第72話

打てよ魂、響け勝鬨①

4月23日、火曜日。


三毛猫迷わされ事件から翌日経ったこの日の午後の6限目。つまりその日最後の授業は…体育。


そんな時間で俺たちは何をするかと言うと…。


「プレイボール!」

『お願いしま〜す!』


皆大好き、野球だった。


〜〜〜〜〜


遡ること10分前。5限目の休み時間になった俺たち男子は早々に着替えを済ませ、校庭に集まっていた。


「今日は…確か校庭では野球、屋内ではバスケだったね」

「俺たちは野球だからな、頑張れよ。飛ばされたり投げられたり痛いだろうが」

「君はもしかして俺がボールだと言いたいのかい?」

「一度くらい良いだろ」

「その一度で全部終わるよ!?」

「これで終わらせる!!」

「全力で行くぞ!!」


これが俺たちの最終戦争fighting climaxだ!!


「ふ、2人とも落ち着いて…!」

「「明!」」


わたわたと渾身の一撃を放とうとした俺たちの間に入り、身を挺して止めた明。


その姿はさながらマサラタウンのこの少年。


「とりあえず、皆で…チーム、決めよ…?」

「そうだな。試合の時間が短くなっちまう」

「折角なら双方一巡はさせたいものね」


明の言葉に我に返った俺たちは、少しずつ増える女子たちも交えて混合チームを組み始める。野球を選んだのは男女合わせて10名なので、5vs5に分けられるね。


俺、コンは同じAチームで未子さん、悟、明は敵のBチームになった。この際、俺とコンの強い要望があったことはお察しだろう。


「お前が打席に立ったその時が最後だ、紳人!」

「悟…その気合いごと遥か遠くに浮かぶ星にしてくれる!」

「とてものどかな体育の授業とは思えぬ会話じゃな」


斯くして、戦いの火蓋は切って落とされたのである。


〜〜〜〜〜


プレイボールの宣言と共に挨拶をして、体操服姿の面々が其々のポジションに付く。


まずは俺たちAチームの攻撃だ。


5分の相談タイムがあるので此方はバッターボックスで、Bチームはピッチャーマウンドにて作戦会議を行う。


「打順はどうする?とりあえず1番を出せばその間に2番3番と決めれば良いから」


俺はチームメンバーであり以前俺との大捕物を演じたことのある中田くんや、バレンタインのドッジボールトーナメントの時にコンたちと組んでいた田舞さんや鈴風さんに訊ねた。


「向こうは多分悟がピッチャーだな。俺か紳人が最初に行って、お互い感覚を掴むのが良いと思うぜ」

「そうだね、いきなり女子に任せるのも忍びないし」

「私たちは大丈夫だけど〜」

「男子がそこまで言うなら、かっこいいところ見せてもらおうかな。ね、柑ちゃん」


嫉妬に狂っていなければ冷静な中田と頷き合い、のんびりやな田舞さんと勝気な鈴風さんも賛同してくれる。


鈴風さんが覗き込むようにコンへ話しかけると仰々しくうむと頷き腰に手を当て、俺にだけ見える耳尾を揺らしてから口を開いた。


「行けい紳人よ、早速一点もぎ取って来るのじゃ!お主ならば絶対出来る…信じておるぞ!」

「任せて!此処でいきなり先制点を取って、勢いを付ける!」


ビシッと手を突き出し全幅の信頼を思わせる金色の眼差しに微笑みを返し、バットを握る。


そのまま俺は、バッターボックスへと立ち予想通りピッチャーを務める悟と対峙した。


今回の野球は人数が少ないので、表裏で6回かつ1アウトでチェンジだ。


色んな意味でこの打席…負けられない!


「行くぞ紳人、殺人ボールでお前をデッドアウトだ!」

「待って!野球にはデッドボールかアウトしかないから、そんな物騒なルールは存在しないから!」

「うおおおお!」

「話を聞いてよぉ!?」


問答無用と構える悟を前に、俺に出来るのはバットをしかと握り腋を締めることだけだった。

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