招く神、招かれざる者③

「迷う…だって?迷うも何も、此処までは殆ど真っ直ぐだったろう?」

「えぇ!?凄い迷路みたいだったじゃないですか!もう帰り道もわからないくらいですよ」


今度こそ信じられないとゆっくり立ち上がりながらも驚いてみせる男子生徒。


何かがおかしい。俺たち3人は思わず顔を見合わせた。


もしかしたら…いつの間にか、不思議な空間に迷い込んでしまったのかもしれない。


或いは、彼の後ろにある猫神様の像が関係しているのか。警戒しながらも俺はウカミへ視線を向けた。


「ウカミ。彼を学校まで送ってあげよう。先生が連れ戻したとあれば誰からもお咎め無いだろうし」

「そうですね、まずはそれが良いでしょう」

「ありがとうございます!帰り道も分からず、もう猫と一生を過ごすしかないかと…」

「大袈裟じゃなぁ」


コンが男子生徒の反応に微苦笑を溢す。


やはり道のりに関しては思うところがある…けれど、その違和感の正体は何となく予想が付いた。


恐らく彼は方向音痴だ。自覚はなさそうだけど。


しかし猫神様の像に祈れば猫に囲まれるという噂を信じて、それでも此処までやってきたのだろう。


「今回、神様は関係していないのかもしれないな…」


ポツリと独り言を呟きながら警戒を緩め、その像と周囲の猫たちを眺める。


猫神様の像もただ見つかっていなかっただけ、猫が集まるのも日当たりが良くて居心地が良いからかな。


「帰ろうか。特に問題はないみたいだし」

「そうじゃの…そうするか」

「さ、此方ですよ♪」

「はい!」


金色の瞳を浮かべ尾を揺らしたコンと頷きを交わし、ウカミと男子生徒を先頭に猫神様の像に背を向ける。


その時。


『にゃ〜ん』


いつの間にか俺の足元には先程まで男子生徒が撫でていた三毛猫が座っていた。


琥珀色の瞳を向けながら可愛らしく鳴く様は、なるほど確かに可愛らしくて囲まれたくなる。


「ごめんよ。また今度遊んであげるから」

『何だ、我輩とは遊べないか』

「凄く残念ながらね…んん?」


不意に聞こえた知らない声に、自然と相槌を打ってからおかしいと気付き目を開けた。


俺の近くにはコンしかおらず、ウカミの声でも男子生徒の声でもない。


この澄んだような声は…女性の声。


となると、その声の主はまさか!?


『まぁまぁそう固いことを言うな。固いのは蒟蒻だけで良いにゃん』

「にゃんって言った!コン、この猫にゃんって言ったんだけど!?」

「ただの猫ならばまぁおかしなことではないが…流石のわしも驚いたのじゃ」


その手で顔をくしくしと洗いながらにゃんと話す猫『らしすぎる』猫に慌てて立ち上がる。


うぅむとコンが唸りながら耳と尻尾を軽く立ててその驚きを露わにする中、少し離れたウカミが?と尻尾を曲げながら男子生徒と共に不思議そうな表情で此方に振り返った。


「どうしましたか?」

「あ、いや、それがね」

『えいや』

「なっ!?」


三毛猫がぽふっと空中の何かを押すように前足を伸ばすと、何処からともなく霧が現れ瞬きの内にウカミたちを隠してしまう。


慌てて駆け出し、触れても大丈夫という直感を信じて霧を駆け抜ければ。


---そこに、ウカミたちはいなかった。


『安心せい。どちらかと言うとのはお前たちの方だ』

「やはりお前様は、猫又か」

『如何にもタコにもヒラメにも!』

「軽快に韻を刻むでない!」


呆然としている俺の後ろでは、コンがどうやら猫又らしい三毛猫と賑やかに会話する。


「いやいやコン。猫又って尻尾が」


振り向いた俺の目に映るしゃがみ込んだコンと……三毛猫の2本の尻尾。


「2本あるぅ!?」

『うむうむ。お前は良い反応をするのう♪』

「それには同意するのじゃ」


目を丸くする俺に満足げに頷く猫又と、何故か誇らしげに腕を組むコン。


不意に祠を見れば猫神様の像は綺麗さっぱり無くなっていた。


『さぁ!我輩と遊べ!噂を流したのも、暇だったからだしな!』


どうやら俺たちは、見事にマヨイガへ誘い込まれてしまったらしい。

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