心繋ぎ、進め進め②

「ぅぅぅぅ…」

「コン、どうしたんです?」

「聞かないで欲しいのじゃぁ!」


4月20日の土曜日。


ウカミが夕方に帰ってきて何とか俺も復活し、三人で晩御飯を食べた後の穏やかな時間。


ソファに左からウカミ、コン、俺と座る形なので右端の手すりに軽くもたれかかりながら。


何処かで聞いたようなやり取りに微笑みながら、俺はまだ心地良い疲労の残る体のままコンたちを眺めていた。


コンはやっぱり本能のままに逢瀬を重ねてしまうことが恥ずかしいらしく、抱きしめた尻尾に顔を埋めたままふるふると体を揺らし身悶えている。


「俺は嬉しかったよ?コンに美味しく食べてもらえて」

「もうやめておくれ〜!」


俺がつい揶揄いたくなって一言呟くと我が家のコン様は、はぅぅ!と可愛い声を籠らせながら足をバタつかせて照れ隠しをなされた。


ウカミと思わず笑みを交わしてからコンの耳を左右から撫でる。


「紳人も…」

「ん?」


コンの耳って柔らかいな〜とか手触り気持ち良いな〜とかおもっていると、不意に小さな声で俺の名前を呼んだ。


「紳人も、一つになりたいとわしに夢中じゃったな…?」

「あっいやそれは!」


更にチラリと金色の瞳を片方だけ此方を見つめながらのコンの発言に、俺は一瞬で激しく動揺してしまう。


「あらあら。紳人も男ですね♪」

「くぅぅ…自分で責任と言っておきながら恥ずかしい」

「ふっふっふ、わしを揶揄うからじゃ。愉快愉快!」


此方を見て楽しげに笑う金と赤の瞳を前にして、今度は俺が顔を熱くして照れる番だった。


コンにウリウリと肘で突かれたり白銀の尻尾で頭を撫でられるのは、嫌ではないけど反応に困るね…どうにも恥ずかしくて。


思わず口元を片手で隠し、二神ふたりから視線を逸らす。


「駄目じゃ紳人。目を逸らすことは許さぬ」


しかし、その場でコンの口から鶴の一声が響き術でもかけられたかのように俺は真っ直ぐ彼女を見つめ直した。


「……ズルイよ、コンにそう言われたら…俺は拒めないんだから」

「ほう?わしは術なぞ使っておらんが。つまりお主は自主的に…嬉しいのじゃ♪」


コンがぽふっと俺の胸板に飛び込んで、一言耳元で囁いて俺の頰と自身の頰を柔らかく重ねる。


俺は最早照れることすら叶わず心のままにコンを抱きしめるしか無い。


「私も混ぜて欲しいです!お二人だけ狡いですよ?」

「ふぅむ…仕方ないのう。ハグまでじゃからな!」

「紳人…」

「そんな心配そうにしなくても、コンが許してくれるなら俺は」

「二人とも大好きですぅ♪」


ウカミは喜びが溢れたのか、飛びつくようにして俺とコンを抱き締めてきた。


しかも頬擦りしてくるものだからウカミの魅惑の体ももふもふの耳も、全身余すことなく俺たちに押し付けられる。


り、理性が…強いられているんだ…!


「大袈裟なやつめ。わしらもじゃよ、なぁ紳人?」

「勿論。俺たちもウカミが大好きだよ」

「愛していますか!?」

「グイグイ来るねぇ!それは答えづらいかな!」


至近距離で紅玉石とさえ呼べるほど鮮やかな赤の瞳を向けられ、思わずたじろぐ。


「これ!何をちゃっかりしておるか、側室も第二夫人も許さんぞ!」

「やはり既成事実しかないですかっ!」

「あの補習の授業が今ここで…?」


ソファの上でわちゃわちゃとはしゃぐ、俺とコンとウカミ。


この先何年何十年経ったとしても…変わらず此処は、愛おしく。

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