でるように。ユリカは言った。


「私たちに楽園は必要ありません。唯一、癒されるとすればそれは人々の笑顔。私たちはそれを見るために、戦っているのです」


 瞬時に噴出する闘気。鬼神の如き戦意に、ザイーネは恐怖に顔を引きつかせる。

 仰け反って浮いたザイーネの顎を、ユリカは刀を回転させ柄の下端で打ち抜く。脳を揺さぶられ、ザイーネはたたらを踏んだ。すかさず、ユリカは刀を強く地面に突き刺す。


「暗雲振り払え、黎明の光――昇龍厳山!」


 深々と突き刺さった刀身から亀裂が生まれ、そこからマナが流れ込む。幾筋もの黄金色の光が地下深くに根付く龍脈へと繋がって、震動を呼び起こした。

 激しく地面が隆起する。

 ユリカの立っている場所が陥没し、めくり上がった岩石が柱となって山脈のように連なる。その岩石の柱が、ザイーネの腹部へと直撃して空へと天高く打ち上げた。


「アイサちゃん、今です!」


 澄んだユリカの声が、アイサに向けて飛ぶ。

 ザイーネの集中力が途切れたせいか、アイサを縛っていた触手が緩んだ。好機とばかりにアイサは触手を引きちぎって強引に抜け出すと、ライフルを拾い上げ、上空へと銃口を向けた。

 当然、狙いはザイーネ。スコープを覗き、宙を漂う彼女に照準を合わせた。


「炎翼! フルチャージ!」


 アイサが自身の相棒であるE.A.Wの名を高らかに叫ぶ。銃身が灼熱の色を帯び、真っ赤に輝く。炎の精霊が集結したことで周囲の気温が上昇。熱風が荒れ狂う。


「“私は撃つ! 全てを呑み込んで届け、太陽まで! バーストフレア!!”」


 引き金を絞る。

 瞬間。さらに銃身の輝きが強まり、重量感のある衝突音が轟いた。同時に射出される巨大なレーザー砲。細い銃身からは考えられない、紅蓮の光線が空中を切り裂く。


 アイサのE.A.Wであるスナイパーライフルは、本来、遠距離支援型。大抵、任務においては牽制や意表を突く一撃として用いられる。

 しかし、アイサがあの『伊邪那美の継承者』事件から自分を見つめなおし、考案した術式は今までと真反対の威力重視型。莫大な力を見せつけることに重点を置くことで対象の戦意すらも喪失させる。自身が成長するためにと、一撃必殺の信条は共通させつつもシフトチェンジした必殺の一撃である。


 紅蓮のレーザーが宙を漂っていたザイーネを呆気なく呑み込み、はるか彼方へと吹き飛ばした。

 丸焦げになって地上へ落下してくるのは相当後のことだった。


「アイサちゃん!」


 膝をつき、ぐったりと項垂れるアイサへユリカが駆け寄る。

 そんな桁外れな威力を伴えば無論、負担は大きい。彼女の足元は発射の衝撃波によって陥没し、その力の余波が凄まじいことを物語っている。

 心配そうなユリカに、くたびれたようにライフルを抱えてアイサは親指を立てる。


「こんなでっかい花火が打ちあがったら、誰もが笑顔になるかな?」


 愛らしい彼女らしく、にっこりと微笑みも添えて。




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