打てよ魂、響け勝鬨④
「……とまぁ、そんなことがあったんだ」
「楽しそうで良かったです。次は私も理由付けて参加させてもらいましょうかね?♪」
「俺への集中砲火が増しかねないので許してください!」
今日の授業を終え、三人で帰宅した俺たちはその日あった出来事をゆったりと話し合っていた。
話題は先程の野球へと移る。
「そういえば紳人。お二人のチームのキャッチャーとピッチャーは誰が担当したんですか?」
「あぁそうか。金網までコンがホームランしたところまでしか話してなかったね」
「わしがピッチャー、紳人がキャッチャーじゃな」
アウトを取られチェンジになり守備側になった際、誰がその二つを担当するかとなった際その場でコンがピッチャーに半ば強制的に決められた。
ならばとコンはキャッチャーに俺を指名してきたので、喜んで引き受けた訳だ。
「なるほどなるほどぉ……」
ウカミは俺たちの話を聞くと、赤い瞳を細め白銀の髪と尻尾を揺らしながら数回頷く。
何だか意味深で、少しドキドキするなぁ。
彼女が次に何を言うか思わず俺も膝の上に座るコンも固唾を飲んで見守った。
「……」
しかし。彼女はただ、優しげな微笑みで俺たちを見守るばかり。
「のう、ウカミ」
「はい?」
「どうしたのじゃ。何か言いたいことがあるのならば、遠慮せずとも良いのじゃぞ?」
堪え切れずコンの方から催促する。
すると…ウカミは寧ろそれを待っていましたとばかりに、ゆらりと艶やかに尾を揺らした。
更に人差し指を立てて自分に改めて注目を集め、ついにその口を開く。
「野球ではピッチャーとキャッチャーはお互いの信頼関係が肝となります」
「投げる側と受け取る側の息が合ってないと、ミットに止められずバッターを類に出しかねないもんね」
「その通り。故に、その絶対なる信頼関係を……時として夫婦とも呼ばれるのです♪」
「「何ィ!?」」
2本の尻尾で俺とコンを示すウカミに、俺もコンも目を見開いて驚いてしまった。
何も知らずに組んでいたけれど、まさかそんな正しくな呼称が存在していたなんて。
もしかしたら、野球の神様が微笑んでくれたのかもしれない。俺は心の中で手を合わせた。
「ふふ……わしと紳人は、どうあっても結ばれる定めのようじゃなぁ♪」
「俺も嬉しいよ、コン。嬉しくてしょうがない」
「あらあら、お熱いんですから」
此方へ尻尾で俺の頰を撫でながら振り返り、固く首へと腕を回してくるコン。
その金色の瞳に見つめられながら橙色の髪や狐の耳尾を堪能していると、愛しさが溢れて止まらない。
それを見てウカミも頰に手を当て微笑み此方へ近付き、俺たちの頭を撫でてきた。
「うゃ〜♪」
「よしよし♪」
彼女の手は凄く温かくて……本当に、慈しむように柔らかで。
「家族って良いなぁ」
無意識の内に、ポソリと呟いてしまっていた。
「何を他人事のように。お主もわしらの家族じゃろうて」
「一線身を引いたように見られるほど、私たちの尻尾は小さくありませんよ?」
「あぁ、そうだったね。俺は本当に幸せだ」
キョトンとする
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