心繋ぎ、進め進め③
「くぁぁ…」
4月21日の朝6時頃、俺は微睡みの中で目を覚ます。
俺の右腕を枕にしたコンに両足でガッツリ腰を掴まれているので体を起こすことはできない。
尻尾は2人の体に被せられており、心地良い温もりは長閑な春になっても幸せを感じさせる。
「おはよう御座います、紳人♪」
「っ!?お、おはようウカミ…」
寝ていると思っていたウカミに耳元で囁かれドキッ!と心臓が跳ね上が勢いよく首だけを其方へ向ければ、そこには俺を見つめる赤い瞳と微笑みが待っていた。
彼女の白銀の髪や耳尾は、カーテン越しの微かな光でも艶やかに煌めいている。
見るたびについ思ってしまうのは、コンを太陽のような可愛い神様でウカミは月のように綺麗な神様だということ。
そんな彼女が至近距離で添い寝のように横になっているのは…正直、色々と危うい。
「どうしました?」
ウカミが此方の心を読むかのような真っ直ぐな瞳を丸くする。
その際、軽く身じろぎして彼女のパジャマ越しのボディラインをつい目で追ってしまった。
艶かしい首筋に魅惑のお胸、くびれのあるお腹に色っぽい腰付き。
「何でも、ないです」
「そうですか…ふふっ♪」
そんなウカミから自然体を装って天井へと視線を逸らす。
俺の努力もまるで全て分かっているかのように微笑みを溢すものだから、心は何処か落ち着かない。
「ん…ぅゃ…」
その時、懐から可愛い声が聞こえてくる。
今度は其方へと視線を送ると、愛しのコンが夢でも見ているみたいに耳をゆっくり揺れ動かしていた。
あぁ癒される…女の子の寝顔をまじまじと見るのはマナー違反かもしれないけど、婚約者特権で許して欲しい。
「可愛いですよね、コンの寝顔」
「うん。ずっとこうしていたいくらいだ」
ウカミが優しく話しかけて来た。俺もそれに相槌を打つけれど、すぐにいや、と首を振る。
「このままだったらコンと言葉を交わせないし目を合わせてもらえない。俺はコンに可愛がられる人形でいて欲しいんじゃなくて、共に愛し合う伴侶でいて欲しいんだから」
「……」
「なんて、大袈裟だったかな」
ウカミからの返事が無いのでただの日常会話で気持ちを出しすぎたかと、つい誤魔化すように一言付け加えてしまう。
やがて聞こえてきたくすっと笑みを溢す吐息に内心で身構えた。
「そんなわけ無いじゃろ♪」
「え?ぅぇあ!?」
けれど、返って来たのは左からではなく右。
つまり…コンから。
変な声が出てしまったのは囁き声にビックリしたことと、直後にチロリと舌で舐められたからである。
ゾクゾクと背筋に刺激が走る中、俺の両頬はコンの手に包まれ気が付けば彼女の方を向いていた。
「本当にわしは愛されておる…果報者じゃぁ」
「やっぱり…聞かれてるとその、恥ずかしいね」
「良いではないですか。格好良かったですよ?紳人」
「そうじゃぞ紳人。男前じゃな!」
「やめてぇ!俺のソウルハートがぁ!」
左右から揶揄われ逃げ場のない俺は、神々に弄ばれるままに恥ずかしいけれど幸せな朝を迎える。
「……♪」
俺とコンが言葉を交わすたびに隣のウカミは温かく見守ってくれていた。
〜〜〜〜〜
「むふふ、やはり紳人に整えてもらえると自分でやるより数倍綺麗じゃなぁ」
「そう言ってくれたら俺としては色んな意味で鼻が高いよ」
もふもふ好きとしても、コンの伴侶としても。
朝ご飯を皆で食べた後の自由時間の今、俺はコンの尻尾をいつものように丁寧に整え終える。
幸せそうにその尻尾に頬擦りしてくれるものだから嬉しいことこの上無い。
「紳人。私にも…して欲しいです」
それを見ていたウカミは微笑みを浮かべつつも、何処か恐る恐ると言った様子で自身の2本の尻尾を見せる。
「コン」
「ふぅぅむ…うぅぅむ。しょうがないのう、懐を大きく持つのも妻の甲斐性。ウカミにのみ、許してやる。ただし、頻度はわしより絶対少ないのが条件じゃぞ!」
「だそうだよ。どうぞ、ウカミ」
コンについに尻尾の手入れを許されたウカミは、過ごして来た中でトップ3には入りそうなほどの喜色満面の表情を浮かべた。
ウカミの尻尾を手入れする…彼女も勿論、丁寧にしてあげなきゃね。
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