第13話 約定《コントラクト》
エミリアが俺の子じゃない⋯⋯。
アルベルトから明かされた事実は、カミラの浮気を超える衝撃だった。
孤児だった俺に、やっとできた家族。
それはまやかし──偽りの十年。
そう、家族ゴッコをしていのは、俺だけだった⋯⋯。
俺の様子に気を良くしたアルベルトは、さらに言葉を続けた。
「あの子には一年前に事実を告げてある。何て言ったと思う? 『王子様の子供だなんて凄く嬉しい!』だってさ」
一年前。
そうか、これで俺が悩み続けた疑問も氷塊した。
エミリアは俺が本当の父親じゃないと知り、あんな態度へと豹変したのだ。
そりゃそうか。
孤児からの成り上がりと、王子。
どっちがいいか、なんて誰でもわかる話だ。
ならば⋯⋯当面はこの国に用はない。
「わかった、ならば俺は一人この国を出て行こう」
「ああ、そうしてくれ⋯⋯と言いたいところだが、口約束って訳にもいかないだろう?」
アルベルトはニヤリと笑みを浮かべると、懐から未使用の誓約書を取り出した。
「
「ああ。お前の気が変わって戻って来られても困る」
「心配性だな」
「お前相手なら、どれだけ心配しても足りない」
アルベルトは、鉄格子の隙間から誓約書を中に投げ入れた。
俺はそれを拾い上げてから質問した。
「条件は?」
「二度とこの国に戻って来るな。その代わり、お前の罪状は公に布告しない⋯⋯噂が流れる分については責任持てんがな」
「わかった、それでいい」
どうせ俺がこの国を捨て、他国で活動すれば様々な憶測が飛ぶのは避けられない。
なので布告されても構わないが⋯⋯まあ、秘密にして貰った方が、多少は今後の活動もしやすいだろう。
「王子アルベルト暗殺未遂の咎により、ヴァン・イスミールは約定を結ぶ。王都より立ち去りしのち、二度と
「ちっ、命がけか⋯⋯まあいいだろう。約定を受け入れる」
互いに約定の履行を宣誓すると、誓約書に宣誓通りの光文字が浮かんだのち、燃え尽きた。
これで
「これで枕を高くして寝られそうだよ。お前がいなくなればせいせいする。手続きが終われば解放してやるから、そこで待ってろ。」
思い通りに事態が進む事に、アルベルトは勝ち誇るようにいいながら立ち去ろうとした。
その背を見ながら、俺は笑みが零れるのを感じていた。
バカめ。
リスクを負ったのはお前だけだ。
約定を司る神は強力だ。
もし約定を違えれば、罰は確実に発現する。
だからこそ、仮に破っても『死ぬ』ではなく、『死に至る呪い』と設定した。
アルベルトは──俺が『呪い無効』だと知らない。
そもそもこの特性に気付いたのはパーティー解散後だ。
しかも今回ガルフォーネとの戦いで、半神でさえ殺す呪いさえ効かないと立証された。
『死に至る呪い』なんて俺には効果がないのだ。
だがアルベルトは、呪いが発現すれば死は免れないだろう。
約定は両者の合意があれば破棄できるが、今回に限れば俺だけが一方的に破る事ができる。
アルベルトとカミラは計画が上手くいったと喜ぶだろう。
だが、俺はそこに罠を忍ばせた。
約定をあえて結んだのは、奴らを油断させるためだ。
今は一旦勝たせてやろう。
だがこのままで済ます気はない。
俺から十年を奪いコケにした、その報いは必ず受けさせてやる。
──俺がこの国に戻ってくるその時が、お前やカミラが破滅する時だ。
行き先は決まっている。
俺がバーンズ老に拾われた国、帝国だ。
あそこには、執事を引退したカルナックがいる。
元帝国騎士の彼なら、それなりの伝手があるだろう。
もし帝国で権力の中枢に食い込む事ができれば、アルベルトと皇女の婚約にも何かしら働きかけが可能になるハズだ。
いや、どんな手段でもいい。
今回の約定は、その布石。
二人には──必ず報いを受けさせてやる。
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