招く神、招かれざる者②

「災難じゃったな…」

「流石に死を覚悟したよ」

「大変でしたねぇ」

「「元はと言えばウカミが!」」

「きゃっ〜♪」


午後は2時間続けての体育で、テニスでは悟がホームランされたり俺が気合いで相手のスマッシュを自分の手元に引き寄せたりした。


そして今は放課後。例の噂について相談すると、「早速行ってみましょうか♪」とウカミの鶴の一声により俺たちは裏山へと足を踏み入れている最中である。


「もう、良いではありませんか〜刺激も大切ですよ?」


そう言って白銀の耳と尻尾を揺らす我が姉兼先生ことウカミ。


今回の騒動の原因は、例のお泊まり会で彼女が提案した罰ゲームに寄るところが大きい。


あの罰ゲームが無ければ今頃俺は平穏な学園生活を送っていたはずなんだ!


「いや、それはどうかのぅ?」

「……だよね」


言ってみたは良いものの、コンの金色の瞳を細めた訝しげな表情に指摘されて思い返せばそれも怪しいところだった。


まぁそれはさておき。


あの無神の社も通り過ぎ、周囲の木々も殆ど桜が青い葉に隠れつつあるほどに生い茂ってきた。


もうそろそろ奥といっても過言ではないのだけれど…。


「ん?」


早くも今日帰ったら晩御飯を何にするかで盛り上がるコンとウカミ。彼女たちを見守っていたらその奥…つまり、左奥に人影がチラついたような気がした。


「どうしました、紳人?」

「こんなところに誰かいた気が」


日差しの差し込む幻想的な木々の隙間を縫うように通り抜ける。


枝が目に入らぬよう腕で目元を庇いながら、制服が傷つかないよう少しずつ進んだその先に居たのは。


『にゃ〜ん』

「えっ…」

「おぉ、見事に猫の楽園だ」


大社高校うちの制服を着た男子と、彼を中心に取り囲んだ色とりどりの毛並みの猫たちだった。


此方を神様でも見たかのような顔で見上げるしゃがみ込んでいる彼の手にすりすりと三毛の猫が擦り寄っている。


どうやら悪い人物ではないらしい。いや、本来は立ち入り禁止の此処にいるのは良くないことだけども。


「安心して欲しい。俺もただ、噂の猫神様の像に祈りたくなっただけだよ。君が此処に居たことを言うつもりはないから安心して」

「あ、えと…」


俺の発言に、何処か反応が薄い。少し疑問を感じながらも少しふざけるような感じで話を続けた。


「だって言うまでもなく先生は此処に居るからさ」

「どうも〜♪宇賀御です!」

「良くないじゃないですか!?」


俺は彼の顔を知らず、彼も俺の顔を知らないから互いに別学年だと判断しそれに応じた口調で会話する。


俺の右側からひょっこりと顔を出して茶目っ気を見せる宇賀御先生。


「何じゃ、神ではなかったのか。神の気配ばかり探っておったから気付かなかったのじゃ」

「こ、柑さん!」


反対に左側へ並び立つ俺の同級生柑ちゃん。


彼女たちを交互に見て目を丸くする彼は、最後に再び俺の顔を見て驚きの表情で口を開いた。


「皆さんも…迷われたんですか?」

「迷う、だって?」


彼に擦り寄っていた三毛猫の琥珀色の瞳が、俺たちをまじまじと捉え見つめていた。

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