招く神、招かれざる者④

「……つまり、最近猫神様の像の話が流れ始めたのもあの男子生徒がいつも以上に道に迷ったのも君の気まぐれってことだね?」

『そうだ!分かったらさぁ、この猫又の神様たる我輩と遊べぇ!話を出来る奴は随分と久しぶりなのだっ』


猫又ってそういうのだったな…でも、あれ?


「猫又であることは疑いようも無いがのぅ。お前様、妖怪や空想上のものではないのか?」

『いやぁそれが、猫好きの者たちが長年我輩を拝む者だから信仰が集まったみたいでな。


猫又の像と気付かず崇められたものだから、猫又の神様として生まれてしまったのさ』


俺たちが抱いた疑問の答えを、三毛猫が猫又を揺らし二本足で立ち上がって猫の手を組みながら、やや面白そうな声音にて話してくれた。


因みに猫又と化け猫の違いは"長く生きたことにより得た力を振るう"か、"恨みなどの怨念により得た力を振るう"かの違いがある。


今回の三毛猫の場合長く敬われたことにより猫又の神様として力を得た、という訳だ。


俺はそう納得すると、早く早くと待ち焦がれた様子の三毛猫に意識を向ける。


「遊ぶのは良いけど…それなら霧で迷わせなくても」

『何を言う。お前が我輩を置いて早々に帰ろうとしたのだろう』

「そうだけどまさか、君が神様だとは思わなくて」

「おい待て。その口ぶりじゃとわしが此処にいるのは」

『近くに居たからだな。本当ならその人間だけを招くつもりだったのに』

「わしが紳人の側を離れることは9割無いわ!たまに離れてしまうこともあるゆえ、絶対と言えぬが…」


悔しげに視線を落としたコンが、俺の左腕を巻き込むように抱き締め腰に尻尾を巻き付けてきた。


仄かな花の匂いと何処までも素直な彼女に癒され、無意識のうちにその橙色の髪を撫でる。


『まぁ何でも良い。もし遊んでくれるなら…好きなだけ吸っても構わないぞ?』

「ね、猫吸いを当神から許可された…!」

「駄目じゃぞ紳人!吸いたければわしの尻尾を幾らでも吸って良いのじゃ!」

「もふもふぅ!!」

『狂っているな…』


正気だからと返したかったが、もふもふに狂っている自覚はあるので何も言うまい。


「そういえば」

「『む?』」

「三毛猫、君って名前あるの?あと人間の姿にはなれない?」

『我輩は猫又である!名前は』

「無いんじゃな」

「無いみたいだね」

『無いが先に言われるとにゃんだかなぁ!?』


三毛猫が頭を抱えてうにゃうにゃしている姿は可愛らしいが、尻尾が2本だしにゃんと喋っているから不思議なんてレベルじゃないな…。


コンと微苦笑を交わしながら彼女?を眺めているとのそりと起き上がり、ぽふりとその場に座り込む。


『ま、まぁとりあえず名前は無いから相当酷くなければ何でも良い。それと人間の姿だが…あるにはある』

「ほう」


つい興味が湧いて声を漏らすと、キッと隣から鋭い視線を向けられ思わずたじろぐ。


『しかし、我輩は良いが人間の姿の我輩が猫の動きをするのはお前が気まずいのではないか?』

「あ〜……確かに」


老若男女問わず人間の姿で撫でたりじゃれるのを見るのは面白すぎるし、何より女の子かつスカートだった場合が一番の問題だ。


俺はコンに対して申し訳が立たないし、何度臨死体験するかわかったものじゃない。


「猫の姿でお願いします…」

『うむ。まぁ吾輩としてもこの方が楽だからな』

「もしお主が人の姿を、など言おうものなら…その場でお仕置きするところじゃったぞ♪」

「危なっ!?」


冗談でも言わなくて良かった!


内心でカタカタ震えながら、俺はコンと一緒に三毛猫と暫し遊び夕方になる前に解放される。


去り際に教えてもらったんだけどどうやら噂を流したのは気まぐれに加え、信仰心を集める目的もあったらしい。


なので、俺たちは三毛猫の噂と三毛猫自身は見守ることにした。


ウカミやコンの目の届く範囲に居てくれた方がお互いにとっても良いはずだからね。俺も微力だけど、何かあった時は手助けしたいし。


「しかし、お主が振られた尻尾に飛びつくのも尻尾を振るのも…わしだけじゃからな!努々ゆめゆめ、忘れるでないぞ!?」

「勿論。愛しているよ、コン」

「紳人ぉ♡」


俺たちの日常に、また一つ新しい縁が結ばれたのだった。


これからのコンと過ごす日々は…どんな色をしているのだろう?

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