打てよ魂、響け勝鬨③

コォン……!


「取られた!?」

「浅いか!」


俺と悟の驚愕と惜しむ叫びが重なる。


奴は俺が球種を変えてくるだろうという読みの裏をかくつもりで、一球目と同じフォークを投げたんだ。


なので俺は先程よりも下から掬い上げるようにバットを振ったのだが…直前で振り方を変えたからかあまり勢いが乗らなかったらしい。


ホームランとはいかず、ホームベースの範囲超えて二塁の少し後ろへと落ちる。


「紳人!」

「了解!」


その挙動を見守る前にコンの一声で弾かれたように走り出した。


軽く風を切る音を耳にしながら、速攻で一塁を回り二塁へ向かう。


「っ!」


しかし予想よりも捕球が早く、ボールが飛んでくるのが見えたので二塁を踏んだ瞬間に急制動。その場に踏み留まる。


一拍遅れてセカンドがボールをミットに受け取った。


判断を誤っていたら、今頃アウトを取られているか二塁と三塁の間で翻弄されていたね……。


「ツーベースヒット、ホームランはならずでも塁に出たから良しとしよう」

「盗塁したらゆるさねぇからな!」

「ルール上アリなのに!?」


発破をかけられるも素直に従うつもりはない。


奴の手からボールが少しでも離れた瞬間、全速力で三塁を踏んでみせる!


腰を落としていつでも走れるよう待機しながら、次のバッターは誰になったのだろうと見守っていると果たして彼女は現れた。


「紳人〜!見てておくれ〜!」

「次はコンなのか。頑張れ、ファイトだよ!」


帽子を被りぺたりと耳が伏せられた体操服姿のコンが、バッターボックスから片手と尻尾をブンブンと振って此方へアピールする。


手を振り返してから両手をメガホンに見立てて檄を飛ばした。


「柑ちゃんには悪いが、此処でアウトを取って無失点で抑えてやるぜ。そらよっと!」


悟なりの配慮なのか、遠心力を利用した下投げでキャッチャーミット目掛けて投球。


今だ!仮にコンがストライクを取られてもギリギリ間に合うはず!


……なんて考えていた俺は甘かった。


「ほぉれ」


さらりと流すかのような挙動で振るわれたバットが一瞬真芯でボールを捕らえたかと思えば。


キィン!!……ガァン!!


『え?』


辛うじて影が見える程度の速さで、それは何処かへと飛翔する。


そして1秒後。遠くで音を響かせながら、グラウンド端の鉄のネットへボールは思い切りめり込んだ。


コン以外の全員が呆気に取られ声を漏らす中……コンは、ただ一言。


「ふむ。ちと、やりすぎたかのぉ?」


バットを木こりの斧のように肩に乗せゆらりと狐の尾をしならせながら、ニヤリと口角を吊り上げ不敵に笑うのだった。


文句なしのホームランである。


〜〜〜〜〜


結局、その試合で打順が来ればコンは敬遠され2-1で俺たちAチームは悟たちに勝利する。


「まさか柑ちゃんがあんなに野球上手だったなんて!」

「めっちゃ驚いたぜ…紳人悔しくないのか?女の子の柑ちゃんに負けてるぞ?」

「同じチームだから良いんだよ!」

「むふふ、紳人も頑張ったものな〜」


その後の自由時間でいつもの面々が集まり、未子さんが目を輝かせ俺は悟に耳の痛い小言を頂戴した。


コンに金色の瞳で見つめられながら脇腹をつつかれくすぐったくて軽く身じろぎをしてしまう。


「でも、本当に…凄いよ、柑さん…」

「ありがとのぅ♪まぐれじゃよまぐれ」


ぷにぷにと俺にしか見えない尻尾でコンに頰を突かれながら、俺は暫く話題の中心になったコンを側で見守った。


……というより、もふもふを堪能するのに集中しすぎて話を振られない限り口を開くことができなかった。


もふもふ、もふもふぅ!!

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