心繋ぎ、進め進め④

「それでは」

「うん。任せ」

「不束者ですが、よろしくお願いします…♪」

「大袈裟すぎる!!」

「許可を取り消してやろうかのぉ!?」

「冗談ですよ〜」


本当に冗談だよね…?


いきなり心臓に悪い冗談を向けられながらも、俺に背中を向けたウカミの2本ある尻尾の片方に手を触れる。


コンの尻尾は極上のもふもふ。しかし、ウカミの尻尾も負けていない。


流麗な手触りは改めて櫛を入れなくても良いのではないかと思うくらいだ。


「私も自分の尻尾は自慢ですから♪」

「お互いの自慢の尻尾に櫛を通し合ったこともあったのじゃ。もう片方は、わしがやろうか?」

「嬉しいです!お願いしますね」


ウカミがソファの中心に座り俺たちが左右に分かれると、そこから改めてウカミの尻尾を思い思いに梳いていく。


まずは手櫛で枝毛が無いよう丁寧に。殆ど無いけれど、時折絡まっていたり内側で跳ねる毛が見つかるので一つずつ対処。


滑らかな手触りは指を拒むことなく受け入れそれでいてふわふわと何処か弾むような弾力も持ち合わせている。


「気持ち良いですぅ…」

「それは何よりだ。痛かったり、痒いところがあったら教えてね」

「はい、分かりました」

「わしもしっかりと梳くのじゃ!」

「ありがとうございますっ」


ウカミと言葉を交わしてから、さりげなくコンとも視線を交わす。


俺たちにとって大切な姉であり紛れもない神守家の一員であるウカミ。


そんな彼女への、日頃の感謝も込めて俺たちは櫛を通し始めた。


「……♪」


穏やかな休日の朝。


小さく櫛を通す音やウカミの鼻歌、手に包んだ彼女の尻尾の温もりやコンの優しげな笑み。


響めく祭りのような賑やかさも打ち上がる花火のような激しさはないけれど。


差し込む木漏れ日のような温かさが今、ここにある。


「ウカミ、コン」

「「?」」


我慢出来ず、俺はついに口を開いた。


しっかりと…大切な相手の瞳を見つめながら。


「ありがとう」

「…此方こそじゃ。紳人が居るからこそ、今のわしらが在る」

「コンの言う通り。貴方と一緒に過ごせるのは、私たちの誇りであり喜びです」


突然の告白も茶化すことなく真剣に返してくれたコンとウカミ。


彼女たちには、感謝してもしきれない。


父さんや母さんにもだ。後で時間見つけて、メッセージを送ろう。


「はい、終わったよ」

「此方もじゃ」

「ありがとうございます。紳人、コン♪」


コンと息ピッタリに手を離すと、目の前でゆらりとウカミの尻尾が艶やかに動く。


「また、お願いしても良いですよね?」

「コンが良いと言ったらまたやろうか」


ウカミが微笑み混じりに小首を傾げるので此方もゆったりと返すと、不意にコンが立ち上がった。


そしてくるっとソファを回り俺の腕に頬を押し付けるほど密着させて凛と告げる。


「『わしの』紳人じゃということを忘れなければ、その内…の」

「ふふっ。はい、分かっていますとも」


ウカミの心底楽しそうな笑顔に心を和ませる傍ら…腕に当たるコンの体と胸の感触に鼓動が早くなっていき。


「お主が見惚れて良いのは、わしだけじゃ♪」


耳元で独占欲を囁くコンに愛おしさが溢れ、思わず顔を真っ赤にさせてしまった。


「おや?紳人、顔が真っ赤ですよ」

「気のせいです」

「ほれほれ〜お主の、コンの胸じゃよ〜♡」

「恥ずかしいですぅ!!」


やっぱりそれを即座に見抜かれ、揶揄われてしまう。


一瞬抵抗を試みたけれどそんなものは無意味。あっさりと負けを認めざるを得なくなる。


可愛らしくも素敵な笑い声を上げるコンとウカミに、どうしても嬉しくなってしまう自分は敵わないと思いながらも釣られて笑い出す俺なのであった。

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