第71話
招く神、招かれざる者①
「紳人、明。こんな噂話を知ってるか?」
「興味無いね」
「いや話くらい聞いてくれよクラス1st」
「ごめんごめん。でも悟が噂話なんて珍しいね」
4月22日月曜日。退屈な午前中の授業を終え、お昼ご飯を食べ終えた俺たち。
昼休みとなった時間の中でたまには女子会じゃ♪と、コンはウカミや未子さんと一緒に真奈ちゃんを迎えに行った。
寂しくはあるがこの寂しさも再会した時のスパイスということで今は別行動中。
向こうが女子会なので、俺たちは自然と男子会を開いている訳だけど…開口一番悟は珍しい話題を切り出した。
「うん。僕も、そう思う。それで…どんな噂なの?」
「あぁ、何でも裏山の奥深くには小さな祠があってそこにある猫神様の像に祈ると」
「願いが叶う?」
「何処からともなく現れたもふもふな猫に囲まれるらしい」
「野良猫かなぁちょっと俺行って調べてくるよ行くぞぉ!!」
「落ち着けぇ!裏山はあの社までしか入れないだろうが!」
その噂の真偽は是非とも確かめなけれならない。立ち入り禁止の場所の噂なら、他の生徒が立ち入らないように大元を正さなければ。
そう、これは決して独善的な理由からじゃ無い!俺は、俺はぁ!
「それでも、モフりたい世界があるんだぁ!!」
「ね、ネコ•ヤマト…」
明のネーミングセンスは今日も光っているようだ。
多分、その人物が好きな猫は黒猫だね。
「諦めろ!言っとくけど俺は諦めるのを諦めねえからな!?」
「ちぃ…分かった。此処は身を引こう」
「噂一つでそんなになってどうすんだよ…」
暫く抵抗を試みたものの、膠着状態で埒が開かない。隣であわあわとしている明が巻き込まれてしまう前に、大人しくしよう。
でも、猫神様の像のある祠なんて聞いたことないな。
前回未子さんと掃除に行った時も気配なんてしなかったし。猫神様というくらいだから、隠れるのが得意なのかも?
「まぁそんな噂があるってだけだ。もしかしたら狂ったやつが幻覚でも見たってだけかもしれねぇ」
「狂いすぎ、かな…」
「全くだね」
「お前が言うなお前が!」
「失礼な。俺は幻覚なんて見てないよ、ただ狂おしいほどにモフモフが好きなだけだ」
「十分おかしいだろ!?」
やや納得いかない…が、今はまだ昼休み。
またいきなり早退みたいなことになって、次に学校を来た朝心配の声を頂戴するのは心が痛む。
「後でコンとウカミに相談してみるか…」
「?」
「あぁ、何でもないよ明。独り言」
「そうだぞ明。此奴は浮かれポンチだからな、気にしなくて良い」
「辛辣だなあ!?」
「うるせぇ!俺は今でもお前が柑ちゃんや宇賀御先生と一つ屋根の下で暮らしてること、許してねぇからな!!
この前のお泊まり会なんて宇賀御先生や柑ちゃんとべったりくっついてさぁ!」
『何ィ!?』
まだ許してもらえてなかったらしい俺の境遇にやいやいと捲し立てる悟は、あろうことかついに春休みに行ったお泊まり会のことを暴露してしまう。
なかなかの声量だったので教室にいた男子たちが血相を変えて次々に立ち上がった。
机に突っ伏して完全に寝ていたはずの男子さえ、跳ね起きて指を鳴らしている始末。
「新しい噂を立ててやる…お前を磔にして恨み倒したら春が訪れるってな!!」
「俺を伝説の木扱いするつもりか!?有機物という括りしか合ってないぞ!」
「そういう、問題…かな…?」
明が微苦笑を溢すのを皮切りに、一斉に迫り来るゾンビと化したあんなに一緒だった仲間たち。
「ちゃんと告白しないと幸せにはなれないんだぞぉ!!」
『羨ましい恨めしい!何でお前ばっかりぃ!』
怨嗟の籠った叫びを背に受けながら弾かれるように廊下へと逃れ、振り返ることなく一目散に逃げ出した。
『またやってるよ…』
『おい、お前も行くぞ!我らが柑ちゃんに狼藉を働いたらしいぜ!?』
『紳人許すまじ!』
微かに耳で捉えたけど、どうやら次々と尾鰭がついていらぬ怒りを買っているらしい。
通りで逃げるたびに敵が増えている訳だ。
「猫神様…その猫たちで、彼らの怒りをお鎮めください!」
『待てごらぁぁ!!』
「ひぃぃぃ!」
本当に存在しているか分からない神様に縋るほど、俺を狙う彼らの怒りは恐ろしかった。
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